第8話  動物の医師のお話

人と動物の共存はいかにするのか

動物園の専任獣医師が大学の講義で述べたお話を紹介いたします。


「私は、新人時代にオオカミの担当を任せられました。一頭の森林オオカミが体調を崩していました。オオカミは集団生活をしています。その原因は、仲間との間で意思疎通ができていないことが判明したのです。薬を飲ませたり、体温を測ったりするには、そのオオカミを一度眠らせなければなりません。そこで、動物園としての判断は麻酔を使いしばらく眠らせる作戦をとりました。私がその担当者になりました。吹き矢の先に麻酔薬が付いた矢をそのオオカミに向かって吹きます。おなかの部分を狙います。一週間に三度程の治療です。月にしますと十二回になります。

オオカミにとっても眠る行為は、仲間に弱みを見られた錯覚になります。そのために仲間の前では眠らないのです。これらは、モンゴルでオオカミの研究している学者か発表した論文です。

二ヶ月が過ぎた頃に、そのオオカミは私を見た瞬間に倒れました。吹き矢を打たない前でした。

別の担当獣医がそれを聞いて駆けつけてくれました。私に向かって「死んでいる」と一言。

先輩に当たるその人は、オオカミの死に対して「毎回、睡眠薬を打たれての治療に絶えられなかったのではないか」と言いながら私を慰めてくれました。周りのスタッフも私に同情してくれました。オオカミも人間と同じで仲間を大切にして特に年長者や親には絶対に抵抗しない習性です。

私は、当分オオカミ担当から離れました。そして、動物に対しての扱いは獣医師としての勉強をもっとしなければならないと考えました」


この獣医師は現在、北海道旭川市の旭山動物園の坂東(ばんとう)園長なのです。

動物の習性観察(しゅうせいかんさつ)と分析結果(ぶんせきけっか)は、長い年月を掛けて研究者や学者が行うものです。しかし、今では時間的にもその動物の習性を導き出す手立ては、並大抵(普段の努力)の事では不可能です。動物の環境も大きく変化しその動態も行動範囲もわれわれ人間の考える案件をはるかに超えているのです。動物とその共存は「好きだから。欲しいから。可愛いから」だけでは、人間が考えているほど甘くはありません。

北海道には、多くの野生動物が生息しています。それだけ環境が良い証拠なのです。人間とのかかわりを一部紹介いたします。

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