後編
「ねぇね? なにあんたら知り合いなわけ?」
後から付いてきた淫乱ピンクちゃん(疑問)はそう聞いてくる。そういや本名なんだっけ。
「知り合いどころか私と凌くんは身内よ。姉弟なの。隠羅モモさん」
先ほどの俺の問いの答え合わせをしてくれたねぇね。
「彼女の名前は
「なっ⁉︎ ……ねぇねって本名だったの⁉︎ てっきりお姉さんのことをそんな甘えた感じで呼ぶんだと思ってた。変わった名前ね」
やっぱ、こいつ肝心なところで聞かないな。
「ふふ、私は凌くんの姉として生まれながらにして決まっていたからよ……!」
んなわけあるか。
「それにしても凌くん、気付いていたのね。一体いつからかしら?」
「別に犯人が誰とかまでは分からなかったよ。けど、違和感は最初からあった。それが、ねぇねが目の前に現れて確信に変わっただけだよ」
俺が感じていた違和感の正体。それは時間だ。
俺が学校から家に帰ってきたのは午後四時過ぎ。それから午後五時過ぎまでは部屋でゴロゴロしていたのは覚えている。
そこからここで目覚めたのは午後六時過ぎだった。
魔法や不思議な力が存在しないと仮定するならば、移動させるには時間が足りないし、それに誰か不審な人が俺の家を出入りすれば夕方の時間帯では目立つ。
と、するとだ。ここは家の地下室で、俺は建物内を移動させられただけなら、誰かに見られることはない。
また、他二人を誘拐するのも優秀な使用人ならなんなくこなすだろう。近所からの評判も高いから疑われることもない。街一番の金持ちで有名人な姉ならばな。
「ふふっ、成金みたいなものよ〜」
俺の家はかなりの豪邸である。
ねぇねは若くして会社を立ち上げ、あっという間に事業に成功し、多額の財産を得ることに成功した。
使用人も大勢いるし、地下でなにやら工事していたのも覚えがある。
「けど、時間が経ってないとか時計見ただけじゃ分からないんじゃないの⁉︎ 十二時間以上も寝てたとかありえるわけだし……」
珍しく話を聞いている淫乱ピンクちゃん(本名:隠羅モモ)がそう聞いてくる。
「もちろん可能性もあるにはあったが、お腹も空いてなかったしなー。それに純がこう言ったんだ。『門限が……』と。普通、門限を気にするか? 俺は今が何時なのかも彼女に伝えていなかったのに、誘拐されて眠らされていたのに、まるで誘拐されてから時間がそう経ってないことを分かっていたかのようだ。だから本当は純は知っていたんじゃないかって。誘拐も寝ていたのも演技。とにかく出ようと俺を促すためについた嘘なんじゃないかってね」
「……バレてた」
純はあっさりと隣で認めた。
「最初は気にも留めなかったけど、S○Xの文字を見て、吹奏楽部のサックス奏者が真っ先にSAXを思い付かないのはどう考えてもおかしいからな」
「不覚……」と純は落ち込んでいた。
証拠が足りない中での俺の妄想推理だったが、どうやら当たっているようだな。
「主犯としてこんなことができそうなのは知ってる限りねぇねだけだ。それからは確信に変わるまで、ねぇねが俺にどうしてこんなことをしたのかって考えてた。多分だけど……俺に彼女が出来なくて心配したねぇねが好みの女子とくっつくように仕向けた──とか、そんなもんだろ」
「そう! さすが凌くん! お見事、ほとんど正解よ。正確にはくっつけさせたいとは違うけども。私はお姉ちゃんとして心配だったの。凌くんにもいつか恋人ができるはず……けど、悪い女には捕まって欲しくない! だから少しでも良い経験と女の子を見定める力を養って欲しくて、今回の企画を考えたの」
俺の最初にふさわしい女子──ねぇねが考えた条件は以下のものだ。
まずは男性経験がないこと。
それから特殊性癖がなく、純粋であること。
性格はもちろん見た目も俺好みであり、かつ向こうも俺のことがタイプであること。などなど。
厳しい審査を受けて、選ばれたのが垂那純であったのだ。
「そうなのか? 純?」
「うん。私は以前から凌のことを聞いていた。それで良いなって思って、この企画に参加した。会ってみたらもっと良いなってなったし、相性とかも良かったし、だから私もちゃんと凌のことを好きになったんだよ」
「お、おう……そうか」
なんか直接的に言われるのは照れるな……。
