第39話

カンナを追って中に俺達も部屋の中に入る。



この空間には何もいない?でも気配は確かにある。

奇妙な感覚だ、何があるんだろう。



しばらく警戒しているとどこからか声が聞こえてきた。



「ここまでくるとはなかなか見所のあるやつらだが、お前らはここで終わりだ!」



暗闇の中からマントを羽織った貴族のような男が現れた。


白い肌、端正な顔立ちにタキシードとマントを着こなす姿は普通の人間に見えるが、うっすら笑うその口元からは人間のものにしてはありえないほど鋭利な犬歯が見え隠れしていた。


こいつはもしや……



カンナ「あなたはまさか…吸血鬼なんですか?」



「ほぅ、見ればお前も吸血鬼のようだな。だが私はただの吸血鬼などではない!吸血鬼の始まりにして頂点、真祖だ!

お前達のような矮小な存在など刹那の間に数回は殺せるが、せっかくの狩りだ。なぶり殺しにしてやるぞ!」



やっぱりカンナと同じ、いや吸血鬼の上位種の真祖だったのか。

にしても、セリフの小者臭さが半端ないな。ほんとに真祖なのか?使い魔とか低級魔人とか言われた方がしっくりくるぞ。

まあでも、こんな小物ならカンナ一人で圧勝だろう、おとなしく観戦していよう。



翔「カンナ、じゃあその真祖とやらの相手は任せるよ!」



カンナ「分かりました!じゃあ頑張りますね!」



俺とカンナのやりとりを聞いて真祖が激昂した。



真祖「聞いていなかったのか!?俺は真祖だぞ!魔王にも匹敵する強さを持っている最強種だ!それをただの吸血鬼一人で倒すだと?ふざけるな!」



カンナにもうスピードで突っ込む真祖、それをひらりと避けながら白銀のレイピアを構えた。



真祖「ふん!少しはやるようだな!だがこれならどうだ!深淵魔法。」



真祖の手からは黒よりも暗い魔力が溢れだし、身体を包む。



真祖「この深淵魔法は自身に使えば絶大なステータス補正がかかり、これを喰らったものは弱体化する。これ事態にも凄まじい攻撃力があるため、取っておきだったが……これでお前を徹底的にいたぶってやるぞ。」



そして、その魔力を弾にして無数にカンナに放っていた。しかし、これを難なく避けていた。

魔力弾を避けられるとは思っていなかったのか、これならどうだー!と魔力弾をでたらめに放ち続けたが、カンナはそれをひたすら避けて、弾いていた。



10秒程の真祖の攻撃が止んだところでカンナが口を開いた。



カンナ「もう終わりましたか?今度はこちらから行きますよ!」



そう言うと白銀のレイピアに魔力を注ぎ込む。覚醒したカンナの圧倒的な魔力によって眩い光を放ちだす。それはもはや聖剣と言える程の輝きだった。



カンナは予備動作すら感じさせずに真祖の真正面に移動すると、素早い連擊を浴びせて蹴り飛ばした。

吹っとんでいった真祖は壁に叩きつけられ、起き上がってきたときには満身創痍になっていた。



真祖「ば、ばかな……私が吸血鬼一人に手も足も出ないだと。

私は認めん!認めんぞーーー!!!」



そう叫び、アイテムボックスのような空間から一振りの剣を取り出した。

その剣はカンナの持っている剣と同じようなレイピアのようだったが、放っているオーラの桁が違った。


まるで、ティルを初めて見た時のような衝撃を受けた。



ティル「あの剣、もしかして!?でも何で、どうして?」



ティルが珍しく困惑していた。口振りから見て、あの剣とは知り合いのようだ。

となると、あの剣もティルと同格の聖剣ということになる。

これは少し不味いかもしれないな、神話級の武器ともなるとどんな凶悪な能力があるか分からない。加勢してでも瞬殺するべきか?



真祖「ハーハッハ!この武器を装備した私は最早魔王さえ圧倒する!

これでも先程のような余裕が見せれるか!小娘!」



先程とは比べ物にならない速度で剣をカンナへ突き刺そうと突撃する。

カンナも反応は出来ているが、避け損なうのを嫌って剣で防ごうとするが、



ティル「受けちゃ駄目!!!避けてカンナ!!!!その剣での攻撃は全て避けて!」



必死の形相でティルが叫ぶ。それを聞き間一髪で何とか避けたカンナだったが、少し腕に切り傷が出来ていた。



「どうやらそこの娘はこの剣の正体に気付いたようだな!賢明な判断だ。」



そう言われるが、ティル以外どういうことか分からないという顔をしていたのでティルが説明してくれた。



ティル「あれは聖剣フロッティ、突き刺すものの異名を持つ神話級のLR武器よ。その名の通り、あの剣での突きは防ぐことが出来ない。剣はおろか、強固な鎧や、盾も装備者もろとも突き刺す。あの剣にはその能力と大幅なステータス上昇の他に特殊な能力はないけど、それだけでも十分強力な剣ね。」



俺はそれを聞いて逆に安心することができた。だって、当たらなければどうということはないのだから。



翔「カンナ!聞いてたかー?その剣での攻撃は防御できないらしい!だから、攻撃を全部避けるんだ!いいねー?」



それだけ伝えて俺は観戦モードに入る。



アノン「いいの?カンナだけでやらせても。」



アノンが心配そうに見てくるが、



翔「うん、強くなったカンナなら大丈夫だよ。

それに、カンナには戦闘面でもっと自信を持ってほしかったからね。

この戦いでそれを身につけてほしいんだよ!」



俺の言葉を聞き納得したようでアノンも観戦態勢に入った。


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