史上最高の投手の伝説の幕開け ~史上最弱のドラ1と呼ばれた男~

伊藤山愛

急な指名と最初の試合と一年目

この物語はフィクションです。


登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。


ぜひ相岡君伝説の幕開けをお楽しみください。

__________



万年一回戦敗退の弱小高校である日和坂高校の野球部に在籍する相岡創史。

彼は特別優れた投手というわけではない。

ストレートは130キロ後半,変化球はスライダーのみである。


その彼に10月下旬,驚くべきニュースが飛び込んだ。


「第一順選択希望選手 東海ブラック 相岡創史 投手 日和坂高校」


彼はドラフトで一位指名を受けたのだった。




「やばいやばいやばい...何が起こった!!!」


相岡が驚くのも無理はない。

まさか自分が指名されるとは思っていなかったのだ。


そもそも相岡がプロ志望届を出したのは独立リーグにチャレンジしたいという思いがあっただけでドラフトが目的ではないのだ。


ピンポンパンポーーーン


「相岡創史君,今すぐ校長室に来てください。相岡創史君,今すぐ校長室に来てください」


学習会がこれから続く予定だったが呼び出しがかかった。




「相倉君よくやった!!!」


校長はとても喜んでいる。


「またしても,わが校創立以来初めての快挙だ。しかもドラ1とは!!!」


「あの...これは何かの間違いかと...プロ球団からのコンタクトもありませんでしたし,プロ志望届にハンコを頂いたときも言ったんですけど,独立リーグでやりたいなというだけで今すぐプロというのを想定していなかったんですけど...」


「何を言ってるんだ。プロになんて生きたくてもいけない人が大勢いるんだ。君は東海ブラックサンダースに行くべきだぞ」


「でも...」


「でもなんていうな。そもそも君がわが校に入って以来,うちは夏の地方予選を勝てるようになったんだ。残念ながら甲子園には届かなかったが,万年一回戦敗退のチームを準優勝させるのは並大抵のことではないんだよ」


