第8話 ハーピークエスト7

 アリアディア共和国の住宅街。

 リジェナはその中でも一際大きな家へと入る。


「これはリジェナ様。今日はどうされたのですか?それから後ろの方々は?」


 家に入ると太ったトルマルキスが出て来て頭を下げる。

 リジェナはその顔を見ると溜息が出そうになる。

 トルマルキスは問題を起こした。

 その事に頭が痛くなったのだ。


「こちらの方は法の騎士であるデキウス様です。そして、その後ろにいるのは魔女狩人の方々ですよ、トルマルキスさん」


 リジェナが紹介すると、頭を下げているトルマルキスの体がビクンと震える。


「あっ……。あの、なぜ法の騎士と魔女狩人がここへ?」


 トルマルキスは顔を上げながら言う。

 その顔からは、大量の汗が流れ落ちている。


「何故だと? それは、お前自身が知っているのではないのか?」


 魔女狩人の1人が前に出て来る。

 魔女狩人達は全員が違う恰好をしている。中には普通の市民と変わらない者もいる。

 理由は人間社会の影に潜む魔女に気付かれないためだ。

 まあ、当たり前だろう。魔女狩人ですとわかりやすい恰好をすれば、魔女に逃げられてしまう。


「な、何の事だ!? 私は何も知らない!!」


 トルマルキスは目に見えて狼狽して、後ろに下がる。


「魔女狩人の皆さん。この家の持ち主である私が許可します。家探しをしても良いですよ」


 リジェナがそう言うと、魔女狩人達は、ずかずかと家の中へと入って行く。

 法の騎士は明確な証拠が無ければ強制捜査ができない。

 魔女狩人にはそもそも捜査権がない。

 しかし、どちらでもあっても、家の持ち主が認めたら捜査する事は可能である。

 これで、この家の地下室にある、魔術師の研究所は発見されるだろう。


「待って下さい!!」


 デキウスが叫ぶ。

 横を見るとトルマルキスが殴られている。


「何ですかな? キリウスとかいう魔術師の話では、この男が有罪なのは確実。邪悪な魔術師を匿ったのだ。このような仕打ちは当然だろう?」

「確かに彼は罪を犯したかもしれない! しかし、アリアディア共和国では裁判をせずに、罰を与える事を認めていない! 君も神王オーディス様に仕える者ならば、定められし法を守りたまえ!!」

「ふん、それは健全な市民に対するもののはずだ。このような者に法を適用する必要があるとは思えないがね」


 デキウスと魔女狩人が言い争う。

 魔女狩人が来たのは失敗だったとリジェナは思う。

 本当はデキウスだけを連れてくる予定であった。

 しかし、どこから話を聞きつけたのかは知らないが勝手について来たのだ。

 おそらく、魔女狩人と通じている者がオーディス神殿にいるのだ。

 前にシェンナが言っていた事は本当だったのだろう。

 今後、注意しなければならないとリジェナは思う。

 何故ならリジェナも魔女狩人から見たら魔女である。

 もっとも、リジェナとしては世の中の人間がどう思おうがかまわない。

 例え魔女と呼ばれようが、愛する者の使徒になれたのだから。

 リジェナは主人である暗黒騎士を思い出す。


(旦那様に会いたい……)


 リジェナは思い出すだけで体が熱くなる。

 今度会いに行けないだろうかと、そんな事を考える。

 しかし、今は目の前の事を片付けなければいけないだろう。

 目の前ではトルマルキスが豚のような悲鳴を上げていた。






「ありがとうございます! 戦乙女シズフェ様!!」


 愛と美の女神であるイシュティア様の神殿の一室で、サルミュラがシズフェに頭を下げる。


「いえ、フィネアス君が無事で良かったです」


 シズフェは手を振ってサルミュラに応える。

 あの後、シズフェはシェンナから事件の背景を聞いた。

 デキウスが捜査していた薬はハーピーの体液を原料にしているらしい。

 薬を作っていたのは件の魔導師キリウス。

 そして、その体液を得るためにワルラスはハーピーと取引をしていたようだ。

 何て奴らだとシズフェは思う。

 同じ人間を売るような者は許してはならない。


「あの、報酬ですが、本当によろしかったのですか?」


 サルミュラは申し訳なさそうに言う。


「ああ、報酬は別に良いですよ。サルミュラさんから受け取れません。貰いすぎになってしまいます」


 シズフェはサルミュラからの報酬を断る。

 実はリジェナから迷惑料として大金を貰ってしまったのだ。

 何でも魔導師に薬を作らせていたのは、リジェナの部下だったので、迷惑料はその為である。

 だから、シズフェはサルミュラから報酬は受け取るつもりはない。

 貰いすぎになってしまうだろう。


「それでは私はこれで、仲間達が待っていますから」


 シズフェは席を立つ。

 後ろではサルミュラが、何度もお礼を言っている。

 シズフェはイシュティア様の神殿を後にすると近くの飲食店に入る。ここで仲間達が待っているはずであった。

 ちなみに、ここは友人のジャスティが働いている店でもある。


「遅かったな、シズフェ。待ちくたびれたぜ」


 先に来ていたノヴィスが待ちきれないとばかりにシズフェに言う。


「ごめん、ごめん。それからサルミュラさんが貴方に、お礼を言っていたわよ。戦士団を紹介してくれて、ありがとうって」

「フィネアスの事か? いいって事よ。若い戦士を鍛えるのは、先輩戦士の務めだからな。がははは」


 ノヴィスは豪快に笑う。

 フィネアスはノヴィスの紹介する戦士団へと入団する事になった。

 その戦士団は戦神トールズを信仰する戦士団で、厳しいが真っ当な戦士団らしかった。

 正直に言えば、華奢なフィネアスがやっていけるとは思えない。

 悪いけど、直ぐに死んでしまいそうだとシズフェは思う。

 しかし、これはフィネアスの希望である。

 何でもノヴィスみたいに、なりたいらしい。

 シズフェはフィネアスが筋肉ムキムキの戦士になる姿を想像できなかった。


「みんな~。飲み物と料理を持って来たわよ」


 給仕のジャスティが飲み物と料理を運んで来る。


「よっ! 待ってました!!」


 ケイナが料理を見て喜ぶ。


「さあ、シズちゃん。みんなが待っているよ」

「そう。わかったわ」


 マディの言葉でシズフェは立ち上がる。

 続けて仲間達も立つ。

 そして、シズフェは仲間達を見る。


 ケイナ。

 マディ。

 レイリア。

 ノーラ。

 そして、ノヴィス。


 シズフェは依頼が終わるたびにいつも思う。

 ここにいる仲間達がいたから、ここまで来る事ができた。

 だから、シズフェは祝杯を挙げる時、いつも仲間達に感謝をしている。


「さあみんな! 杯を高く掲げて! 依頼が成功した事を祝いましょう!!! 乾杯!!」


 シズフェが杯を高く掲げて言うと、仲間達がそれに応える。


「「「「「乾杯!!!!!」」」」」



★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★


 駆け足でシズフェ編を書き直しました。

 次回からレンバー編です。

 もう少し外伝が続きます。

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