第17話 喧騒から始まる学校生活

ㅤㅤㅤㅤㅤ―― Side こう ――



週明け。

学校に向かう。

なつと手を繋いで。

これが毎日になるのかと思うと顔がニヤける。


教室に入ると、ドドドドド、と効果音が文字でデカデカと付きそうな程勢い良く友人の友寧ゆうねが私たち二人の元に駆け寄ってきた。


こう~! なつ~! ごっめ~ん!!」

「!?」

「??」

なつの彼氏に、あ、なつにフラれた元カレに聞いたんだけど、なつ、他に好きな子いたって~」


言い直しが辛辣。

友寧ゆうねって、意図的なのか無意識なのか、中々嫌味が効いてるんだよね。


「それってさ~、やっぱこうのことだよね~!?」

「うん、まあ、そう」

「やっぱり~! なんか前になつがアイツのこと良いなって言ってたからてっきり好きなんだと思ったんだけど、違ったみたいじゃん~? 私、多分すご~くよけいな事したよね~?」

「あー、いやー」

「・・・・・・そうでもない? のかな?」


確かに友寧ゆうねに言われて別れたんだけど、多分だけどあのまま付き合ってても上手く行かなかった気がする。

なつの気持ちを確かめずにした行為のへの積み重ね。

多分私は後で気づいて自責の念にさいなまれてたと思う。


「色々あったけど、自分の気持ちに気付けたのは結局彼氏と付き合ったからだし、全部が全部悪かったわけじゃなかったよ」

「それでもやっぱりごめ~ん!! もう土下座でもしないと私の気が済まない~」


フォローと言うより多分本音をなつが言うが友寧ゆうねは勢いよく座り込んで謝ってくる。


「ちょっ、スカート汚れるよ!?」


何とか立たせようとするけど土下座をやめない。

教室にいるクラスメイトから注目の的だし恥ずかしい。


「と、兎に角立とう?」

「そ、そうそう、流石に土下座とかいいからさ」

「うう、ホントごめん~」


何かと突っ走るタイプの友寧ゆうねを兎に角慰める。

根が悪い訳でもなく、悪意があった訳でもないからあまり強く当たれない。


「いや、本当、あれがあったからわたしもこうの好きだって自覚出来たんだし、ある意味感謝してるよ」

「そうだよ、私もなつの事考えてなかったのは事実だし反省する機会が出来て感謝してるから」

こうは反省する所は無かったと思うよ?」

「え?」

「そ~だよ! こうは悪くないの~! 悪いの私だから!!」

「もうそれは良いから!」


なんか堂々巡りしそうなので強引に終わらせる。


「私もなつも謝罪を受け入れた。だからもうこの話は終りにしよ」

「そうそう」

「うう~、わかった~。ホントごめんね~」

「もうすぐHRが始まるから席に戻ろ?」

「そうそう」

「そうだね、じゃあ行くね~」


ふー、何とか終わらせられた。

いつの間にかHR直前、全クラスメイトが揃ってて、つまりクラスメイト全員に注目されている。

マジで恥ずかしい。

その後すぐ先生が来て助かった。




休憩時間になると毎回即行なつが私の席まで来た。

椅子に座る私をなつは立った状態で後ろから私の肩を抱いて、私の頭に顎を乗せた謎の体制をとっている。


「何してるの~?」


友寧ゆうねが何故か私に聞いてくる。


「私は何もしていないよ」


「・・・・・・、何してるの~?」


そうそう、なつに聞いて欲しい。


こう成分を補充してんの」

「へ、へ~、そうなんだ~」

「なに “香子” 成分って」

こうにも|捺美わたし成分を注入だー!」

「う、苦しい」


抱きしめが強くなる。

なんの茶番だろうか。

抱きしめてくれるのは嬉しいけど、ここ学校だし、恥ずかしい。


お昼休憩も大体同じ、お弁当を食べた後は定位置と言わんばかりになつは椅子に座る私の後ろに戻って肩を抱き頭に顎を乗せてくる。

立ってるのが気になるから、座ったら? と言うと、近くの椅子(休憩中は基本的に皆誰かの椅子を勝手に借りる)に座っても私を後ろから抱く絞めるのをやめない。

今度は肩に顎を乗せてきた。



ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ≫≫≫≫≫≫



廊下からキャーって声が聞こえてくるし、さっきから他のクラスの子が、うちのクラスの入り口まで来てこっち見ては帰ってくんだけど。

なんだろう。

もしかしてもう私たちが付き合ってるのがバレたのかな!?

そりゃなつが始終この態度じゃ解っちゃうよね・・・・・・。

昨日の先輩方の事もあるし。

同性だし物珍しさに皆見に来てるのかも。


クラスの子にも声を掛けられた。

いつもの4人グループが私達の傍まで来て、一人が話掛けてくる。


「ねぇ、こうさんとなつさん二人ってどういう関係?」


ひやかし目的だろうね。


「えー? 恋人関係」


なつが躊躇なく答える。


「そ、そうなんだ! さ、最近付き合いだしたのかな?」

「そうだよ」

「お、おめでとう二人とも! それじゃーね!」


離れていって4人で話してる。

クスクス笑ってるのが聞こえてくる。

皆の表情からは、気持ち悪いとか、女子同士でオカシイとか言った負の感情は見えないけど、解んないよね、心の中は。

怖いなー。




「ひゃ~、凄い人気だね~」


友寧ゆうねが意味不明な事を言いながらこっちに来る。


「?」

「何が?」

「二人の人気が~?」

「へー」

「私たちの人気? って何?」

「え~? こう知らないの~? こうは男女問わず人気あるし~、なつは女子全般に人気があるから~、その二人がこうべったりくっついたらそりゃ皆もwktkワクテカしに来るってもんだよ~」


なつが女子に人気があるのは解る。

恰好良いし。

私が男女問わず人気?

