スナック村

やめられない止まらない

 ウマイモチップスあれだけあったのにもうこれだけ、搾りたてミルクまだ半分。


 バリボリバリボリと五人、小さな村にて、強風に足止めを食らっていた。


 ここら辺の山間部は雨が少なく、代わりに風が強い。だから強風など今に始まったことでもないのだが、次の目的地へ向かうのにどうしても渡らなければならない吊り橋が谷を抜ける鎌風にグワングワンビヨンビヨンしてるのにびびって、渡るのをリーアが渋ったからだった。


 それで風が止むまでの足止め、宿に入るにも昼食にもまだ早い時間、だけども乾いた風に外は辛い時期、日の高いうちからやっていた居酒屋に入るのに反対するものはいなかった。


 それでメニュー、健全な商売から酒は出さないと言われて一悶着、それでも折れない女将さんに負けつつ、場所代がわりにツマミとミルクを頼んだ。


 それが、止まらない。


 搾りたてのミルクもさることながら、このウマイモチップスがヤバかった。


 ウマイモを薄くスライスして油バターで揚げ、塩をふりかけただけの技術も何もいらないツマミ、これが爆発的な美味だった。


 高級店になるほど、硬いものは口に刺さると敬遠され、揚げ物はただ腹を重くするだけで下品とし、バターなどは保存が難しいからと灯火の油に使うところもあるというのに、そんな固定観念を覆すサクサク食感、後引く旨さに、バターの香り、五人は一瞬にして虜となった。


 揚げ物に不慣れなリーアに慣れてるはずの四人、料金やら後先やら周りの目やらを考えず我先にと貪り喰い、もう無くなると感じた瞬間には誰かが手を挙げ追加を頼み続けた。


 そうしてどれほど食べたのか、満腹を感じてまだ少しと求める自分を見つめ、本気でこのチップスは中毒性薬物として禁止命令を出した方がいいんじゃないかと思い悩み始めたころ、あいも変わらず四人は揉めていた。


「一旦整理しよう。ここが大通り、これが銀行、あいつらが騒ぎ始めたのがここで、でこの塩粒が俺っち」


「わかんねぇよぉ。つぅか皿の上に土足で乗るんじゃねぇよ」


「場所は僕も覚えてます。縮尺の問題はありますが概ねあってると、ただ騒ぎ始めたのはもう少しこちら、なんで銀行食べちゃうんですか舌抜きますよ」


「これほど美味い料理を冷まして台無しにするのは万死に値する。それに過去を思い出すなど、老いたか?」


「はぁん。おめぇにとっちゃ忘れちまいたい過去だもんなぁ。あぁんな雑魚どもの人質だったとか、俺様なら恥ずかしくて表出らんねぇな」


「私は席に座っていただけだ。そこにやつらが現れて勝手に人質呼ばわりしてきた。だから打ち倒した。忘れたのか?」


「だからそこが違うっつってんだろが。あいつらが人質のガキぶん殴って、文句のあるやつは出て来いってなって、それでお前らはしぶしぶ出てきたんだろうが。俺っちみたいに最初からにらみかけてたやつは一人もいなかったぜ」


「よく言いますね。その結果があの大火事、ここにあったこれとこれ、焼いちゃったのあなたじゃないですか。それを含めて鎮めたのは僕、本当に僕がいなかったらどうするつもりだったんですか」


 ちゃぷ、ちゅば。


「はぁん。物は言いようだなぁ。俺様が出張って大活躍してってる裏でちまちまちまちま呪文唱えてよx、終わったところに参加して活躍してましたぁってんだから楽でいいよなぁ」


