第3話 ばあさんへ。人との繋がりは大事です。



前回の反省を生かして、リアカーには少し少な目にブロンズインゴットを積んで職人と女神の2人は武器屋を目指して引いていく。


「おう、邪魔するよ」


職人は相変わらず気さくに、店の扉を開けて入っていき、女神もその後ろに続く。


「いらっしゃいませ─────あっ!。ご老人、お待ちしてました」


店の奥から出てきた店主が、職人の姿を確認して駆け寄ってくる。



「先日はこちらの力不足で申し訳ありませんでした」


職人の前まできた店主は、まずは頭を下げる。


「いやいや、こっちもちょっと持ってき過ぎたって反省してるんだ。なので今回は気持ち少なめにしてある。んじゃ、今日も頼むぜ」


前回同様、現金で買える分だけ引き取ってもらい、残りを鉄鉱石と交換という事で、とりあえず荷台の上のブロンズインゴットは全て売り切る事が出来た。


「んー…まだ溜めた分が『もう少し』あるんだが、また持って来ても大丈夫かい?」


「…え?。まだ在庫があるのですか?。売っていただけるなら喜んで…と言いたいところなのですが、すみませんが現金も鉄鉱石も用意が追いついておりませんで…」


店主が申し訳なさそうにいうので、職人はバンバンと肩を叩き「気にするな」と笑っている。



それから職人達は「じゃあまた2日後にでも」と大量の鉄鉱石を積んだリアカーを引いて帰っていく。


店主は自分の店での必要分だけ取り分けると、残りは同業他社へと回すように用意をしていくのだった。




「ところで、おじいさん。このブロンズインゴットが片付いたら、次はどうするんですよぅ?」


「そうだなぁ…ブロンズインゴットとやらは好条件が重なって安定して売れたが、こいつも売れるとは限らんしなぁ…」


職人は工房の隅に積み重ねられたスチールインゴットを見る。


「まぁ、目下は部屋に積んだブロンズインゴットからだな。あと5~6回も通えばなくなるだろう…多分」


「あの店主さんも、まさか『あと少し』で買い取った分の数倍残ってるとか思ってないと思いますよぅ…いい加減断られるかもですよぅ?」


職人は女神の方を向き「違ぇねぇな!」と笑っていた。




「そーいや、この町なら新しい『れしぴ』とやらは手に入るのかね?」


「んー…最初の街よりは大きいですし、きっとあると思いますよぅ?。次にでもお店に行った時にでも、訊いたらどうですよぅ?」


職人はしばらく考えると「いや、今から行こう」と引き戸から外へ出ていく。


そして本日2度目の武器屋へと入っていく。


「おぅ、邪魔するよ。店主はいるかい?」


「はいはい只今─────あ、これはご老人。どうかされましたか?」


店主が奥から出てきて、職人を確認するとちょっと慌てる。


「いやな?。もしあるんだったら『れしぴ』とやらを見せてもらいたいんだが…どうだろう?」


「あ、レシピですか?。うちには鍛冶と彫金の中級程度までしかないですが、よろしいですか?」


店主の言う『中級』という言葉に、店主が目を輝かせる。


店主は横の棚から2冊の薄い本を持ってくると、カウンターに並べる。


「こちらが彫金でこちらが鍛冶になります。そしてお代がこれだけとなります」


「なるほど、ここは本で売って貰えるって事か。こりゃ楽でいいな」


職人は代金を支払い、肩にかけた鞄に本を入れていく。


「…ところで、レシピまで買われるという事は、ご老人は何かの職人なのですか?」


「あぁ、鍛冶職人をやってる。といっても、『くらふと』はまだまだ修行中ってとこだがな」


店主は「なるほど、老後の趣味でクラフトを開始したのですね」と勝手に理解をする。


「それでしたら、何か良いものが出来たら持って来ていただいても構いませんよ。ただし同業ですので、審査の目は厳しくなりますが」


「お?。儂が作ったものも一緒に並べてくれる、って事か?」


職人の質問に店主は笑顔で答える。


「えぇ、きちんとした品ならば毎回お世話になってますし、喜んで並べますよ。ですが先程も言いましたように、審査は厳しめなのでご勘弁を」


「おぉ、そういう挑戦的な感じはいいじゃねぇか。しかし儂で作れる程度でアンタの店で並べても良さそうな物っていえば何なんだ?」


店主は少し首を捻って考えると、また職人の方に顔を向ける。


「鉄鉱石を買っていかれてる訳ですし、アイアンインゴットを作られてますよね?。でしたらアイアンソードなんかいかがですか?」


店主は店用のレシピ本をペラペラとめくり、アイアンソードのページを職人に示す。


「ふんふん、アイアンインゴット2つに…このトカゲの皮ってのはどこで手に入る?」


「あぁ、コレでしたら革職人の店で良く取り扱ってますよ。その通りを出てですね─────」


店主が道筋を教えてくれたので、職人は感謝を述べ店を出ると、言われた革職人の店を目指すのだった。



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