第40話 新たな仲間と、一抹の不安

『はいさ〜い、沖縄を満喫中のまさやんでぇす♪』

「おい、どういうことだ」


 陽気に挨拶をかましてんじゃねえぞ、こら。


 加奈と由紀が、こちらを見守る中、俺はまさやんに、由紀がバイトすることとなった経緯を聞こうとしていた。そりゃ、そうだろ? 俺になんの相談も無しに決めたんだからな。一体どういうつもりだよ。


「おいおい……、なんでそんな不機嫌なの?」

「その理由を、知ってると思うんだけどな……?」

「ん~…………、あっ、ステファニーとビーチバレーしてる写メ見せなかったことか!」

「そこじゃない!! なに言ってんだ!?!?」


 予想外の回答だった。ステファニーって!? あっ、あの人か。まさやんが沖縄で知り合った、海外の女性。俺と加奈がバイト初日であたふたしてるときに、このおっさんは海外の美女と、ビーチバレーを楽しんでいたな……、最低過ぎる。


「すごいぞ、ステファニーのさ、ダイナマイトボディ。アタックするとき、ジャンプしたらさ、もうバルンッ! って揺れるんだよ」

「バ!? バルンとか知らねえよ、そんなこと!!」

「あ、そうだな、言葉じゃ伝わんないよな。写メ、送るわ」

「はいっ!?」

「タブレットで確認しといてくれ」

「なっ!? お、おい、ちょっと待てって!?」


 今、店内に置いてあるタブレットにそんな、ステファニーのバルンな写メ送られたら、加奈と由紀に、殺される(精神的に)!!


「大丈夫、大丈夫。ちゃんと、加奈と由紀ちゃんがバイト終えて帰ったあとに送るから。安心したろ?」


 よ、良かった……、それなら、


「って、そうじゃねえよ!? そもそも送るな! そんなもん!!」


 そのうちバレる可能性大だ!! 加奈と、由紀に……、てっ!?


「てか、なんで、由紀が急にバイトすることになってんだよっ!!」


 やっと言えた!! なんで、こんな苦労してんだ俺は!!


「ん? あ~、そのことねっ」


 まさやんはわるびれる様子もなく、明るい声で、由紀のバイトの経緯について話してくれた。

 まさやんが電話で由紀とファミレスで初めて喋ったとき、バイトの話を提案していたらしい。

 そのあと、俺らがファミレスで別れた後に、まさやんは家に帰った加奈に電話して、由紀のバイトを提案。由紀のケイタイの番号を聞き出したそうだ。それで、由紀に再度電話して、『まさやんの本屋さん』でバイトできるための手筈を整えた、ということだ。たく、行動が早すぎる。思いたったら、あとのこと考えず動くのやめろ。振り回されるこっちが大変だ。


「でね、由紀ちゃん喜んでくれてさ〜。もちろん、向こうの親御さんの許可ももらってるから安心してくれ」

「なにを勝手に……、俺の許可もとらず……」

「んっ? 加奈ちゃんにさ、電話して、オッケーもらったからそれで良いと思ったんだが?」

「なぜそうなるっ……!?」

「まあ細かいことは良いじゃねぇか。にしても、羨ましいなあ、太一」

「なにがだよ」

「可愛い女の子がまた仲間に加わったんだぞ?しかも加奈ちゃんの友達、仲良くなるのに時間もそうかからんだろうし」


 いやいや、時間かかると思う。なにせ、由紀は加奈のこと大好き人間だからな。加奈に接するたび、威嚇するみたいな目で見られる。ナワバリを主張する動物か。


「由紀ちゃんのこと頼むな! あっ、もちろん加奈ちゃんもだぞ」

「……、わかってるよ、んなこと」

「うししっ、ほんじゃまた何かあったら連絡くれ。またや〜さい♪」


 たく……、相変わらず勝手なおっさんだ……。


「はあ〜……」

「あっ、た、太一くん」


 ん?


