第4話

 それはある日突然起きた。


 いつものようにエリとの逢瀬を楽しんで夜遅く帰宅し、ミツエに迎えられるところまでは変わらぬ日常だった。

 恭しくカバンとジャケットを受け取ったミツエが「お話があります」と言ってきたのだ。


 私の不貞のことなら妻はすでに承知の上である。


 エリとの事もそれ以前の女のことも、おおっぴらに言うことはなくてもコソコソと隠すようなこともしてこなかった。

 出来た妻なだけあって、そんな程度のことで目くじらを立てたりする女ではないことも知っている。


 そんなミツエが深夜であるにも関わらず、話したいと言ってくる内容はなんだろうと奇妙な興味が湧いたので聞いてやることにした。


「このような手紙が届きました」

 書斎に入り、着席するや否やミツエがスっと机の上に差し出してきた。


 見てみると真白い洋封筒だった。


 差出人名もなく、宛先もなく、切手もない。

 直接ポストに投函されたらしい。

 ミツエと視線を合わせるとコクンとうなづいてみせたので、封筒の中を検めることにした。

 数枚の写真が出てきた。

 私が写っている写真だ。


 私の寝顔、裸、屹立した男根、それが女性器に挿し込まれている様など、バリエーション豊かなものだった。


 同封してあった便箋にはこう書かれていた。


『拝啓 イツビシ ミツエ様

 新秋快適の候イツビシ様におかれましては、ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。

 さて、早速ですが同封しております写真はご確認頂けましたでしょうか。


 すでにご承知の事実だとは思いますが、私、ハマノ エリはミツエ様の御主人様であるイツビシ トオル様と昨年の夏、八月二十七日から一年と二十三日経つ今日まで姦通を行う仲にあります。


 トオル様からはミツエ様との離婚を間近に控えていると聞き及んでおりますが、その後の奥様のお気持ちはいかがなものでしょうか?


 僭越ながら私としましては、今現在トオル様との関係も良好であり、多くの祝福と共に婚儀を行い、生涯を添い遂げたいと考えております。


 つきましては、トオル様とミツエ様のお話し合いが滞りなく進みますように、私も是非協力させて頂きたく思い失礼ながら筆を取らせて頂きました。


 日々家事もろもろお忙しい中大変恐縮でございますがスケジュールに都合をつけて頂き、お時間頂くことは可能でしょうか?


 トオル様を通して可か不可か含めましてご連絡頂けますと幸いにございます。


 末筆ではございますが、同じ男性を愛した女同士、お互いこれからをより良い人生に出来ますように心よりお祈り申し上げております。』


 ひと通り読み終え、視線を真正面に座る妻に向けた私の目には今まで見たこともない優しい微笑みをたたえたミツエが映った。

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