珈琲は月の下で

新吉

第1話 珈琲は空の上で

 ここは空の上。黒い森と黒い空と黒い道、廃墟のような家の中、いろんなモンスターたちが仲良く暮らしていました。お天気のいい昼下がり、1人の魔女は廃墟レストランで珈琲を飲んでいます。隣に座る吸血鬼のワイングラスには真っ赤な液体、彼は一気に飲み干し、チラッと魔女の手元を見ました。



「それ、おいしいんですか?」


「あんたにゃまずいだろうよ」


「やっぱり黒いんですね」


「ただのぶらっくこーひーさ、」


「あれ、魔法の飲み物じゃないんですか」


「ん?こーひーは魔法の飲み物じゃないか」



 魔女はどこか遠くを見つめて言いました。



「眠くなくなる」


「ふふ、魔女が眠れなくて困ることなんてないじゃないですか」



 吸血鬼は笑い、脱いでテーブルに置いていた魔女の帽子を指でつっつきました。



「あなたもそうですか?」


「あんたと同じ生まれつきだよ、ただ長く生きすぎたんだ」


「そうですね」


「私は師匠と弟子がいるけどあんたは?」


「んー、今のところは。あなたほど長生きになったら考えます」


「考えるときにも、いいんだよこれ。そうだ!」



 魔女の手がぽわっと光ると何もない手のひらにチョコレートが出てきました。もう一つ珈琲の入ったカップも現れます。ブラックコーヒーの中にチョコレートが入り、空中で魔女が手をくるくるすると、中のコーヒーもくるくる混ざります。



「ああ!せっかくのチョコレートなのに」


「ま、飲んでみな」


「チョコ入りならおいしいに決まってますよ」


「ふふふ」

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