3、裏社会の魔王、生徒会に入る 3

 模型部部室不法占拠。

 それは模型部の部員から生徒会に持ち込まれた相談事だった。

 クラ高のような名門校でも、なんだかんだ不良というものはいる。

 その不良グループは一週間前に、元々部員の少なかった模型部の部室を占拠してしまったのだ。

 不良グループは入部届を提出し、書類上は模型部部員になっている。

 そのため形式的には彼らが模型部にいることに問題はなく、それが問題をややこしくしていた。

 結果、この問題は今日まで保留され続けていたらしい。

「ここか」

 オーマは件の模型部の部室が入った校舎別棟Cに辿り着いた。

 この高校はやたらと広く、この別棟Cは本校舎から離れた場所にあった。

 主に文化部系の部室が入っているらしいが、全部屋の半分も埋まっておらず、部活動以外では物置としてしか使われていない。

 この立地も不良に目をつけられた理由なのだろうが……ともかく。

 オーマは二、三度拳を握っては開き、それから別棟Bの中に入っていった。

 スリッパに履き替え、人気のない廊下を歩く。

 時々教室の中から人の気配がするが、基本的には静かなものだ。

 が、問題の模型部部室に近づくにつれ、バカみたいな大声が廊下にまで響くようになっていった。

「ギャハハハ! 何言ってんだオメェ!」

「るっせーなバーカ!」

 聞くからに粗暴と分かる声だった。

 これでは人もあまり近寄らないだろう。

 だがオーマは特に躊躇いもなく部室のドアをガラッと開けた。

 室内には不良と思しき生徒が五人ほどたむろっていた。

 不良グループというには少ない人数だが、やはり絶対数自体は少ないのだろう。

 それでも厄介な相手であることに変わりはないが。

「あン?」

「誰だテメェ?」

「一年か?」

 ドアを開けたのが仲間でないと分かると、彼らは途端に敵意を剥き出しにして椅子や机から立ち上がった。

 オーマが室内に入ると、不良たちはあっという間に彼を取り囲む。

「何の用だテメェ?」

 リーダー格と思しき気合いの入った髪型の不良がオーマを威嚇する。

「生徒会の手伝いす」

「はあ?」

「先輩方に模型部から出ていって欲しいそうです」

 オーマはツクモに眠そうと言われた目で相手を見返して用件を告げる。

 不良たちは彼の動じない態度にいくらか戸惑いを見せた。

 彼ら自身は例外として、基本的にこの高校にいるのは大抵品がいいだけのお坊ちゃんで、荒っぽい態度に慣れていない連中ばかりだからだ。

「模型部も困ってるらしいんで」

 戸惑う彼らにオーマは再度部室退去を平和的に頼む。

 が、そこで気を取り直した不良たちは一斉に喚き始めた。

「ン、ンだとぉ!?」

「ザけんなテメェ!」

「ランバさん! コイツ俺らのこと舐めてますぜ!」

「おう!」

 ランバと呼ばれたリーダーはグィィとオーマを下から睨めつける。

「ちっと身長タツパがあるからってチョーシ乗ってんじゃねぇぞ? お? その程度で俺がビビると思ってんのか?」

 ランバは喋くりながら、これみよがしに拳に魔力をまとった。

 魔力による身体強化は魔法の中でも基礎的な技術である。

 現代では攻撃的な魔法はあまり習う機会が少ない。

 だがこれは基礎中の基礎だけあって、一般的な高校生なら誰でも使える魔法だった。

 本来は自衛のために習う魔法なのだが、アウトロー同士の喧嘩では頻繁に利用されていた。当然、無防備な状態で強化した拳に殴られればただでは済まない。

「へへっ、こいつで殴られたらテメェただじゃ済まねぇぞ」

「魔法を使った授業の成績だけならランバさんもエリートどもに負けねぇんだ!」

「ランバさんはパンチングマシンで150kg出したこともあるんだぜ!」

「謝った方がいいんじゃねぇかオメ~?」

 不良たちはランバの実力に余程の信頼を寄せているらしく、調子に乗って囃し立てた。

「どうだぁ? 土下座するなら許してやるぜぇ?」

 ランバは拳をちらつかせながらオーマを脅す。

 が。

「あの……」

 オーマはなぜか言いにくそうに目を逸らす。

「あん?」

「……それで俺を殴んない方がいいっすよ」

「ハァ~~~!?」

 オーマの忠告を、ランバは挑発として受け取った。

「上等だテメェ!」

 短気な彼は躊躇いなく全力で拳を振りかぶる。

「……」

 それは喧嘩慣れした者なら簡単に避けられる大振りなパンチだった。

 だがオーマは避けなかった。

 ズシンッ!!と人体を殴ったとは思えない重い音がした。

「……!?」

 しかし、驚愕に顔を蒼くしたのはランバの方だった。

(え、岩? 鋼?)

