第6話 朱華とバルザック家にて

街でたまたま出会った日本からの転移者で女子高生の少女、安楽城朱華(あらがきしゅか)


この世界で前向きに生きていく覚悟を決めたようなので、とりあえず仕事(狩人)を紹介することに。


「本当にいいんだな?」「うん」「引き返せねぇぞ?」「うん」


父、カイル・バルザックに朱華を紹介するため我が家のバルザック邸の前で念のため最後の覚悟の確認をした。

父カイルは生半可な気持ち、ただただ金稼ぎのためにこの仕事に首を突っ込んでくる輩を沢山見てきた。生真面目な父はそういう輩が嫌いなのだ。


もっとも俺の場合は「ま、人それぞれだろ」という感じだ。

金が絶対的に必要なのはこのアストレアも元いた世界と変わらない。

なら、仕事の出来、獲物次第で法外な金が手に入るこの仕事を選ぶ輩もそれはそれで正しい、というのが俺の本音だ。


鍵を開けガチャッとドアを開けるといつもの普通の洋式の玄関だ。

ふと後ろを見ると朱華が少し不思議そうな顔で立ち止まっている。

「なんだ、どうした?」

そう尋ねると朱華は一歩後退して我が家の外観を見直した後、玄関に目をやった。

「一流の狩人でその世界じゃ有名人なわけでしょ?それにしたら物凄く普通の家に住んでるんだなぁって思って。ごめん、失礼だよね?」

少しだけ申し訳なさそうに言う朱華だが、本当に普通の家である。

豪邸には程遠く、一般家庭のちょっとだけ立派な一戸建てといった感じだ。

「別に失礼ではないな。本当に普通だし。目立ちすぎるのも仕事柄良くはないから派手な生活は控えるんだ、バルザック家は。金の使い道も他にあるから。例えば寄付とか」

朱華は目の当たりにした意外な一流狩人の生活に驚きつつ感心もした。

「寄付か。どこの世界にも貧しい人達はいるんだね。そんな人達を助けられる仕事ならあたしも遣り甲斐あるかも」

明るい表情で言う朱華だがまだ仕事の詳細は伝えていない。

全て知った時、彼女はどう反応するか。受け入れることはできるのか。

「とりあえずリビングへ。父さんが帰ったら仕事の説明をするから適当にかけてくれ」

リビングへ朱華を案内するとソファーにかけてもらった。

緊張感が高まってきた朱華の表情も姿勢もなんだかぎこちなく固い。

と、ガチャッと玄関のドアが開く音がした。

父が帰ってきたようだ。

「ただいま。あぁサクト。帰っていたか。ん?そちらは?」

リビングに入ってきたカイルはソファーにかけている朱華に気づくと、紹介を求めた。

「彼女は安楽城朱華。街で輩に絡まれていてね。その体格差のある大男を自分で撃退してたからそれなりに強い。で、職を探しているようだから連れてきた。」


「なるほど」

と言い、朱華のほうをじっと見つめた後、険しい顔でサクトに目を向ける。

「して、仕事については話したのか?」

問われたサクトは少し考えて正直に話した。

「いや、表に関してはだいたいというかザックリとは。裏のことは全然…」

サクトの返答にカイルは少し顔をしかめた。

「ならバルザック家に連れてくる必要はなかったのではないか?ギルドに連れていけば表の仕事はいくらでもあるだろう」

確かに。表、つまり危険生物の狩りだけならギルドに行けば軽くテストを受けた後、採用されれば直ぐに仕事ができる。

バルザック家に連れてくるということは…カイルはそれを察したのだ。


「父さん。朱華は恐らく裏でもやっていけると思う。まだ力の使い方はこれからだけど。俺が思うには父さんや俺と肩を並べて戦える力を秘めていると」

サクトの推薦にカイルが更に問う。

「ほう、その根拠は?」

腕を組み、向かいのソファーにどっしりと座り真っ直ぐにサクトを見て問いかける姿に凄みと圧を感じる。

サクトは朱華に可能性を感じた理由を話した。「俺が能力に目覚めた時と同じ『跳躍』を彼女が発揮したからだよ。身体能力は現段階で常人の5~10倍はあると思う」

厳密に言えばサクトの能力覚醒時の記憶は『仮の魂』がサクトの体に残したものであるが記憶にある事実と朱華の今の能力について話した。


「跳躍か…では腕力に関しては未知数ということだな?」

「そうだけど。だから一度、俺と手合わせして確かめたい。それで力が見込めたら低級モンスターの狩りから始めようと」


黙って二人の話を聞いていた朱華が口を開いた。

「あの、これからサクトと修行的なことするのはわかったけど、その前に。表は狩りのことだってわかるけど裏って?何かあたしに話してないことあるんだよね?」

左隣に座るサクトに朱華が問う。

サクトは裏の内容について話した。

「普通の狩人は危険生物のみを請け負う。けど、この世界にも悪人は多々存在する。下手すりゃ本当に厄介なのは怪物よりそんな人間だ。それを俺たち、バルザック家が裏で狩っている」

サクトの話に朱華は凍りついていた。

うつむき、再び口を開いた。

「それって殺人…だよね?」

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