「そう! だから二人が結ばれて私は幸せよ! お姉ちゃんも純ちゃんと話してて好きになったもの。やっぱり姉弟ね。好みのタイプが一緒なんだわ……!」
つまり、壮大な実験とも言えるこの誘拐事件は俺と純がカップルになることを目的とし、そしてそれを果たすための過程にしか過ぎないものだったのだ。とんだドッキリだよまったく……。
「んんんん……ちょっと待てぇー!」
「あら、どうしたの隠羅さん?」
「どうしたもこうしたもないでしょ⁉︎ わたしはぁ⁉︎」
「あぁ〜、隠羅さんは予備よ」
「予備⁉︎」
「えぇ、ほとんど審査は合格していたのだけれども、隠羅さんはちょっと、いいえ、かなり性欲が強めだったから」
「なっ⁉︎」
「なので、二人がセックスしなかった時や合わなかった時に隠羅さんにヤッてもらおうかと。やっぱり身体の相性もとても大事ですから」
「そんな理由で⁉︎ わたしは別に性欲なんて強くない! ビッチみたいに言わないでってはぁぁ⁉︎ え、なに……あんたら、セ、セックシュ……し、してんの……⁉︎」
「まぁ、会った部屋で」
「はいぃ⁉︎」
まぁ、淫乱ピンクちゃん(純潔)にわざわざ言う必要なんてなかったからな。
あの時最初の部屋で、俺たちお互い初めて同士、体位を変えて、プレイスタイルを変えて色んなことをした。溜まってたものはスッキリ。こんなにも気持ちいいものなんだと汗が存分に流れるまで長い間やったものだ。
「初めてだったけど、す、すごく、気持ちよかった……」
もちろん、謎を解くために俺から誘い、説明を経て合意をしっかりともらっている。
けど、今となっては純は最初からするつもりでいたのだろうけど。
「とても良いものを見させていただきました」
ねぇねも見てたのかよ。
もしかしてあの鏡はマジックミラーか? ねぇねは使用人たちには純たちを屋敷に連れてきてもらっただけで、地下には立ち入らせず自分一人で最後はやったと言っていたが、それでも恥ずかしいな。
でも、その中に興奮を覚えてそうな方が俺の隣でモジモジと赤面している方がいる。俺の彼女が特殊性癖開きそうなんだが。
「じゃあ、わたしはただ誘拐されて、トランプをしただけ……?」
「ちゃんと私は隠羅さんにもお話をしましたよ。覚えてらっしゃらないですか?」
「ねぇね。こいつ話聞かないんだよ。現に今も聞いてない」
この時間はなんだったのかと言いたげな表情をしているな淫乱ピンクちゃん(混乱)
ここまでのことが出来る財力と根回しをしてきた姉の開摺姉々。
最後に部屋に階段を出現させ、俺たちを見送る。
「あなたたちが幸せで、実りあるカップル生活を送れますように。なんだったらお二人が結婚まですることをお姉ちゃんは夢に見てますよ」
「それはどうかな」
「む」
「いて」
純が俺の手を強く握る。
「冗談だよ。会って少しだけど、純とは良いパートナーになれそうだ。そして、もっと俺は純のことを知りたい」
「私も、身体のことだけじゃなくて、凌の好きなこととか嫌いなこととか、もっともっと凌のことが知りたい。そう思えるのは凌のことが好きになったからだよ」
「俺もだよ、純」
こうして俺たちは部屋から出て行った。
物語はここで終わるが、俺たちの物語は続いていく。出会い方は特殊でも、幸せな生活をこれからも続けていきたい。
とりあえずさっきの続きは自室で行うこととしよう。
**
「──って、いい感じに終わるなぁ! わたしは取り残されたままじゃん!」
「ごめんなさいね。ご足労おかけしました」
「もうーなんなのよー! 結局、わたしはこんなとこでも一人余ってしまうわけ⁉︎」
「──宜しければ、私がお相手務めましょうか?」
「……は?」
「私、実は両方いけるんです。弟もきっと今頃、上でなされてますので、私たちもここでしませんか? ちょうどそこにベッドもありますから」
「ちょ、え……?」
服を脱ぎ出す開摺姉々。隠羅桃(興奮寸前)はベッドに追い詰められる。
「手伝ってくださったお礼に、気持ちよくさせてあげますから──」
「い、いや……優しくおねがしまぁす‼︎」
S○Xしたけど出られない部屋 杜侍音 @nekousagi
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