第8話 「モトダン! イマダン!」

「それはオヌシの空耳じゃ」


 神様はさっきの発言を誤魔化した。

 それにしても一日三分って、短くないか!


「一日一回が原則じゃ」


 一日一回しか遊べないなんて……


「そう何度ももてあそばれたら男の身体がフニャフニャで立たなくなって使えなくなるからな」


 女神の言葉に違う意味が含まれているように聞こえたのは俺だけか。


 しかし、異世界に来てゲームをするハメになるとは……

 俺はレバーとボタンをガチャガチャと動かして具合を確かめた。

 キツイな……

 新品のゲーム機のように硬くしっかりしている。

 実際、遊ぶ時は何度も遊ばれて少し緩くなった方が技を掛けやすくて具合がイイのだが。


 でも、たったこれだけの操作でなにが出来るんだ?


「それはオヌシの工夫次第じゃ」


 工夫って言ったって……操作方法はどうなっているんだ?


「実際に自分で操作して理解した方が楽しめるじゃろ」


 ゲーム的発想だ。

 ゲームの操作盤をいじっていたら久し振りの感覚に興奮して来た。

 高校に入ってからゲーセンには、ほとんど行かなくなったからな。

 昔はお金をたくさん並べてダチと対戦ゲームを飽きるまでヤッたもんだ。

 ……でも今はコイン一枚しか持っていない。


「モンスターを倒してコインをゲット! 経験値も貯めてレベルアップだ!」


 おおっ! ゲームの醍醐味、レベルアップ!

 女神がアドバイスしてくれた。


「何度もゲームではないと言うておるではないか」


 俺は神様の言葉を無視して、女神の話に夢中になった。


「強いモンスターならコインも経験値の量も沢山だ。   

 コインと経験値は自分だけではなくパーティーメンバーが敵を倒してももらえるぞ。

 そしてレベルが上がれば、オマエのその硬いジョイスティックがパワーアップするぜ!」


 おおぉ! パワーアップしたらどうなるんだ?


「それはレベルアップしたあとのお楽しみだ、自分で使って確かめな。

 ただし、レベルアップしたらもらえるコインの量や経験値も減るから、ヤリクリはしっかりしろよ」


 おお! 女神が分かりやすい事を言ってる。

 俺は女神と意思疎通が出来ているのが嬉しくて、ボタンとレバーをガチャガチャしながら感動していた。


 “ガチャガチャ!”


 俺は小学生の頃、ジュニアサッカーチームに所属していて、練習の帰りには必ずバッティングセンターのゲームコーナーで仲間と対戦ゲームをしていた。

 なぜ子供なのに怒られずにゲームが出来たのは、バッティングセンターのオーナーがサッカーチームのコーチも兼任していたからだ。


 中学生になってからは、OBとして子供達に教えた帰りにゲームをヤリにバッティングセンターに通っていた。

 オーナーが見廻りの先生から守ってくれるのは有り難いが、おかげで財布の中身がすぐ空になった。


「もうアタシがここにいる必要はないだろう。

 大体アタシの担当はアッチの男なんだ。

 仕事は済んだし、帰らないとな」


 えっ!


「なんだ、寂しいのか」


 ち、違う!

 ……俺、寂しいのか。

 酷い女神であったが、最後には話が通じ合うようになって別れが名残惜しくなったのか……


 そうだ!

 ラスボスを退治したら、なにかご褒美をもらえないのか?

 そしたらまた会えるかも。

 俺は女神にオネダリをしてみた。


「そうか」


 そう言うと女神は両胸を下から持ち上げた。


「これが欲しいのか」


 衣の上から胸を揺らしながら茶目っ気な笑顔で俺を誘惑した。


 チョ⁉︎ そ、それは……

 予想外の展開で言葉が出ない。

 女神は巨乳ではないが、形の良い胸が上下左右に揺れている。

 おっぱいがボインボインと……

 俺は赤面して、たじろぐばかりでなにも出来ないボイ~ン!


「ラスボスを倒した暁には、オマエの胸をボヨンボヨンのオッパイにしてやろう」


 い、いらねえよ!

 騙されて少し残念だったが、女神はキャラのままのネエチャンだったので良かったと思った。


「もう会う事はないだろうが、くれぐれもアイツを死なせないよう守ってくれよ。

 さらばだ、だぁあっ‼︎」こーーっ!