 殴った感触がいつもと違う。

 人体よりもっと強度の高い、というか密度の高いものを殴ったような意味不明な感触。

 喩えるなら「山」。

 人が山を殴ってもビクともしない。

 そんな当たり前の事実を突きつけられたような状態。

 さらにそれだけでは終わらなかった。

「!?」

 拳はオーマの肉体で受け止められた。

 そしてランバが拳に込めた魔力は、相手の持つ圧倒的な魔力質量に弾き返され、その全ての衝撃が彼に跳ね返る。

「あがーーっ!?」

 結果、ランバは全力疾走してトランポリンにぶつかったみたいに、まっすぐ横向きに吹き飛んでそのまま部室の壁に叩きつけられた。

「ランバさん!?」

「リーダー!?」

「あがっあがが……」

 不良たちが慌てて駆け寄るが、壁にめり込んだランバはしばし呻いたあと白目を剥いて失神した。

「~~~!?」

 リーダーを失った彼らはオーマの方を振り返る。

「……」

 オーマは制服についた埃を払うと、一歩一歩ランバへと近づいた。

「ままま待ってくれ!」

「悪かった! 俺らが悪かった」

「出てく! 出てくから!」

「これ以上は、なっ? なっ?」

「……」

 慈悲を懇願する不良たちを無視し、オーマはランバを担ぎ上げる。

「ランバさぁん!」

「お、おい! どこ連れてくつもりだ!?」

 不良のひとりがオーマの前に回って彼を食い止める。

 ランバを取り返そうというのか、歯をガチガチと鳴らしながら両腕を広げて通せんぼしていた。

 実力差を知りつつ抵抗する彼の様子を見ながら、オーマはひと言。

「保健室」

 とだけ答えた。

「へ?」

 呆気に取られた不良は腕を下ろし、オーマはその横を通り抜けた。


 翌日。

 徒歩で登校してきたオーマを、高校の校門で出迎える者たちがいた。

「おはようございます!」

「「「「おはようございます!」」」」

 頭に包帯を巻いたランバとその仲間たちは腰を折り曲げ、現れたオーマに深々と頭を下げた。

「あの、ランバ先輩?」

「先輩なんてよしてください!」

 困惑するオーマに対し、ランバは頭を下げたままへりくだる。

「少し喧嘩が強い程度で粋がってた俺より、アンタの方がずっと強かった……! なのに自分から手は出さず、おまけに喧嘩売った俺を保健室にまで……!」

「そりゃあ当然のことです」

「その度量の広さ……感服しました! 俺を舎弟にシテください! お願いします!」

「「「「おねがいしゃっす!」」」」

「……」

 頭を下げる彼らに対し、オーマは頬を掻いて熟考する。

「分かった」

「……! ありがとうございます!」

「ただし、今後は人に迷惑をかけないでもらえますか?」

「それが命令なら!」

 ランバの決意は固いと見て、オーマも考えを決めた。

「……ん」

「よっっっしゃあああああ!」

 オーマは頷き、ランバは喜びで舞い上がる。

 この出来事はまたたく間に校内で噂として広まった。

 彼のクラスメイトは、

「やっぱり怖い……」

 と恐怖し。

 生徒会のブランギは、

「へっ! どうぜ何かの偶然だろ」

 と事実を認めず。

 そして大半の生徒――特に模型部――は、ただ校内の不良がおとなしくなったことを喜んで歓迎した。


 さて放課後。

 今度は生徒会の方から呼び出され、オーマはツクモの許に足を運んだ。

「……な感じで、ランバさんたちは模型部から立ち退いてくれるそうです」

「そう。よかった~」

 オーマの報告を聞いてツクモは微笑んで頷く。

「それじゃあオーマ君には臨時役員として生徒会に入ってもらうわね」

「……」

 ツクモの決定にまだ文句を言いたそうな者もいたが、オーマが結果を出しているため誰も異を唱えられなかった。

「でも~、最後にひとつ訊いていい?」

「はい」

「どうして生徒会に入りたいと思ったの?」

「……」

 オーマはそこで一瞬ツクモから目を逸らした。

「……

「ふ~ん?」

 ツクモはそれから数秒オーマを見つめ、それから彼に向かって手を差し出した。

「ならいいわ~。これから一緒に頑張っていきましょう、オーマ君」

「……ウス」

 オーマはツクモと軽く握手を交わし、そうして彼は生徒会の一員として認められたのだった。


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試し読みは以上です。


続きは2020年10月17日(土)発売

『魔王が如く 絶対強者の極道魔王、正体を隠して学園を極める』

でお楽しみください!


※本ページ内の文章は制作中のものです。実際の商品と一部異なる場合があります。

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