第四章 ディアナ博士の怪奇事件ファイル

1.死霊術士タカマルくん健康診断に行く


 気が付くと俺達は孤児院の庭に戻っていた。

 目の前で突然姿を消した俺達を心配していたと思しきアーシアさんに三人まとめて抱きしめられた。

 女子(キッズだけど)と手を繋いだり、女子に抱きしめられたり、今日の俺はどうなってんだ!? すわっ、これが英雄の役得か!


「タカマル、鼻の下が伸びてるわよ」

「はっ!? そ、そんなことねーし!」


 フィオーラの指摘を全力で否定する俺なのでした。


 まぁ、それはさておき——。


 アーシアさんの話によると、ジニーの持っていた石の放つ光に飲み込まれた俺達は、小一時間ほど姿を消していたそうだ。ただならぬ事態にアーシアさんは星騎士修道会に連絡を入れ、ガリオンさん達に来てもらった。パニック状態の子供達をなんとか落ち着かせ、これからどうするべきかと相談を始めたタイミングで俺達は帰還したようだ。


 ランディさんが他の星騎士達——イーサンとジョンもいた——に指示を出し、現場検証を行っている。


 俺達三人はガリオンさんに霧の結界で何があったかを訊かれたけど、結界の中でおかしなゴーレムに囲まれたので蹴散らしてきた、くらいしか話せることはなかった。


 あと、ガリオンさん伝えた方がいいことと言えば、ゴーレムが美術館に飾られていたおかしなオブジェにそっくりだったことと、ジニーにゴーレムを封じた石を渡した不審者のことくらいか……。


「そのフードをかぶった不審者だが、別件で似たような人物の目撃報告が幾つかあったな……。これは、一度しっかり調べてみた方がいいかもしれない」


 俺がオブジェと不審者の件を伝えると、ガリオンさんが考え込むような顔になった。


「美術館のオブジェは……確か、最近若者に人気の芸術家アーティストが作ったものだったな……。名前は……」

「ロブ・イモータンのことですか?」


 近くを通り過ぎたイーサンが言う。俺達の話に聞き耳を立てていたようだ。


「彼はこの街の住人ではなかったな。その件も星騎士修道会の方で調査しておこう。念のため、美術館の館長にも聞き込みが必要だな」


 ガリオンさんが言う。


「会長、現場検証の結果ですが、多少の残留魔力を感知したものの、他に手がかりになりそうなものは見つかりませんでした」


 孤児院の庭を一通り調べ終えたランディさんが報告する。


「そうか……。分かった。ご苦労だった」


 ガリオンさんが答える。


 今日はひとまず解散、ということになったんだけど、ジニーがフィオーラに引っ付いたまま離れそうにない。いきなり結界に閉じ込めれてゴーレムに襲われたのが相当ショックだったみたいだ。まだ、怯えているように見える。


「タカマル、どうする?」

「ここで俺に話を振るのかよ……。まぁ、どうしてもフィオーラと離れたくないっつーなら、今日は宿舎に泊まってもらえばいいんじゃね? ジニー、どうする?」

「フィオーラとタカマルくんと一緒がいい!」

「だったら決まりだな。アーシアさん、ガリオンさん。大丈夫っスか?」


 当然、二人とも快諾してくれた。



 ☆ ☆ ☆ ☆



 翌朝、宿舎の食堂——。


「健康診断、ですか?」

「はい。教団本部の意向で、タカマル様に受けていただきたいと」


 俺の言葉に、隣の席でアーシアさんが笑顔を浮かべながら答える。


「特に体の不調は感じてないですよ?」


 俺は朝食のオムレツをナイフで切りながら言う。

 体内におかしな居候が住み着いていること以外は、むしろ絶好調なくらいなんだが。


「タカマルの今の状態——確率的ゾンビ、だっけ? それについて調べるって話があったでしょ? その準備が整ったの」


 フィオーラはそう言うとお茶を一口すすった。


 そう言えば、そんな話もあったな。すっかり忘れてたけど。ひょっとして、人体実験の材料にされます?


「タカマルくん、屍人ゾンビなのー? こわーい!」


 パンを食べていたジニーが、全く怖くなさそうな調子で言う。昨夜は隣に座るフィオーラと一緒に寝たようだけど、すっかり元気を取り戻したみたいだ。昨日の体験がトラウマとかになっていなくて良かった。


「タカマル様の診察は、私達のお母様が担当することになりました」

「え、アーシアさんとフィオーラのおかーさんて医者なんですか?」

「本職は魔術士ですが、医師免許も持ってます。どうか、ご心配なさらずに」

「へぇ……。おかーさんも神星教団の信徒なんですよね?」

「はい。神星術修道会の会長を務めています」

「神星術?」

「私達シスターや、一部の星騎士が使う魔術ですね。洗礼術式・浄化ターンアンデッドなどがこれにあたります。お母様はその最高位の術士であり、お医者様でもあり、研究者でもあるんですよ」


 凄いな。設定、盛り盛りやんけ。


「ねぇ、姉さん。わたしは別に同行しなくてもいいわよね? お母様が用事があるのはタカマルだけだし」

「孤児院の件を報告しないとダメでしょ?」

「レポートで提出するから大丈夫よ。それに、これからジニーを送らないといけないし……」

「お母様がたまにはフィオーラの顔を見たいと言っているからダメです。あと、ジニーはしばらく宿舎で預かることになったから心配しなくても大丈夫」

「そ、そう……。だったら覚悟を決めないとね……」


 何故か力なく首を前にうなだれるフィオーラ。全てを諦めた人みたいな顔をしている。二人のかーちゃんは一体何者なんだ。若干、会うのがコワくなってきたんだけど……。


「タカマルくん、お茶のみたーい」


 俺達の会話に興味がないのか、対面のジニーが退屈そうな表情でおねだりをしてきた。ジニーのカップは空になっていた。


「おー、飲め飲め。パンだけじゃなく、野菜と果物もたくさん食えよー。体にいいからな!」


 俺はジニーのカップに桜っぽい香りのするお茶を注ぎながら言う。


「タカマル様、朝食と朝のお祈りが済んだら出発で大丈夫ですか?」

「OKっス」

「フィオーラも大丈夫?」

「ええ……」

「はいはい。わたしもいっしょに行くー」


 ジニーが元気に手を挙げながら言う。


「そうですね。それでは、みんなで一緒に行きましょうか」


 アーシアさんがジニーに微笑みかけながら言った。

 

 健康診断というよりかは、ピクニックにでも行く感じになったきたけど、まぁ、いいか。

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