確かに相岡は県大会で並み居る強打者を抑えチームを夏の予選で準優勝に導いた。だがとてもドラ1になれる実績も能力もないのだ。

このため,自身がドラフト一位で呼ばれたのをいまだに信じられないのだ。


「ドラ1といったら記者会見を開かなきゃな。ふつうは当日,中継をするものだが今からでは間に合わない,明日開くぞ!!!そのつもりでな相倉君」


こうして校長に押し切られ相岡創史は記者会見に臨むこととなった。




結果から言うと記者会見はカオスだった。

外れなドラ1に興味がない記者。

学校の名を売りたい校長。

プロになる気がない相岡。

校長が相岡の名を相倉と言ってもだれも突っ込まないぐらいのグダグダ記者会見だったのだ。


だが,せっかくプロに行けるチャンスを手にしたのだからと相岡は東海ブラックサンダースに行くことを決めた。




時が経ち,2月オープン戦が開幕した。

相岡は相も変わらず,130キロ後半のストレートとスライダーのみであったため打たれまくり,防御率も30を超えていた。

ファンは外れのドラ1に落胆し,今年もBクラスであることを悟った。




迎えた3月下旬,ペナントレースが始まった。

東海ブラックサンダースはアウェイでの東京ロイヤルスパローズとの3連戦を全て落とした。

ファンにとっては恒例行事となり,チームの雰囲気も最悪となっていた。


そして4月入り今シーズン初のホームゲーム。

昨年の優勝チーム東京ラビッツとの3連戦の初戦,東海ブラックサンダース監督の優樂は相岡を送り込んだ。

これにはファンですら試合を捨てたのかと激怒した。

しかし,相岡の投球はその怒声を黙らし,球界に驚愕をもたらした。


なんと150キロ越えのストレートに3種類のスライダーを武器に8回までパーフェクトピッチングを成し遂げたのだ。

特に高速スライダーと落ちるスライダーは効果的で,重いストレートを織り交ぜながらラビッツの並み居る強打者をバッタバッタとねじ伏せた。

これにはラビッツファンですら見惚れてしまうほどであった。


そして1点リードの9回表も相岡はマウンドに上がる。

球場は大歓声包まれ,30年ぶりのパーフェクトゲームが見れると浮足立った。


九回を超えても150キロを超える相岡のストレート。

そのストレートをラビッツの7番である外国人のリーンは流し打ちをし,サード正面へ飛ばした。

その瞬間,ファンはもちろん,守っている選手も1アウトを確信した。

なにせ守っているのがキャプテンで3年連続ゴールデングラブ賞を取っている前橋だったからだ。

しかし,ラビッツのリーンは足が速いことで有名で内野安打が多い選手である。

そのため,焦ってしまったのか高橋は送球を乱した。


完全試合を期待する全ての人から悲鳴が上がった。


だがファーストのジョージは落ち着いていた,ホーム側にそれたボールを取ると懸命に手を伸ばし,リーンにタッチしようとする。

しかし,触れた感触はなく,審判の判定はセーフとなってしまった。


しかもHのランプが灯ってしまっていたのだ。


完全試合がなくなったブラックサンダースファンは落胆し,逆にラビッツファンは安堵した。


しかし,優樂監督が出てくる。

リクエストだ。

ここまでリクエストを使ってなかったため権利がまだ二回残っていたのだ。

完全試合などの記録が途切れてしまった後,相手に流れが行くことはよくある。

このため,完全試合の記録が途切れた時,時間を創るためにリクエストを使おうと優樂は決めていたのだ。




ビデオ判定の間,内野陣はマウンドに集まる。


「ごめんよ,相岡。俺のせいで...」


サードの前橋が謝る。


「タッチは出来ていない,ごめんな」


とジョージが言う。

それに対して相岡が...


「完全試合なんて一生に一度有るか無いかですよ。全くここで送球ミスとは...フフフフフ,あはははは...」


急に笑い出した,相岡に前橋とジョージは「ぽかん」とする。


「そんなことはどうでもいいですよ。今シーズン初勝利をファンに届けましょう。これで緊張なんてなくなったでしょう。そもそも先輩方のファインプレーが無ければすでにヒット2,3本は打たれてますよ」


そう言った相岡にショートの堂田も続く。


「そうだ,いいこと言ったぞ。相倉!!!俺らはスゲーだろ」


「先輩,私の名前は相岡です」


「そうだったか?がははは,ごめんごめん」


別の意味で堂田が謝ってきたところで,審判団がビデオ判定から帰ってきた。

分かりきった判定のため,審議が短かったのだろう。




そして審判が判定を下す。

だが次の審判が取った行動に驚きが広がった。

アウト判定のポーズを取ったのだ。


ラビッツファンからは声にならない悲鳴が飛んだ。


審判は球場からのヤジが凄いことから説明を始めた。

説明によると,ジョージのグラブの紐がリーンに触れていたそうだ。


ブラックサンダースのメンバーは完全試合が無くなったと思っていたので,より緊張が強くなる。


しかし,相岡は堂々と8番のキャッチャーの大森をスライダーで三振に切り,あと一人となった。


そして...


「9番 管里に変わりまして 綾部 代打 綾部」


とコールされる。


綾部はすでに40代のため代打の切り札をやっているが,過去には首位打者や本塁打王のタイトルを取ったこともある球界屈指の打者だ。




綾部との勝負は厳しいものとなる。

初球,ストレートを捉えられ,ライトポール際に運ばれたがファールとなる。

二球目,外に逃げるスライダーでボール。

三球目,内角を抉るいいストレートも判定はボール。

四球目,外角低めのストレートでストライク。

五球目,高めの釣り球も釣られずボール。


3ボール2ストライクとなり,そして,運命の六球目が来た。


ここでこの高卒新人を打ち砕きプロの世界は甘くないぞと思わせてやると綾部は考えていた。


六球目,打ち気になっていた綾部は外角のボール球に手を出そうとしてしまった。

しかし,長年の経験からバットを止めることに成功した。

相岡にはスライダーしかないと思い込んでいた綾部はフォアボールを確信する。


だが,ボールはストライクゾーンに切れ込んできた。

シュートである。

これが初対戦でなければ,もしくはそれまでにラビッツのバッターがシュートを投げさせていれば綾部も対応できただろうが,最後の最後まで隠し玉を隠し持っていた相岡に軍配が上がった。


「ストライクアウト ゲームセット」


主審がそうコールをし,高卒新人が初登板で完全試合を成し遂げるという史上初の大偉業が成し遂げられたのである。




そしてこの試合を機に東海ブラックサンダースは調子を上げ,15年ぶりにリーグ優勝を果たしたのである。


相岡は21勝3敗1完全試合10完封15完投という大車輪の活躍を成し遂げ,結果として,投手四冠,新人王,シーズンMVPとタイトルを総なめにしたのである。




ちなみに,完全試合の翌日の朝刊一面はリクエストのシーンであった。

偶然にもジョージのグラブの紐とリーンが触れているのをレンズに収めたカメラマンがいたのだ。

なお,相岡は顔が小さく乗っていただけであった。

そのため,新聞一面に自分の姿がデカデカと映ることを楽しみにしていた,相岡は大変落ち込んだそうだ。


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