第一章 ひとときの安らぎ5

 てるてる坊主とは、日本の風習の一つだ。


 晴天を願うためのおまじないで、ティッシュなどの白い紙を丸めて作った人形を窓際に吊し、「あーした天気になーれ♪」と、お祈りするものである。


 それを教えると、ルリはキラキラと目を輝かせて、


「つくる! ルリ、てるてるぼーずつくって、あさってはれにする!」


 どうやらやる気マンマンのようだ。


「ということで総司さん、いかがですか?」

「こうなったら神頼みしかないしな。明日つくるとするか」

「やったー! やった! てるてるぼーず! やったー!」


 椅子から飛び降りて、くるくると回り出すルリ。

 気になったのでなぜ外国育ちの鈴華がてるてる坊主なんか知っているのかと聞いてみると、昨日、テレビで見たのを思い出しただけということだった。


 そして夕食を終えて、しばらくしたあとのこと。

 総司たちは傘を差して見回りに出て、ある意味本来の目的となってしまった買い出しの際に、水中眼鏡と一緒に、てるてる坊主をつくるための材料を購入。

 翌日の夜、昨日と変わらぬ大雨の中、それをつくることになった。

 ルリや鈴華と共に、ティッシュペーパーやキッチンペーパー、紐などを使って十個ほどつくり、カーテンレールに吊していく。


(って、これは……)


 思わず総司は苦笑した。

 カーテンレールに吊した、不恰好な十個のてるてる坊主。

 総司も鈴華もルリも、手先に関しては不器用だ。それだけにつくっている最中にも思ったのが、出来が決していいとは言えない。

 正直、てるてる坊主というより、ちょっとした集団首吊り死体という方が納得出来るくらいの、不気味極まりない光景である。

 それでも、ご利益はあったようだ。

 翌朝、目覚めと共に瞼の向こうに感じたのは、カーテンの隙間から漏れる、朝の陽光だった。


(やった、晴れたんだ……!)


 ベッドから身体を起こした総司は、弾むような足取りで階段を下りて、リビングへと向かっていく。

 そこで総司を迎え入れてくれたのは、外の天気と同じような、明るい笑みを浮かべたルリと鈴華だ。


「おはようございます、総司さん! 晴れましたね!」


「はれたー!」


 鈴華もルリも、とても嬉しそうだ。


「きっと、この子たちのおかげです」


 そう続けた鈴華が視線で示したのは、窓際に吊された集団首吊り死体——ではなくて、てるてる坊主である。


「……そうだな」


 不恰好でもつくっている最中に三人で込めた想いが、空に届いたのだろう。

 朝食を食べながら見た朝のニュースでも、今日の降水確率はゼロパーセントだと言っていた。昨夜のうちに、雨は全て降り尽くしたようだ。

 

 今日は全力、高気圧!


 ならば、なにも問題ない。

 総司は鈴華たちと共に見回り変わりの朝の散歩をして、家に戻ってからは少し勉強もして、昼食を食べたあとのこと。

 隣町にある遊園地の屋外プールへと向かうため、鈴華とルリと一緒に家を出た。

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