カボチャ頭

 次の日の朝。また玄関に現れた。

「ごきげんよう」

「って今度はこれかよ、カボチャ頭」

 そう、この季節によく見かけるオレンジ色だ。

「トリック・オア・トリート」

「はいはい、またお菓子よこせってか」

「若者よ、ところでtreatトリートってなんだか知ってるか?」

「俺は英語の成績が1なの知ってて聞くのか? カボチャ頭め」

「おもてなしだ、お・も・て・な・し」

「やめてくれ、それ聞くのはもはや切ない」

「いいから、我輩をもてなしてくれたまえ。私は今暑くてたまらないのだ。なんか冷えるお菓子がいい」

「なんでこんなクソ寒いのに……」

「若者よ、我輩が何であるか知らないのか」

 よく見ると、カボチャ頭の口の中に火が燃えている。

「我輩の本当の名前、知ってるだろう。jack-o'-lanternジャックオーランタンだ」

「俺の英語の成績が1なのを知ってまたそんな訳わからん単語を……じゃあ、アイスかなんかでいいか?」

「ああ、それがよい。持ってきてくれたまえ。あ、それからな、持ってくるのは1つにするんだ。たくさん持ってきて我輩こちらに選ばせるとかは、おもてなしの精神にそぐわないからな。いいな」

 いちいち鬱陶しいカボチャ頭。へびあたまより鬱陶しい。

 俺は冷凍庫の中を覗き込む。選択肢は2つだった。

≪バーゲンダーツ 季節限定 パンプキン≫

≪ゴリゴリ君 期間限定 ウスターソース味≫

 うん、これは迷う要素はない。バーゲンダーツ1択。高級だし、いかにもこの季節にかこつけたやつで、あいつにぴったりだ。ゴリゴリ君のほうは、たまにネタで出す変わったフレーバーのやつで、罰ゲーム以外の何物でもないやつだ。


「持ってきたぞ」

 ところが、カボチャ頭の奴、

「本当にこれだから日本人は……あのな、よいか。我輩とこやつとを、一緒くたにしてるのは、どうしても納得が行かないのだ、わかるか? PumpkinとSquashスクウォッシュの違いを」

「知らねーよ! 俺の英語の成績1のくだり、2度言ったのにもう忘れたのか、このとりあたま」

「我輩は観賞用のPumpkin、こやつは食用のSquashだ、こんな誤表記をしたお菓子など、受け取れるわけはなかろう! こんなのよこすなら、ゴリゴリ君のウスターソース味でも呉れたほうが、espritエスプリironyアイロニーが効いててよいというのに! お前のような不届き者には、いたずらする!」


 といって、ランタンの火でバーゲンダーツを溶かしながら消えていくカボチャ頭。だから食ってるじゃねーか!


 あああ、また遅刻しちゃうじゃないか。今日は信号にはひっかからなかったが、駅の自動改札で前の人の扉が閉まり、仕方なく隣に移ったら、後ろから俺を追い抜きやがったやつがタッチ不十分で扉が閉まり、さらに隣に移ったら、後ろから……以下繰り返し、をすべての改札でやらかすというミラクルが発生。カボチャ頭のいたずらだ。乗り遅れてまた遅刻した。







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る