意味解んない。

ただのひやかしじゃない?


「何で私に人気があるの?」

「え~? カワイイから~?」

「うんうん」

「もっと可愛い子沢山いるよね?」

「いや~、こうはうちの学校でも学年トップ3に入るよ~」

「うんうん」

「な訳ないじゃん」

「え~? そうかな~? こりゃなつも大変だね~?」

「だよなー」

「何が大変なの」


もう、と言ってなつが肩に顔をぐりぐりとこすりつけてくる。

その内顔にまで近づけて来て頬同士をスリスリしてくる。

うう、本当に恥ずかしいんだけど・・・・・・。


「あ〜、私こういうのどっかで見たことあるな〜って思ってたけど思い出した〜。

親鳥がヒナを囲ってるやつだ〜」


そんな事を言う友寧ゆうね

確かにそうかも。

なつが親鳥で私が雛?

なつにとって私ってそんなに子供みたいなのかな?


「お腹の羽の下に入れてるみたいじゃん~。もしくは子猫を離さない親猫! あはははは!」


友寧ゆうねがカラカラ笑う。

子猫を離さない親猫、納得。

正に、頬ずりしてくる親猫なつ

離さない動画見たことある。

いや、困るんだけど、色々と。


「ねえなつ? 恥ずかしいから止めない?」

「うーん? やだ」

「やだじゃなくて」

「今忙しい」

「忙しい!? 何に!?」

こうでるのに?」

「なんで疑問形?」

「他にも色々と?」

「他って!? 色々って!?」


本当、何なの?

私たちのやり取りに友寧ゆうねが茶々を入れる。


「あはは! たじろぐこうカワイイ~!」

「フフフ! わたし・・・こうは可愛いだろ!」

「そ~んななつもカワイイけどね~」

「わたしはカッコイイって褒めて欲しいけど」

「ん~、いや~やっぱ “カワイイ~” だね!」

「可愛くないな友寧ゆうねは」

「私はカワイイっしょ!?」

「いんや可愛くないね!」

「えぇ~! 私ってそんなにカワイくないかな~!?」

「可愛いけど可愛くないね!」

「どっちだよ~!!」


変なコントが始まった。

会話に入っていけない。


「(容姿は)可愛いけど(態度は)可愛くないって事!」

「?? ね~こうなつが何言ってるかわかんないんだけど!」


私にコントに混ざれと?

難易度高いよ。


「はいはい、友寧ゆうねなつも可愛いよ」

「でもなつはカワイくないって言ってくる~」

「わたしはカッコイイって褒められたいんだってー」

「じゃあ友寧ゆうねのその態度は可愛くない。なつもその態度が恰好良くない」

「え~」

「えー」

友寧ゆうねは黙ってれば可愛いし、なつも黙ってれば恰好良い。はい、という事で今から喋るの禁止」

「え~」

「むう」


ふー、無理矢理静かにさせたよ。

さー、喋ったら負けという雰囲気を無理やり作ってみたけど二人はどうするかな?


「黙ってればカワイイくて喋ってたらダメってなんで~?」


友寧ゆうねは空気を無視して話を続ける。

うん、知ってた。


友寧ゆうねは喋るとうるさいからね。顔は可愛いんだからもう少しテンション下げて喋れば良いと思うよ?」

「マジか~! まあよくみんなからも五月蠅うるさいって言われてたけど~! 私顔カワイイ? マジ? 嬉し~! こうにほめられた~! あはは」

「・・・・・・」


なつはまだ黙ってる。

喋るの禁止ゲームは即行で友寧ゆうねが喋ったから成立してないのに黙ってたね。


「ね、ねえこう?」


なつが漸く喋りだした。


「わ、わたしってこうから見てカッコイイ?」

「んー? 恰好良いよ?」

「!!」


うん。

普通に恰好良いと思う。

でも可愛い方が勝つかな~。


「てかさ~、なつの顔ヤバいよ~? 黙ってればカッコイイって嘘だよ~! あはは」

「?」


後ろから抱え込まれてるから私の位置からはなつの顔は見えない。


ヤバいって何が?



ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ≫≫≫≫≫≫



放課後、さー帰ろうかって時。

私の下駄箱の中に手紙があった。

外靴の上に。


何の柄も書かれていない真っ白な洋封筒。

見える範囲、封筒の外側には表にも裏にも、宛名も差出人も書かれていない。

情報が無く現時点で要件がサッパリ解らない。


なつにからかわれながら中身を確認する。


「放課後、校庭の銀杏の木の下で待ってます。」


これ以外、中の手紙にすら名前も何も書かれていない。

男性か女性かも解らない。


校庭の銀杏いちょうの木ってあれか。

校庭の一番奥にある防球フェンスの裏にポツンとある大きな銀杏いちょうの木。

めっちゃ遠い。

そりゃ人が寄り付かないから人の目は無いだろうけど。


で、今は放課後。


は?


手紙は朝来た時には無かった。

外靴の上に乗っていたという事は、上履き(スリッパ)と外靴を履き替えた後という事。

朝、私が登校後~放課後の今までの間に、どのタイミングで入れたか知らないけど、私がこの手紙に気付くタイミングと言えば、帰る時しかないよね。


「行くの?」

「行かない」


なつに聞かれて即答する。


宛名すら無いから本当に私宛ての物かも解らないし。

仮に私宛てだったとして、放課後の帰ろうとしている時にしか気付く事のない手紙で放課後に呼び出すとか、しかもめっちゃ遠い場所。

告白にしろ、何か物申すにしろ、非常識過ぎない?

誰が行くか、と――

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