魔女

 はい、次の朝、また来ましたよ。


「トリック・オア……なんじゃったかのう」

「トットリ!」嘘教えてやる。

「そうじゃったそうじゃった、トットリ・オア・シマネじゃからの。たのんだそい」

 かなりのお年の魔女がほうきにまたがって来やがった。


 ダイニングに行くと、昨日買っておいた、みたらし団子がある。

 婆さんならこういうのが好きだろう。……お餅だと誤嚥の可能性があるかな? さすがにそこまでのヨボヨボじゃあなかったからいけるだろう。今日こそ素直にお引き取り願いたい。


「持ってきましたよー。こういうのお好きでしょう?」

 ところが、その魔女ときたら、団子を取り上げるや否や、俺に投げ返してきた。うわー、制服が甘辛ダレでべちょべちょじゃないかー。

「こんなドロドロしたもんが食えるかー! おまいは何にもわかっちょらん……魔女が好きなお菓子と言うたら≪るねるねるねる≫だろうが!」

「るねるね……? 何ですかそれ?」

「ああ、これだから最近の若い者は……知らないのか、アレじゃ。テーレッテレーを知らんのか!」

 てーれってれー?

「某掲示板でAAアスキーアートにもなってるというのに、おまいは見たこともないのか?」

「何、何、あすきーあーと?」

「ああ、嘆かわしや嘆かわしや、おまいはAAも知らないだと……噂には聞いていたが、最近の若い者は動画ばっかり見てて、あの掲示板の文化も廃れたというのは本当じゃった……当時は大人たちから白い目で見られていたというのに……ああ、もう年は取りなくないのう、ヨボヨボ」

 ちょっとばあさんのいう事がさっぱり呑み込めないが、

「ともかく、おまいさんの菓子選びのセンスがないことは、仲間から聞いた通りじゃ! もう許せん! いたずらしちょるから覚悟しとき!」

 結局こうなるのかよ。


 で、今日はというと、信号も改札も問題なし……だが、昨晩寝る前に食べたゴリゴリ君(もしかして、と思ったがやっぱり不味かった)で腹が冷えたせいで、電車の中で急にもよおしてしまって、途中駅で降りてしまった。うわ、大のほうは並んでやがる……でも背に腹は代えられない。並んで待つことにした。

 待っている間気を紛らわせるために、魔女が言っていた≪るねるねるねる≫について調べてみると……あった。『80年代懐かCM』とか書いてある動画。あ、なんかすごい合成着色料まみれでドロドロしてる……そして、魔女っぽい人が食べると「美味うまい!」と言いながらテーレッテレー……知るかよそんなの。あとこれもドロドロしてんじゃんか。

 で、肝心のトイレのほうは、幸い5部屋くらいあったのでそれなりに早く列がけていったのだが……次は俺となった時から、全然誰も出て来やがらない。うわー、勘弁してくれー、ってなってかなりしばらくして、何と、5個の扉がすべて同時に開くという超常現象。そんなに開いても意味ねーんだよ! 絶対魔女のいたずらだ。


 で、またもや遅刻。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る