 女神は銀色に輝きながら天空を飛び立ち、光の国へと帰って行った。

 もう会えないのか……

 思っていたよりも寂しさが湧いて来てる自分に驚いた。

 そのまま俺はもうひとりの神様を見たが、そんな感情は湧かなかった。


「なんと!」


 俺は神様を無視して空を見上げた。

 太陽は真上の方にあるので、お昼時だと思われる。

 目の前には冒険者たちの重い足取りで歩くうしろ姿が見て取れた。


 まあ、今日は大変な出来事があったのだから、このまま冒険を続ける訳には行かないよな。


 それに神様には色々聞きたい事が多いので、いつまでも神様を無視する訳にもいかない。


 神様ぁ、敵ってどんなヤツなんだぁ〜? ラスボスってホントにいるのかなぁ〜?


「どうやら、彼らの会話が始まるようじゃ。

 皆の話を聞くのも冒険の醍醐味じゃて。

 その中に大事な話が混ざっておるからの、しっかり聞くのじゃよ」


 神様は俺の質問を制して、彼らの話を意識して聞くようにうながした。


 俺は冒険者たちを見た。

 妖精っ娘が羽ばたきながら男に近寄って来た。


「村までアト半分だから、ガンバッテ!」


 うおぉ! 優しいアンド可愛い! なんなんだ、この生き物は!

 もう、いろんなポーズや着せ替えをして部屋に飾って愛でたいくらいだ。


 今度は隣にいる魔法使いの少女が話し掛けて来た。


「オレ達は魔力を出し切ったんだ!

 それなのにオレ達の記憶がないって、ふざけてるだろ!」


 まさかのオレっ娘、キター!

 天使の顔で小汚い言葉遣いなんて、ギャプ萌え~!


「まあまあ、ゴハンを食べたら思い出すにゃん」


 なんなんだ、このカワイイ語尾は! 吟遊詩人の少女は不思議ちゃんか!


「アハハハハ!

 コイツなら、そうだよな」


 なんて皮肉タップリな表情の魔法少女、いや魔法童女、最高だ!


「そうだわん!」


 なんだなんだ?

 この『にゃん』と『わん』の両刀使いの吟遊詩人の少女は?

 そういえば、前にテレビのバラエティ番組で方言特集をやってた時『わんにゃん』言葉を使っていたのを見た事がある。

 それなのか!


 甲冑の少女がコチラを振り向いた。


「……」


 彼女は男を見たが、なにも話してくれない。

 ……彼女の声も聞きたいなぁ……


 俺は話の内容よりも、可愛い少女たちの声が聞けて感動していた。

 しかも普通に理解出来るのだ。

 言葉は日本語ではないはずなのに、日本語を聞いているかのように聞こえる。

 これも神の御業というものか。


「もっと褒めても良いぞ」


 ……神様の声など要らない。


「名前……知りたいんだけど……」


 男がボソボソっと唐突に話しかけた。

 まだ教えてもらってなかったのか?


「記憶を思い出すまで秘密だにゃぁ」


「本当はオマエじゃなく悪霊が乗り移っているかも知れないからな」


 悪霊!

 俺と男の二人はビクリとした。

 ……俺達、悪霊じゃないよな……なぁ。


「通り名とか二つ名、教えただろ、それで充分だ」


 魔法使いの童女の言った二つ名ってなんだ?


「お、おれの『チャレンジャー』って二つ名、なんなんだ?」


 チャレンジャー、挑戦者……それが、この男の二つ名か。

 なかなかイイんじゃないか、初心者冒険者っぽい感じの二つ名だけど。


「フッ、それはオマエの男友達が付けたんだ。

 オマエ、オバサンやババァにアタックするから『チャレンジャー』って名付けられたんだ。

 アハハハハ!」


「イイ趣味だわん! ウフフ」


「クスッ」


 甲冑の少女も笑った。

 ……かわいい。


 オバサンって、人の趣味をとやかく言うつもりはないが……ババァは悪趣味だろ!

 それじゃあ、こんな美少女に囲まれて居るのに、誰も好みじゃないのか?

 なんて勿体無いんだ、この元の男は!


 この男の元の魂と今の魂と身体……ゴッチャになるな……

 とりあえず二人を区別する為、元の魂の男を『モトダン』、今の魂の男を『イマダン』と呼ぼう。


 イマダンもモトダンの趣味なので、他人事のようにスルーして歩き続けた。

 それより、このままでは皆んなの名前を知らずに冒険が終わってしまうのではないか。

 イマダンは転生者だから、モトダンの名前さえ知らないんだから。

 それは俺も同じか……

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