第8話 ばあさんへ。クラフトを覚えようと思います。
職人は自宅に戻り、ちゃぶ台に置いたスマホでさっき撮ったクラフトの様子をじーっと見ていた。
「なんかすごいですよぅ。さっき見たのがずっと繰り返されてるんですよぅ」
スマホを知らないらしい自称女神が、興味津々でスマホを見ている。
職人はそんな様子には気にも留めずに、真剣に繰り返されるクラフトの様子と、その後にできた剣を見ている自分達の出る映像を見ていた。
「…なっとらんな。なんだあれは」
職人はブツブツ言いながら、スマホの電源を落として充電器の方へと歩く。
そこには増えたスマホが刺さっていたが、それの代わりにさっきのを刺しておく。
「あの程度のもんを出して『はい、おしまい』ってのは、あまりにいい加減じゃねぇか?」
「ん?。おじいさんは何を怒ってるんですよぅ?」
自称女神が不思議そうな顔をして職人を見ている。
「なんかあれだな。『くらふと』ってのは大量生産みたいなもんなんだなぁ」
「タイリョーセーサン?、ですよぅ?」
職人は難しい顔をして数度頭をかき、工房へと入っていくと、手に二本の包丁を持って部屋へと戻ってくる。
そしてちゃぶ台の上にまな板を置き、そこに野菜かごの中に入っていた人参を置く。
「同じナイフが二本あるんですよぅ?」
「とりあえず、こいつでそれを切ってみな?」
職人が手前の包丁を指さす。
それを手に取った自称女神は「たーっ!」と両手で持って勢いよく振り下ろす。
スパーンと真っ二つになった人参が、勢いよく跳ね跳んでいった。
「バ、バカお前っ!。そんな風に包丁を振るヤツがおるか!」
「…なにか間違ってたですよぅ?」
自称女神はまな板に刺さった包丁を持ったまま、不思議そうに職人を見る。
「ちょっとそいつを貸しな」
そう言うと女神の持っている包丁を取りあげ、普通に人参へとストンと刃を下ろす。
人参は奇麗に切断されて、まな板の上でコロリと転がった。
「この程度で十分切れる。やってみろ」
「分かったですよぅ」
言われた通り軽く包丁を当てて、さっき見たまんまゆっくり手前に引くと、なんの力も要らずに人参が切断される。
「おー、このナイフは凄い切れ味なんですよぅ。きっといい武器なんですよぅ」
「武器じゃねぇんだがな…まぁいい。次にこっちで同じ様に切ってみな?」
渡された別の包丁を持ち、同じ様に人参に刃を当てる。
そして同じ様に手前に引くものの、人参の1/3くらいまで刃が食い込む程度で止まった。
「なんか全然切れなくなったですよぅ。同じものなのになんでですよぅ?」
「今嬢ちゃんが持ってる方は、まだまともに研いでねぇんだ」
自称女神が「トグ?」と不思議そうにしてるが無視しておく。
「つまり、さっきの『くらふと』とやらで作ったのはここまで極端ではないにせよ、最低限程度の切れ味しかない程度のものだったって事だな」
「んー…おじいさんの言ってる事が良く分からないんですよぅ。クラフトはダメですかよぅ?」
職人は「んー…」と唸り、腕を組む。
「まぁ、あんだけの物を直ぐに作れるのは間違いなく便利なんだろうけど、あれを職人が店に並べるってのは理解できねぇなぁ…」
職人の矜持があるのだろう、そういうところは譲れないらしい。
「ま、とりあえず自分でやってみないと何とも言えんがな。で、嬢ちゃん?」
「ん?。おじいさん、なんですよぅ?」
職人は姿勢を正して、自称女神へと頭を下げる。
「とりあえず、儂に『くらふと』とやらのやり方を教えてくれ」
「あぁ、そういう事ですよぅ。それくらいお任せなんですよぅ。ただ…」
歯切れ悪く口ごもる自称女神を、顔を上げた職人が見る。
「ん?。嬢ちゃん、なんか不備があんのかい?」
「不備というか、材料がないんですよぅ?」
言われた職人は驚いたような顔をして「あぁ、そういう事か!」と反りながら手で顔を押さえる。
「とりあえず、儂でもやれそうな『くらふと』とやらには、何が要るんだ?」
「おじいさんは鍛冶職人なので、とりあえず『ブロンズインゴット』なんかお勧めなんですよぅ。これは銅鉱4つなんですよぅ」
いきなり言われる鉱石に、職人の顔が曇る。
「おいおい、銅山まで行って採って来いっていうのか?。かー、『くらふと』ってのは大変だなっ!」
「ん?。銅鉱程度ならどこでも採れるですよぅ?。お店でも売ってるかもですよぅ」
鉱石がどこでも採れるというのが理解できない職人が首を捻る。
「店で買うにしてもこっちの金もねぇしなぁ…んじゃ、とりあえず採りに行くか。嬢ちゃん、採れる場所は分かるか?」
「それだったら、この街をでてすぐの洞窟なんか丁度いいと思うですよぅ」
職人は「村な」と突っ込みながらも、場所の説明を受ける。
そして村に来た時のジーンズ上下の動きやすい格好に猟銃二丁、さらにツルハシを手に取ると、自称女神の言う洞窟を目指すのだった。
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