「うるせえよお前だってでかくて目立つからいた感じになってるだけでやっぱ俺っちしか働いてなかったろうが。その舐めた指、チップスに突っ込みやがったら剥ぐからな猫」


 わいのわいの、もめてる四人、周囲は引いた目で見ていた。


 女将さんは口を固く閉じてにらみつけ、他の常連客は怯えて帰り、残るリーアだけが冷静にその様子を見続ける。


 そうしてミルクの半分が半分になったころ、徐に口を開いた。


「あなたたちって、本当に仲がいいのね」


 一言、揉めていた四人、同時に口を閉じ、リーアへ否定の眼差しを向ける。


「俺っちが? こいつらと?」


「おいおいお嬢ちゃん、少しは対人関係ってやつを学んだ方が良いぜぇ」


「まぁ仕方あるまい。私と貴殿らでは実力が偏りすぎている。なのに言わせている慈悲が、そう見えてしまうのだろう」


「あぁこれですね。こういった妄言を見逃してしまうから、僕もこれらと一緒にされてしまう。気を付けねばなりませんね」


「何よ。じゃあ何で四人で組んでるのよ」


「賑やかしに今ってんだろそんなの。でなきゃ何でこんなちんけな連中と俺っちが一緒にいるかってんだ」


「はぁん。どぉりで、おめぇさんは従者としての自覚っつぅもんがねぇと思ってたら、とんだ勘違いだなぁ」


「ご覧の通り彼らは口だけ達者で、いるだけの数合わせです。いくら僕が優秀でも人数を理由に断られてしまう仕事も多いですからね」


「自信過剰は死につながる。おごれる弱者を導き、守護るが強者の務め、いわば師匠の立ち位置だな」


 それぞれ言いたいこと言って、それで他の意見を認めない視線、ただダンだけがミルクを啜る光景を、リーアは鼻で笑った。


「何よ。結局口で言って睨み合うだけじゃない。これがじゃれ合いじゃなきゃ何なのよ」


 これに四人、今度は苦い笑いを浮かべる。


「そいつはな、日時が決まってんだよ。三十日に一回、バトルロイヤル、四人で殴り合い、俺っちの勝利を認める儀式だ」


「はぁん。面白れぇな、毎回生き残れてたのは自分の実力ってかぁ? 笑わせてくれるなぁおい。で、次いつだ?」


「明日です」


 ブヴォ!


 盛大に鼻からミルクを噴き出したダンに四人、椅子ごと大きく引く。


「あぁもうそんなかぁ。じゃあ場所決めねぇとなぁ。こっち来るなきたねぇな溢したの拭けよ」


「あそこで良いんじゃね? 来る途中にあった森の向こうの空の畑、土むき出しだし、広さちょうどいいし。この残りも責任もって全部食いやがれ」


「ならばそこで行きましょう。ルールもこれまで通りでいいですね? 僕の水魔法が欲しければ跪いてお願いしてくださいね」


「私は一向にかまわん。いつ、どこでも挑戦を受けよう。女将、台布巾を貸してもらえないだろうか」


「ちょっと待ってよ。何勝手に話進めてるのよ。妾にもちゃんとわかるように説明しなさい」


「ルールは至ってシンプルです。四人全員が用意できた段階でスタート、誰が誰を攻撃しても構わない、降参したものが負け、最後までしなかったものの勝ち、まぁ、僕は死んでも降参する気はありませんが」


「当たりめぇだ。おめぇら雑魚に屈服なんざ死んでもごめんだぁ」


「は? ちょっと待ってよ何、殺し合うわけ?」


「ちょっと違うぜ。生意気なこいつらがぼっこぼこのけちょんけちょんになって、俺っちが一番だと認めれたら終わりだぜ」


「だから待ってって。何よ。それで戦って決着つけて」


「俺様が勝ってな」


「俺っちだ」


「僕ですよ」


「女将、新しいミルクをもう一杯」


「誰かが勝って、それでその後、妾との契約はどうなるのよ?」


 リーアの疑問に、一瞬黙る。


「まぁこいつらはオマケだからなぁ。俺様一人いりゃ十分だろ」


「おいふざけんなよ。お前らなんざちっとも仕事してないのにこうしてウマイモ食えてるのは誰のお陰だ? 俺っちだ。俺っちだけいればいいんだろ」


「また勘違いを、何で皆さんはそろって僕の活躍を持って行ってしまうんですか」


「安心しろ。この私が一人でも完遂して見せる」


 言いたいこと言ってまた互いを否定し合う目線、だけども今度は笑い煮崩れた。


「おめぇら、明日だぜ」


「明日だ。ちびる前に出しとけよ」


「明日です。逃げるのでしたらお早めに」


「明日だ。本当にこれ、全部貰うぞ」


 これまでとは違う感じ、顔で笑っておきながら腹の中では何かを抱えている感じに、リーアは一抹の不安を感じながら、残りのミルクを飲み干した。

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