第7話 正義と悪と信念と

「それって…殺人だよね?」

そう尋ねた朱華に平静に答えた。

「まぁそうだな。どうしようもない奴ら限定でだけどな」

ガタッと立ち上がり、朱華が怒鳴る。

「どんな奴らでも駄目だよ!法律ってもんがあるでしょ?ちゃんと裁判して国の定めた法の元で裁くのが筋でしょ?」

朱華の言葉は何とも日本人らしく全て正論ではあった。

が、現実的ではない。

日本でもそうだったが法での裁きが甘かったために本来ちゃんと裁いていれば生まれなかった被害者や犠牲者が沢山いる。

サクトは朱華の言葉に対して呟くように言った。

「反省だけなら猿でもできる」

「え?」

左側に座るサクトを朱華は少し睨むように見た。

「法での裁きを受けて、刑務所内じゃ反省したフリをして、刑期を終えてシャバに出てきて再犯。腐るほどいるぞ、そんな奴ら」

サクトの話を聞いても朱華は納得できない様子で反論する。

「それでも…命だよ?悪人だって最初から悪かったわけじゃ…親とか友達とか悲しむ人だってきっと」

朱華の良くも悪くも日本的な言葉はサクトを苛つかせた。

サクトが「あのな…」と呆れたように怒鳴りかけた時、カイルが口を開いた。

「お嬢さん。我々も決して楽しんで命を奪っているわけではないよ」

カイルの言葉に「いや、俺は奴らを狩るのがすこぶる楽しいんだがな」と思うサクトだった。

カイルが続ける。

「無論、殺しが正義だなどとは全く考えていない。我々は悪側の人間だ。だが奴らは野放しにすれば危険生物に匹敵する有害な生き物だ。知恵と力を使って大勢の人間を傷つけ、尊厳や命を奪う。我々は正義ではないが、信念を持ってこの溝さらいをやっているのだよ」

被害者、犠牲者の心を救い、無念をはらすためにやっている。カイルはそう朱華に話した。

朱華は黙ったまま俯いて考えていた。

そして曇った表情のまま顔を上げ、意を決してカイルとサクトに言った。

「わかった。納得は全然できないけど。危険生物の狩りから始めてみようと思う。で、悪人狩りの時、あたしもついていく。あなた達の信念を見定めようと思う」

複雑に心を乱してはいるが一歩前進しようとしている朱華にサクトとカイルはそれぞれの思いを抱いていた。

「とりあえずは見習い狩人といったところだな、朱華くん」と朱華の正義感に好感を持ち期待している様子の父カイル。

「ま、先ずは俺との手合わせで様子見だけどな?」と心の中では面倒だとは思いつつも朱華の正義感がどこまで貫けるか?を楽しみにも思っているサクト。


朱華は「…よろしくお願いします」とサクトに手を差し出した。

サクトも「あぁ、よろしく」とそれに応えて握手を交わした。


サイコパス×ジャスティスの今のところ噛み合わない歯車がゆっくりと回り始めた。

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