△▼△▼狩る者狩られる者△▼△▼

異端者

謎のハイテンションで書いた本文

 僕は優秀な霊能者だ。……それもとびきりの。

 今、僕はとある女子高生を尾行している。

 しかあーし! 断じて不純な目的ではない! あくまで彼女を守るためなのだ!

 彼女は黒髪のロングでやや小柄で……ハアハア……でも出てる部分はしっかり出てて……ハアハア……思わず押し倒したくなる……ハアハア……い、いや卑猥な目的は断じてないぞ! 僕は優秀な霊能者で、これはあくまで彼女を守るためで――。

 彼女は女友達と二人で下校中のようだが、僕の完璧な尾行術には気付くまい。その完璧すぎる気配の消し過ぎで、修学旅行のバスに置き去りにされそうになった程だからな。これは断じて存在感が薄いとかそういうのではない。むしろ目立ち過ぎて学生の時は「黙ってろ」と何度言われたことか……。そう! これは天賦の才なのだ!

 ……少し話がそれてしまったが、話を元に戻そう。彼女は悪霊に取り付かれているのだ。

 それに気付いたのは、日課のジョギングの時……偶然にもこの時間帯は、近所の女子高の登下校の時間帯と重なってしまうが、やましい目的は一切ない! とにかく、僕は気付いたのだ。彼女が非常に強力な悪霊に取り付かれていることに。

 その悪霊は、どす黒い気を発していて、大きくて、大きくて、あと何か……え~と、なんというか非常に禍々しい、例えるなら近所に下着泥棒が居て、ぬめぬめした視線をベランダの女性用下着に注いでいるような……そう、そんな凶悪さだったのだ。

 そんな悪霊がか弱い少女の背後に迫っているのを、プロフェッショナルスーパー霊能者である僕としては放っておくことはできなかった。

 そう! 僕は凄い! 並の霊能者では僕に対して劣等感を感じて怖気づいてしまうらしく、高名な霊能者にも弟子入りしようとしたが「帰ってください」と何度追い返されたことか……。

 彼女は友達と楽しそうに喋りながら歩いている。その友達の方も、やや発育の遅れたボディに背徳感があって……ハアハア……妙にそそる……ハアハア……い、いや、やましい目的は一切ないぞ! これは彼女の交友関係を調べ、行動パターンを算出することで、悪霊との接点を探りだすという極めて高度なテクニックだ!

 彼女の悪霊に気付いてから三日。彼女の登下校を尾行して、だいたいのことは分かりかけてきた。どこに住んでいて、帰りにどこに寄り道するとか、どこを通る時に一人になることが多いかとか……。

 言っておくが、僕は断じてストーカーではない! これは僕自身の正義感から、高度な霊能力をもって生まれてしまったことによる使命感から来る行動だ! ストーカーなどという低俗な輩とは断じて違う!

 しかし悲しいかな、無能な凡人どもには理解が及ばないと見える。何度も警察に職務質問され、任意同行を求められた。それだけでなく、自宅まで来て説明を求められたのには参った。

 僕はその度に、自分は誰よりも優れた霊能者であり、その力を駆使して無力な者を守らねばならない宿命にあることを滔々と語ってやった。すると彼らは悲しい目をして「もういいです」と言って帰っていった。中には病院で頭の検査をしろという無礼者も居たが、そういう輩にも繰り返し語ってやることで理解を得た。

 だが、家族はなかなか理解しようとしなかった。幼少の頃から病院に何度も連れていかれ、カウンセリングを受けさせられた。特に母は強固に否定し、今でも「そんなことをしているのなら働け」と無粋な言葉を吐いている。一方父は、最近では何も言わず、僕のことなど眼中に無いかの如く働きに出ていく。

 ふっ……少々語りすぎたか……彼女たちはコンビニに入ったようだ。僕も気付かれないように自然な風を装って入るとしよう。

 コンビニに入ると、入り口近くの雑誌類のコーナーに陣取る。ここなら、彼女たちが出ていく時にすぐに分かるからだ。

 おっ! 週刊ジャンク! そういえば、今週は立ち読みしてなかったな。自然な客を装うためにも、立ち読みするとしよう。……あくまでも、これはフリだからな! 本来の目的はあくまで彼女を守ることだ!

