第2話 呼び出しは突然にかかってくる

 トオルは久々にとれた休日、部屋着に着替えもしないで布団に寝転がって惰眠をむさぼっていた。なーんにもしないで一日寝ていることが楽しい。……そんな日はめったにないわけだが……

 惰眠中、午後一時を回ったときだった。彼のスマホがけたたましく着信を伝えた。

「……えー……」

 画面を見る。庶務課の固定電話からの着信だった。かけている相手は……思い出すまでもなくひとりしかいないだろう。取りたくはなかったが、ここで取らなければ以後二分に一回は間違いなく着メロに悩まされるはずだ。マナーモードにするとか、そもそも電源をぶち切るとか、そういう選択肢はなかった。

 ぬるぬると、トオルは画面をたたいた。

「はい、お疲れさまです、幸野です……」

「幸野! あんた今日中に報告する書類どうしたの」

 予想は嫌な形で当たった。キンと耳の奥に響く声が、スマホの向こうから聞こえた。

「書類? は? 俺昨日全部仕上げて帰りましたけど……?」

「足りないんだけど。一枚」

「一枚足りない!? え、だって俺、揃えて机の上に置いて、」

「揃えて机のどこに置いたのよ。どの書類がソレなのよ!」

 そう言われてトオルは己が机の状況を思い出す。きのうやっと報告書類を終わらせたまではよかったが――ほかの書類とまとめてそろえたのだ。無論自分ならわかるが、他人にそれを捜せというには割と酷な状況だった。まして相手がノゾミでは。

「いまから出勤なさい。どれがその書類なのか、あんたにならわかるでしょ」

「え? いまから? 冗談でしょ主任」

「私が冗談なんか言ったこと、あったかしら。それとも私にこの膨大な山の中からたった一枚の書類を捜せってあんたはそう言うの?」

「いやそんなこと言われても、俺今日休みですよ、しゅに……」

 電話は唐突に切れた。電話の向こうもキレていたらしかった。

 それはそうだ、と、冷静な頭でトオルは思う。だがせっかくの休日に出勤するのはとても気が乗らなかった。電話の向こうが明らかにイライラしていると思うと。

「……マジか。これから出て来いってか、会社に!」

 だが出なければ出なかったで翌日の仕打ちが怖い。トオルは昨夜脱ぎ捨てた上着を着ると、のろのろ鞄の取っ手を握った。そろそろ辞表の書き方をググっておいたほうがいいかもしれない、と、彼はそう思っていた。

 アパートの駐車場に降りてからも、車がこのままエンストしちまえばいいと思ったが、無情にも、彼の車はとても軽快にタイヤを回すのだった。

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