Chapter11-AIDROID/機械少女VS魂魄生命体




「あぁ思い出した。あなたは歯車はぐるのボウヤと一緒にいたガールフレンドね」



まわるは絶対アンタみたいな殺人鬼なんかに殺させない」



「殺人鬼? いいえ違うわ、私は美食家。食べると決めたら絶対に食べるし、美味への探究に妥協を選ばない」



「それが大迷惑だっつってんのよ! 一体人間に何の恨みがあるって言うのよ!」



歯車はぐるのボウヤといい人間はこぞって同じことばかり言うのね。でも物覚えが悪い割に脳髄は感情エネルギーが濃厚で美味しいというのもまた可愛いわ」


 やはりコイツは人の形をしていても決定的に人間とは違う。

 人間を食糧としか見ていない。

 人間が何を訴えても家畜の一鳴き程度にしか感じていないという事実を見せつけられチョコは戦慄し、一つの結論に辿り着く。



 、と。



「どうしたの? 今になって震えちゃって……フフフ……」



 足がすくんで動かない。

 この女を見ていると嫌でも本能的な恐怖が湧き上がってくる。

 まるで見えない大蛇が身体に巻きつきがんじがらめになっているような感覚。



「なんでアンタみたいな奴が生まれちゃったのよ……有り得ないでしょ……」



「全ては神の……崇高なるギアデウスの意思よ」



 蛇凶じゃきょうは人差し指をチョコの顔に向け、やや勿体ぶるように指を回しながらその指を蛇に変化させた。



「キャァァァァ!」



 威嚇声を上げながら首に巻きついた蛇は、チロチロと舌を出しチョコの顔を舐め回した。


 それはまるで心のメッキを剥がすような行為だった。

 チョコの心の中でみるみる恐怖が浮き彫りになり院内に響き渡るような悲鳴を上げた。



「アハハハハ! その顔よ! その恐怖に叫ぶ顔! なんて愚かで! 惨めで! 美しいのかしら!」



 怯え惑い悲鳴を上げるチョコから恐怖の感情を感じ取った蛇凶じゃきょうはチョコとは対照的に嬌声を上げ喜びを露わにする。



「あぁもう我慢ならないわ……本当は美味しく仕上がったボウヤを食べに来たんだけどアナタを先に頂いてもいいかもしれない。アナタが食べられたと知ればあのボウヤもより美味しく仕上がるに違いないわ!」



「あ……うぅ……」



 首に巻き付いた蛇が更にチョコを締め上げる。

 気道が閉まり悲鳴は愚か呼吸もままならなくなり、苦悶の表情を浮かべた。



 そしてその時、偶然にもチョコのギアシューターに通信が入った。ディスプレイにはまわるの名前が表示されていた。



「ウフフ……これはある意味好都合ね♡」



 蛇凶じゃきょうは更に邪悪な微笑を浮かべギアシューターを通話状態にする。



『チョコ! 急いで病院から離れるんだ! すぐ近くに蛇凶じゃきょうがいる!』



「はぁい、歯車じゃきょうのボ・ウ・ヤ♡」



「じゃ、蛇凶じゃきょう……チョコに何をしている!」



「何って……あなたが中々見つからないから我慢出来なくなっちゃって……ウフフ……」



「ま……わる……? ごめ……ん……ね……」



「チョコ! チョコ!!」



 視界が明滅し薄れゆく意識の中響くまわるの声にチョコは弱弱しく答える。



「一応言っておくけどこれは食事を有意義な物にするための嗜好よ……人質なんてくだらない理由じゃなくてね。それにしてもチョコちゃんだっけ? 可愛いガールフレンドねぇ。私達ギアボーグは人間から漏れ出す感情エネルギーで読心術のようなことも出来るんだけどウフフ……どうやらチョコちゃんはボウヤのことを…………あぁっ!?」



