第7話 処分




 ええと、あれは、そうですね。

 小学校の卒業式があって、そう、たしかその次の日の晩のことでした。


 ええ、暖かくなったのを喜ぶ間もない、あわただしい春だったんですよ。

 春のお彼岸ひがんを前に、祖父が亡くなりましたしね。

 ああ、うちの、つまり父方のほうですよ。


 まあ、それなりな歳ではあったんですけど、まだ70代も前半でしたしね。

 祖母がもうとっくに亡くなってた、ってのもあるでしょうけどね。

 たぶん、気落ちしたのが大きかったんでしょう。


 ほら、親戚しんせきの子があんなことになったわけじゃないですか。うちで。

 それも二人も。

 それまでうちへ顔だしてた親戚の数が、ぱったり減ったんですね。

 例の子供たちの家族はもちろん、ほかの家も、なんやかんや理由つけて顔出しを断ってくるようになった。

 で、その前の年の末を前にして、小さいほうの子が亡くなったんですよね。

 もうね、ほとんどいなかったんですよ。年末年始に顔出しにくる親戚が。


 祖父も古い人間でしたからね。親戚のあいだで評判が落ちた、家門のおさの自分の価値が損なわれたー、とか、そんな風に感じたみたいで。

 2月にはいって寒さがきびしくなったころ、急に体調くずして、それから一月ちょっとでいきなりっちゃった。


 まあ、親戚につづいて、祖父までそんなことになったわけですから。

 もう、手放してしまおうという話になりまして。

 ええ、例の屏風の話ですよ。


 まあ、さっきも話しましたっけ。もともとは母の嫁入り道具の、値打ち物の屏風だったんですけどね。

 母自身も、元からあまりに屏風に愛着をもってた訳でもなかったですし。

 母に屏風をもたせた祖父も、その前の年の夏に亡くなってたんですよね。

 ああ、父のほうの祖父じゃないですよ。そっちは春に亡くなったほう。

 夏に亡くなったのは、母のほうの祖父です。


 これも話しましたっけ。

 例の屏風は、母の実家につたわってた、まあ、家宝みたいな由緒ある屏風だったってこと。

 んでまあ、祖父、母の方の祖父は、その屏風を母の嫁入り道具として持たせたんですよね。

 一族も最後の一人娘に、お守りみたいな感じで。

 その屏風が原因で、嫁入り先の家の子供がふたりも大変なことになって、しかも一人は死んだって。

 まあ、痛いですよね。精神的にね。

 なるべく隠そうとはしてたみたいですけどね。娘の嫁ぎ先ですからね。どうしても聞こえたみたいで。

 ずっと気に病んでたみたいで、それがこたえたらしくて、とうとう夏のころにっちゃった。


 まあ、気の毒な話でしたけどね。

 でもね、そういうことがあったから尚さら、あの屏風、家から手放しちゃおうって話も進んだみたいで。

 でもまあね、事情が事情ですから。

 古道具屋に売るとかして、それでおしまい、ってのもスッキリしないっていうか、そう考えたみたいなんですね。


 まあ、そんなわけで、お寺に収めたんですよ。

 ああ、ちょうど、っていうか、市内にね、あったんですよ。うちの……ほら、菩提寺ぼだいじ

 まあ、たまに聞くじゃないですか? お寺に収めて供養くようしてもらう、ってやつ。

 べつに、あからさまに祟り? とか、あったわけでもないですけどね。

 まあ、えらいことになったわけですしね。四人も。

 あとはまあ、例の屏風はそういう風に責任もって処理した、みたいに、親戚にひろめるとか、そういうモクロミもあったのかも知れないですね。




 それが終わったのが――ちょうど、卒業式の日だったんですね。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る