 それにしても、この漫画の霊能者はかっこいいなあ……実際には、地味だし、感謝されないし、金にもならないのになあ……。あ、異世界転生モノ! この主人公の能力はちょっとチート過ぎるし、絵は良いんだがストーリーがちょっとな……多分これは打ち切りになるぞ。あれ? またこれ連載再開したんだ。休載になってから随分経つから、ストーリーだいたいでしか覚えてないや。まあ、感覚的に読めれば良いか。おっ! これエロいんだよな。一般紙ギリギリのところを攻めてくるというか……批判されることを恐れて下手に守りに入らない姿勢は好感が持てるな。

 こうして十数分の間、僕は漫画雑誌を手に彼女たちを「監視」していた。

 そう。これは監視。無垢な少女を守るための神聖な作業なのだ。しかし、気を張り詰め続けたせいか、疲労がたたって一瞬だが隙が生じた。

 僕が漫画雑誌に夢中……いや、夢中で読んでいるフリをしている隙に彼女たちが店を出てしまったのだ。気が付くと店外数十メートル先を彼女たちは……いや、どうやら別れたらしく目的の少女だけが歩いていた。

 何たる不覚! 僕は慌てて彼女に追い付こうと店を飛び出した。だが、その瞬間、何者かに腕をつかまれた。

「お客様、代金を支払ってください!」

 ふと気付くと、手にはさっきまで読んでいた漫画雑誌があった。

 おのれ悪霊! こんな姑息な手段まで使ってまで僕を足止めするとは!

 おそらく、店員は無意識のうちに操られていて、僕も無意識に操られそうになった結果なのだ! そうなのか……いや、そうに違いない!

「放してくれ! 少女が悪霊に殺されようとしているんだ!」

「黙れ万引き野郎!」

 そう言うと、店員の手による拘束がさらにきつくなった……駄目だ。完全に精神を支配されている。

 おそらくは、彼女がこの店に入ったのも悪霊の仕業だったのだろう。こうして店員の精神を蝕み、僕を引き留めるための「壁」にしたのだ。ただ単に強力な霊というだけでなく知恵も働くのか……油断ならない相手だ。だが……

「これ返す!」

 だが、ここで引き下がる訳にはいかない!

 僕は店員の鼻先に漫画雑誌の一番硬い背の部分を叩きつけた。

 うっ、という声がして、店員が手を放してうずくまる。その鼻からは赤い筋が流れ、ぽたぽたと地面を濡らした。

 拘束を解かれた僕は、雑誌を放り出すと駆けだした。

 ――済まない。あなたが悪いんじゃないことは分かっている。全て悪霊の仕業だ。

 それでも、僕は辞める訳にはいかないんだ。

 目の前の無垢な少女を守るため、そして自分の使命を果たすために。

 使命――そう、使命だ。神より選ばれし優秀な霊能者だからこその使命。それは最初のうち自覚は無かった。だが、人間に叩き潰された蚊の悪霊を退治したことがその後の運命を決定づけた。あれは今思い出しても凄惨な事件だった。

「最近、なんか痒いんだよね~」

 深刻な顔で僕にそう言ってきた友人には、蚊の悪霊一匹が付いていた。

 僕は両の掌でそれを叩き潰すことで、見事除霊に成功した。

「あ、なんか知らんけど治ったわ」

 こうして救われた友人の顔は晴れ晴れとしていた。

 もしあの時、蚊の悪霊を放置していたら友人の生気を延々と吸い続け、果ては廃人にしていただろう。

 もっとも、これは誰も知らない。僕だけの秘密だ。

 数十メートル先に見えていた彼女は、既に視界から消えていた。

 だが、焦ることは無い。今こそ、三日間尾行して理解した彼女の行動パターンを活用する時だ。

 ――思い出せ、彼女が寄り道した後に帰る経路を……。

 僕は必死で駆けた。

 ――まずい。

 このままだと、彼女は今頃人気のない道を通っていることだろう。

 人気のない、寂れた場所では悪霊の活動は活発となる。彼女についている悪霊もそろそろ牙をむいてもおかしくない頃だ。

 ――居た!

「ちょ……ちょっと待ってくれ!」

 人気のない道で大声を出して呼び止めると、彼女は怪訝な表情をしてこちらを向いた。

「あの、何か――」

「悪霊が! 悪霊が――」

「きゃあ!」

 僕が必死になって彼女の両肩をつかむと、彼女は悲鳴を上げた……けど、そんなこと気にしている場合じゃない!

 悪霊が大きな口を開けていた。そう、彼女を飲み込もうとするように。

「僕は霊能者だ。君を守ってあげるから、信じてくれ!」

 バクン!

 あれ?

 不意に視界が真っ暗になった。

「アンタみたいな五流霊能者って、この子の餌にはぴったりなのよね♪」

 彼女の声がした。

 しかし、それを理解する前に僕の意識は闇の中に沈んでいった。

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