 蛇凶じゃきょうが言葉を言い終わるより先に横から無数の針のようなもので全身を貫かれた。



「こ、これは……何? 身体が……冷たい……ッ!」



 ほとばしる激痛と極寒の冷気が同時に襲う。



 蛇凶じゃきょうは自身の髪の毛を蛇に変化させて体に潜り込ませ、撃ち込まれた物を摘出した。



「氷で出来た針……? マズイ!」



 さらに追撃を受け、氷の針が胸部と今度はチョコを縛り上げていた蛇に着弾した。


 拘束が解けたチョコが地面に倒れ伏す瞬間、瞬足で近づいて来た何者かがチョコを抱き抱えた後、蛇凶の顔面にハイキックを炸裂させた。



「グ……ッ!」



 その衝撃たるやコンビニの棚から棚が次々に薙ぎ倒されてもなお、壁にめり込むほどの怪力。


 とても人間の力で成せることではなかった。

 そしてを行った者が静かに立ち上がり、自身が着ていたメイド服に着いた土埃を払った。



「……っ」



『乙女心を喰いモノにするような不届者はこのワタシが殺害します……とアカメ様は言っています』



「新手の捜査官ですって……? ば、馬鹿な……私の生体感知にかからない人間がいるわけが……ッ!?」



 彼女の名前はアカメ。

 多機能女性型アンドロイド通称AIDROIDアイドロイドの第七世代型であり、G-FORCEジーフォースが誇るエリート捜査官である。



 アカメはまずチョコを安全な場所まで運ぶと、創成因子ホビアニウムから冷気を生み出すアイスメイデンの固有ユニット、極氷構築機関アイスエイジャーを用いて頑強なかまくらを作り、そこにチョコを寝かせた。


 呼吸が安定してきた。意識は失っているが命に別状はなさそうである。



「……っ」



『アストラルネットに接続しデータを照合します。検索中……検索中。

 S級GS犯罪者……蛇凶じゃきょう

 罪状……GS取扱法違反及び大量殺戮、大量破壊行為。銃火器やGS関連品の違法取引exc……。

 凶悪極まりないS級犯罪者のためこのまま速やかな殺害シークエンスへ移行します……とアカメ様は言っています』




「超低温の体とその人間離れした怪力……ある意味あなたも私と同類ってわけか。どうりで生体感知に引っかからないわけだわ。おかげで回避が間に合わなかった」



 既に傷ついた身体の再構築を終えた蛇凶じゃきょうが答える。



「……っ」



『アナタと同類にされるとはあまりにも心外です。ワタシは第七世代型AIDROIDアイドロイドのアカメです……とアカメ様が言っています。尚アカメ様は発話機能に障害があるためこのアイスメイデンがアカメ様の通訳を務めております』



AIDROIDアイドロイド? 心を持たないロボット如きがギアソルジャーを機動したって言うの?」

  


「……っ」



『本来ならば不可能なことです。しかしワタシのギアシューターはG-FORCEジーフォースの技術班が手がけた特注品。人間の感情エネルギーがなくとも外付けの創成因子ホビアニウムチャージャーがあればギアシューターおよびギアソルジャーを起動することが出来ます……とアカメ様が言っています』



「人工的に生み出した創成因子ホビアニウム!? それがこの水のように無色透明な創成因子ホビアニウムの理由……っ! ギアソルジャーの能力といい、あなたは不愉快なのよ!」



「……っ」



『悪癖なのは自覚していますがAIDROIDワタシのシステム上、敵であっても嘘をつけず投げかけられた質問にも律儀に答えてしまうのは考え物……ですね。なので初めにアナタのその下劣な口から殺害しますとアカメ様は言っています』



 蛇凶じゃきょうが飛び出す。

 次いでアカメも飛び出す。


「ギアボロス!」



 まずギアボロスがアイスメイデンを蛇の能力で縛り捕らえた。

 その後、アカメは素早く近づき、蛇凶じゃきょうの顔面に拳を叩きつけた。



「ぐぅ……っ、力もスピードも生身の私と互角以上とはね……でも捕まえた!」



 しかし今度は逆に蛇凶じゃきょうがアカメの腕を掴み、蛇に変化させてアカメを捕らえた。



「これから無数の蛇が、あなた達を締め上げ噛み殺す! さぁ……凶宴の時間よ!」



 一斉に蛇がアカメの体に噛み付いた。

 しかしあろうことか蛇の牙はアカメの皮膚の表面で止まってしまう。



「なっ!?」



「……っ」



『ワタシの骨格は過酷な環境での捜査を行えるよう頑強に設計されています。無論人体に危険を及ぼす毒の類も効きません。毒蛇を召喚しても無意味ですよ……とアカメ様は言っています』



「あなたほんっっとうに不愉快よ! 食べられない上に、殺すことも出来ないなんて最悪だわ!」



「……っ」



『当然です、アナタを確実に仕留めるためにひいらぎ隊長が待機中のワタシに声をかけたのですから……とアカメ様は言っています』



「ま、またアイツの仕業なの……? いつも私達の行く先々に現れては組織の邪魔ばかりして!」



 アイスメイデンも自身の能力でギアボロスが生み出した蛇を凍らせて無力化し、拘束を脱していた。



『さぁ……このアイスメイデンがアナタを永遠の冬眠へ導いて差し上げましょう』

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