 声の方に振り向くと、加奈が申し訳なさそうに、


「ご。ごめんね、わ、私、由紀ちゃんがバイトしてくれたら、嬉しいって答えちゃたの……、それで、あの……」

「……、良いんじゃないか、それで」

「えっ?」


 加奈が目を丸くして、パチクリと瞬きを繰り返していた。まあ、なんだ……、


「加奈が嬉しいんなら、それで十分だよ。由紀がバイトする理由としてさ」

「太一くん! そ、そっか、ふふっ、うん! ありがとっ!」

「つっ!? お、おう……」


 可愛いらしい笑みに、つい戸惑ってしまった。じっと見るのは、恥ずかしくて耐えがたい。


「ふん、まあ、うちは加奈っちのためにここでバイトするんやしなっ!! そこんとこ、ちゃんと忘れずに!!」

「へいへい……、さようですか……」


 なんで由紀はそんな偉そうなんだ……、俺一応、店長代理だぞ、こら。


「あっ、私、ちょっとカバン、バックヤードに置いてくるね。ゆきちゃん」

「あっ、うん。いってらっしゃい♪」


 加奈が、とてとてと、バックヤードに消えていく。


「………、うふふっ、加奈っちとバイト、加奈っちとバイト〜♪ いつも一緒〜、うふふふふっ………♪」


 こ、怖っ!! 由紀の目がドス黒い!!


「なにこっち見てんねん、変態」

「ぐっ、変態言うな……。まあなんだ、すげぇ、嬉しそうだな」


 なんか過剰なくらいにな。


「あたりまえやん! だって加奈っちは親友やし! そばにいたいもん!」

「あはは、さようですか。……、加奈もそうだといいな」

「そうに決まってるし! 嫌なこと言うなし!!」

「へいへい、悪かったな」

「ふん、分かればええねん。ふふっ、加奈っちと楽しい思い出いっぱい作ろっと♪」


 由紀は楽しげに微笑んだ。そして、


「もう、会える期間も、せまってるし」


 ん? 期間? ……夏休みのことか? いや、バイトの期間か?


「もう2週間もないもんな?」

「ん? あ〜、そうやねん。それがほんとつらい…………。会えなくなるしなぁ」

「ん? …………、いや、由紀は、学校でも会えるからつらくないだろ? バイト終わっても。夏休み終わってもさ」

「えっ……?」


 由紀が目を見開き、どこか驚いた顔で、俺を見つめていた。


「ん? どうした? 由紀?」

「あっ! いや、その!? ………、あんた、やっぱり……、知らんへんの?」

「ん? なにが?」

「つっ!? い、いや、あ、あの…………、それは……」

「どうした由紀?」


 しどろもどろになる由紀に、首を傾げると、


「わっ、…………、わかった。あ、あんな、加奈っちは、」


「太一くん、由紀ちゃん、ごめん! ちょっと探し物してたら遅くなっちゃった!」


「「いひゃ!?!?」」


「ど、どうしたの2人とも??」


「あっいや、別に!? な、なあ由紀!」

「う、うん! な、何にもない、なんにもない! で、加奈っち! 探し物は見つかったん?」

「あっ、うん! じゃじゃ〜ん! これ!!」


 加奈が手に掲げたのは、『まさやんの本屋さん』と前面に書かれた、エプロンだった。


「バックヤードに余ってないか探したらあったの! はい、由紀ちゃん!」

「わあ! ありがと! 加奈っち!! てかこれダサない?」


 加奈と由紀は、互いに手を取り合い、仲良くじゃれあっていた。

 俺はそんな、微笑ましい光景を見ながら、心中、穏やかじゃなかった。


 由紀……、あのとき、俺に何を言おうとしてたんだ?


 胸の奥がざわつく。どこか嫌な、変に重苦しいものを感じながら、俺は、加奈の楽しげで明るい笑みを見つめていた。

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