第二話「Grand Monster World」

暖かい日差しを感じ、心地よい風が俺の肌を撫でる。

目をゆっくりと開いていく。

ぼやけた視界が段々とはっきりとしてくる。

ここが……石畳の道路に賑やかな露店、そして草食モンスターに積まれた物資。



「うひょーー!このグラフィック凄ぇよ!」


そして第一次ログイン戦争を勝ち抜いたプレイヤー達が歓喜を露わにして辺りを眺めている。

確かに……

アクションゲームとしてはかなりグラフィックが綺麗だ。


一昔前、俺が最後にやった4年前のアクションゲームでは素早い動きをするとその処理にCPUが使われていた為、画質はかなり抑えめに設計されていた物が多かったのだが、画質をこれだけ現実に近づいたのはここ数年前のVR技術革命の時だろうか。

VRゲーム開発ソフト『GEAR』がインターネット上に無料で公開されたのが始まりとなった。

そのソフトは今までのどのVRゲーム開発ソフトよりも使いやすく、そして今までの開発ソフトより桁違いに高画質で高フレームレートを叩き出せるソフトだったらしいが誰が作ったかも分からないソフトを企業は使う訳にもいかないと当初はフリーゲーム界隈のみで使われていたが、フリーゲームで人気作が生まれると企業達も目をつけ、このソフトを使い始めたという流れだ。

このソフトによって作られたゲームは新世代ゲームと呼ばれ、無論このゲームもGEARから作られている。


それにしても本当に現実世界みたいだ。

コメント欄をちらっと見るととてつもない速さで流れていく。視聴者数1500人……久しぶりにこの時間帯でこの人数の同接を見た。

それもそうか、ただマッチングしてる画面ばかりでマッチングしても相手が即リタじゃ視聴者なんている訳がない。ここ最近はずっとそんな感じだったからお陰でトークスキルがついたよ、うん。

ってそんなことより今は目の前のゲームを楽しむとするか。


とりあえず目の前にある露店の一本道を進むと、大きな広場に出る。円状に広がっており、食事処から商店、交易船の荷物を抱える個人商人など様々なNPCがいる。

メニュー画面を確認して、『初心者の書』というアイテムを見てみる。

どうやら武器や装備はモンスターの素材や採取によって手に入れるアイテムと金貨を払うことで武具屋で作ってもらうことが出来るらしく、金貨はクエストをクリアしたり、アイテムを売ることで手に入れられるようだ。

そしてスキルは装備によって手に入れることの出来るアーマースキルともう一つ、フリースキルというプレイヤー自身の持つスキルの最大2つのスキルを使うことが出来るらしい。その組み合わせによってプレイスタイルや武器を変えて戦おう……か。

とりあえず金を稼ぐ所から始めるか。資金がなきゃ何も始まらないしな。

俺は意気揚々とオープンワールドのステージへと旅立つ。




すっかり夜になり、アイテム欄は一杯になる。


「そろそろ帰るか」


WOをやっていた時は新作ゲームに目もくれず、ランクマッチをやっていたから久しくこういうゲームをやったが、心から楽しいと思えた。

3年間ひたすら殺し合い同然の雰囲気のまま廃人相手に斬りかかって戦う日々から解放され、肩が軽い。


さっきの広場に戻り、アイテムを確認し終わると伸びをして広場の噴水の近くに座り込む。

今日は採取しか出来なかったけど、明日はモンスターと戦ってみたりもするか。今日は採取の時に他のモンスターに邪魔されたりで散々だったし、武器も作っておこう。それじゃ明日は鍛冶屋と武器屋を見に行って……よし、明日やる事は整理できた。


「そんじゃ、今日はここまでかな。みんなおやすみ」


いつもの配信終わりにする挨拶をしてチアー、ギフトの読み上げをする。


『今日も最高だった〜!』


『久しぶりにK1の配信で笑えた』


チャット欄は勢いを落とさず、流れていく。


「白木さんチアーありがとうごさいます。いつもありがとう!……さてと、それじゃ終わるか」


メニューを開き、『ゲームを終了する』もしくは『ログアウト』の項目を探す。


「あ、あれ?」


おかしい、何処にもない。何周も探してみたが一向に見つからない。


『どうした?』


『ログアウトのボタンないね』


チャット欄でいくつかゲームを終了させる手法を見つけ試してみるも上手くいかない。


「バグか……?」


新作ゲームだから一時的に無くなってるとかそんな所だろうか。俺は一度ログアウトを諦め、ゲームのベッドに横たわる。


「それじゃ、一旦切ります」


一度配信を切り、次の配信の設定を入力していく。し終わって数秒。インターネットの接続が切断される。


「あれ?もしかして接続切れた?うわぁ、まじかよ」


インターネットの接続が悪くなり、いつものエゴサと新作ゲームの情報が……仕方ないか。

やる事もないのでメニューにあるこのゲームの世界観が載せられた読み物などをぼーと眺めていたりで時間を潰す。アイテムや装備といった項目の中で一つ浮いているものを見つける。

『利用規約』

利用規約?なんでゲーム内の読み物に?そう思いながらページを開き、読み進めていく。

…………な、長い。

難しい法律用語ばっかりで何がどういう意味で書かれているのか分からない。しばらく読んでいるが一向に終わる気配がしない。だが何かするといっても特にやる事もないし、疲れ果てて何かする気にもなれない。

そんな中、利用規約を25ページ程読み進めた所である事項が目に止まる。


「何だこれ?被験者について……?」


ゲームの利用規約にまず書かれないであろう事項を見つけ、内容を読んでみる。

【このゲームの利用規約に同意し、ゲームをプレイするユーザーを被験者と呼称する。被験者は——】

俺はその後に続く言葉に身体中の力が抜け、備え付けられていたベッドに勢いよく腰掛ける。


【実験に参加し、実験終了まで被験者の精神と意識はGrand Monster Worldに帰属し、ゲームオーバーになられた場合は被験者は本社の実施される特殊実験に参加する義務を負いますログアウトも可能ではありますが、ログアウトされた場合も実験終了まで被験者の精神と意識はGrand Monster Worldに帰属される為、現実世界へ帰ることが出来ませんのでご注意下さい】


そこには長々と連なる言葉の数々、そしてそれが表すのは

……このゲームの仮想空間から実験とやらが終わるまで監禁されているという事だ。

この時俺は気づいた。

俺はこのゲームに囚われていたのだと。

利用規約にチェックをつけ、ログインしたその時から既に……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る