第7話 ばあさんへ。クラフトを勉強してみます。
「無事戻れた時の為にも、きちんと生活をするべき!」
職人・
そして布団をたたみ、まずはばあさんの仏壇の水を換え手を合わせる。
…ばあさん、なんかしらんが儂、異世界とやらに来てしまったぞ。
職人の頭の中には優しい声で「あらあら、まぁまぁ」と響いていたとか、いなかったとか。
そして朝食の準備をしつつ工房に火を入れる。
味噌汁と納豆とちょっとした漬物というシンプルな朝食を食べた後、そのまま使った食器を洗うと、作務衣に着替えて工房へと向かう。
とりあえず飛ばされた日にやっていた、注文の包丁の続きを進めていく。
お昼が近付き、職人はぐーっと背を伸ばすと工房の火を落とす。
そして、簡単な昼食を食べ終わると、引き戸を開けて外へと出た。
「あら、おじいさん。昨日はお鍋をご馳走して頂き、本当にありがとうございました」
通りすがりの村人の夫人がおじいさんに声をかけてくる。
「おう。また機会があったら鍋やるんで、そん時は顔出してくれ」
夫人は嬉しそうに「まぁ」と言いながらどこかへ歩いて行った。
…さて、今日は『くらふと』とやらを調べてみるか。
鍛冶職人としてのプライドがあるので、例え異世界であろうと何かを作り出したいと思う。
午前中に試したところ、とりあえず今まで通りに物を作る事は出来た。
ならば、次はこちらの世界の技術も取り入れれば、自分の作品の幅が広がるのでは?、というのが職人の行動原理だった。
「ふぁぁぁぁぁぁ…あ、おじいさんですよぅ。おはようですよぅ」
もう昼過ぎだというのに、ムニャムニャと眠たそうに眼をこすりながら、珍妙な格好をした自称女神がやってくる。
「ダラーっとしてんなぁ。とりあえず今日は『くらふと』とやらを勉強したい。どこいけばいい?」
「クラフトですよぅ?。それなら、お店に行くのがいいと思うんですよぅ」
そんな自称女神の提案に乗り、2人はこの村唯一の武器屋へと向かう。
「ホー…こりゃ、盾か?。なんかけったいなデザインしてんなぁ…」
入り口に飾ってあった看板代わりの盾を見て、職人がブツブツと言っている。
「おーう、ちょっと邪魔するよう?」
まるで行きつけの店に顔を出すかのように、馴れ馴れしい感じで店に入る職人。
「あ、いらっしゃいませ。本日は何をお探しですか?」
軽く頭を下げて、礼儀正しく迎える店主は、入ってきた2人組をじっと見る。
「あ、あなたは!。昨晩にお鍋をご馳走して頂いたご老人ではないですか!」
「おー、あんたか。なんだ、あんたも鍛冶職人だったのか?」
職人は店主に近寄り、がっしりと握手をする。
「…それで、ご老人は当店でなにかお探しですか?」
「いやぁ、ちょっと『くらふと』ってものを勉強したいと思ってな。出来たらやってるところを見せて欲しいんだが…どうだろうか?」
同じ職人として、どの程度相手の手を煩わせるか分からない以上、それなりに礼は尽くすべきだろう。
「そうでしたか、それは勉強熱心な事です。昨日にご馳走して頂いた恩返しも兼ねて、私程度の技術で良ければご覧ください。どうぞこちらへ」
店主に案内されるまま、2人は店の奥へと向かう。
そこは自分の思ってるような窯や鍛冶の道具は並んでおらず、棚にインゴットが整然と並んでいるだけの場所だった。
「それでは、いきます。材料の在庫がそんなにないので、とりあえずこのアイアンインゴットを使ってアイアンソードを作ってみたいと思います」
「ん?。道具とかは使わんのか?」
店主が職人の問いに首をかしげる。
「えぇと…クラフトですので何も必要ないのですが…なにかおかしな事を言いましたでしょうか?」
「あ…いやすまん。気にせんで続けてくれ」
店主は不思議そうな顔をしたまま、「そうですか?」と作業を続ける。
「あ、そういえば!。すまん、もぅ少しだけ待ってくれ」
職人がそう言って、懐をごそごそ漁り出す。
そして手の平からはみ出るくらいの四角いものを何やら台の上に置く。
そう、電波は通じないけど色々便利な道具、スマホだ。
「よし、大丈夫だ。すまん、続けてくれ」
「は…はぁ?」
店主は不思議そうな顔をしていたが、作業を続けることにした。
台に置いたアイアンインゴット2本に店主が手をかざすと、手から熱っぽい様な炎の様な何かが出てくる。
シュワシュワシュワ─────ピカーン
すると台に置いたインゴットが光ったかと思うと、そこには1本のシンプルな剣が出来上がっていた。
「おぉ…昨日の野菜炒めと一緒だ。こんなもんを一瞬で…」
職人があまりにしげしげと出来上がった剣を見ているので、店主はおかしくなって吹きだしてしまう。
「ふふっ。気になるなら手に取られても良いですよ?」
「そ、そうか?じゃあちょっと失礼して…」
職人は剣を手に取り、興味深そうに色んな方向から見る。
しばらく見ていた職人は満足したのか、剣を台に置き店主に頭を下げる。
「いや、良いものを見せてもらった。どの程度自分がやれるか分からんが、がんばってみる。ありがとう」
「いえいえ、少しでも力になれたのならこちらも嬉しいです」
そして職人は、置いたスマホを回収すると、武器屋を後にする。
家路へとつく何故か職人の顔は、どこか険しかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます