第一話「ワールズオブザーバー〜World's Observer〜」

俺はゲームに拉致された。それに気づいた時には全てが遅かったのだ……




AIと仮想世界——世界各国で技術開発が進み最初は軍事機械又は擬似的な戦争体験のため、またその次にはバーチャル風俗嬢や仮想世界キャバクラなどの開発が成功を収め、その技術が娯楽……主にオンラインゲームのNPCやMOB、そしてそのフィールドであるオープンワールドの仮想世界にこの二つの技術が導入されるのはそう遠い未来ではなかった。そしてPCに1本のケーブルを接続して頭と心臓部分にデバイスを装着する事で多くのゲーマーが夢見た仮想現実で自分のアバターを、自分の体で動かす。それを叶えるデバイスが開発されていた。

そのデバイスの名はエンターワールド。

2030年12月4日に発売され現在から4年前、つまり2040年には後継機としてUIがより分かりやすく、軽量化したアドバンスエンターワールドが発売されている。

未だに姉のお古のエンターワールドを使っているが、性能は殆ど変わらないためずっと愛用している。

そして今日も相変わらずエンターワールドを装着し、PCにケーブルを接続する。配信サイトを開き、テスト配信の準備をする。


「さて起動、起動っと」


暗い部屋でエンターワールドを起動しながらPCの椅子に座る。

すぐゲームが起動し、俺の意識はゲームに飲み込まれる。

目を開けるといつものように無機質な部屋に着く。

『ワールズオブザーバー』

でかでかと表示されたタイトル名を眺める。

ワールズオブザーバー。通称WOと呼ばれている。このゲームはリリースされて3年経つが未だにサービスが続いているゲームだ。

アクションFPSというジャンルらしいがどちらかというとアクションゲームに近いだろう。

このゲームのウリと言えばチーム戦であるチームマッチだ。

一応ソロマッチも用意されており、俺はそのソロマッチに3年間サービス開始から一人のキャラを使い続けソロマッチに潜り続けている。そして二位とは圧倒的な差をつけて俺は一位の座についている。

今日も今日とてソロマッチのロビーに着き、配信ボタンを押してからマッチングを開始する。


「さて……マッチングするかなあ」


今日は一体何時間待たされるのやら。

そんな事を思いながらロビーの椅子に腰掛ける。


30分程待ち、『マッチングしました』という薄い水色に透過したホロウィンドウが表示される。


「お、今日はかなり早いな」


いつもなら数時間は待たされるマッチングだが今日は人が多いのか?

そう思いながらマッチングを開始し、すぐさま俺はロビー画面からステージに転移する。

桜が舞い散るこのステージは……桜一郎のステージか。

自分の使うキャラのステージは少しだけ気分が上がる。

辺りを見渡していると敵となるプレイヤーが一人転送されこちらを見る。それを見て、俺は背中にある太刀を手に持ち、抜刀する。


「ちっ」


相手の方から舌打ちが聞こえ、相手の接続が中断される。


「はぁ……またか」


まただ。俺の姿を見たと同時に接続切断。もう流石に慣れてきた。

今WOのソロランクマッチで相手とマッチングして数秒までに抜ければポイントが減らないバグが起きているらしく高ランク帯は全くソロマッチが出来ない事態が起きているのだ。ソロマッチは運営も見限っているらしくこのバグの修正はいつになるのやらと言った感じだ。


「はぁーー」


退屈だ。マッチング自体全くしないのにしたらしたで切断なんて……ポイントは貰えるが、何も嬉しくない。

俺はロビー画面に戻され溜息を吐く。


「全体ロビーでも見てくるか……」


俺は個人ロビーを出て、全体ロビーへのポータルに入る。

ポータルを出ると、広場が見えてくる。

広場の中心にあるキャラの3倍はあるであろうデカさの掲示板をぼんやりと見つめる。そこにとあるタイトルが目に入る。


【あの有名クラン『プレデター』が又もやJAPANCUP優勝!!】


「『プレデター』が……そういえばそんな時期だっけか」


このWOでは冬、夏にJAPANCUPという大規模なアジア大会が開かれる。冬といっても3月中旬のこの時期にだが。そしてこの『プレデター』というチーム、このゲームで最も強いとされている有名クランだ。

簡単に説明すると、WOでは名の知れたクランであり、公式大会のチームマッチで未だに優勝の座を他のクランやプロチームに譲った事のない謎多きクランだ。

今尚、競技シーンで活躍しているクランでもあり、そろそろプロチームになるのではないかという噂も立っている。


俺は個人ロビーへ帰り、ゲームを終了させる。現実世界へと意識を戻すやいなやテスト配信を終了させる。

昨日作った新作ゲームのアカウントを開き、ログイン画面に映る。

『Grand Monster world』

でかでかと表示されたそのゲーム名は現在最も注目されているゲームの一つである新作MMOだ。

ふとパソコンの上にある掛け時計を見る。時計が示す時刻は11時をまわり、腹から絞り出てくるように音が鳴る。

よし、飯食べて万全の状態でやろう。



食事よし、シャワーよし、ドライヤーで髪を乾かすのよし。万全の準備でパソコンの前の椅子に座り、エンターワールドを装着する。

WOは少しお休みだ。元々マッチングしない上にしても切断されるならやり続けても意味がない。

……リスナーも全然来ないし。

まだかまだかと待ちながらログイン画面で待つ。59分になり心臓の鼓動が早くなる。配信を開始し、準備は完璧だ。

新作のゲームをやり始めるときの抑揚感はいつ味わっても最高だ。ログインIDとパスワードは既に入力済みパスワードの下の利用規約とプライバシーポリシーにもチェックを入れた。利用規約はこのログイン画面が出た際、一番に出てきたが華麗にそのページを消し、ログインを済ませる。

さらに鼓動は早くなり、変な汗をかく。

もう10秒もないのだろう。

早く早く……気持ちが俺の心臓の鼓動を急かす。

ペットの上の目覚まし時計は56秒もさしている。よし……

俺は赤色に表示されたログインボタンを押す。

ログイン画面がフェードアウトしていき、俺の意識はまたエンターワールドに取り込まれる

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