『小さなお話し』 その205・・・・・『お顔認証』  

やましん(テンパー)

『お顔認証』


 『これは、フィクションです。この世界とは、一切、無関係です。』



             (*‘ω‘ *)



 ある日、ご近所に、超大型ストアが開店したので、話のネタにと出かけました。


 それなりに、多くの方が来ておりましたが、流行りの伝染病の心配もあるからか、思ったよりは、落ち着いていましたので、助かりました。


 それでも、行列にはなっていたのです。


 そのゲートは、なんだか、飛行場の搭乗口みたいです。


 『政府の決めた『お顔認証システム』を、導入いたしております。そのまま、止まらずにお進みください。』


 なんだ、そりゃあ。


 閉じ籠りがちで、世事に疎いためか、そんなことになってるとは。


 一定規模以上のストアには、『お顔認証システム』の導入が、義務化されたとか、


 テロリストさんや、危険人物さんが入り込むのを防止するんだとか。


 まあ、しかたない。


 とか、ぼんやり思いながら、列について歩いておりましたら、そのシステムの前を通過したのです。


 『ばしゃ!』 


 と、音がして、突然行く手をふさがれたぼくは、自動的に横道にはずされて、気が付いたら、なんらかの囲いの中。


 監禁様態。


 『身分証明書を提示してください。』


 と、警備員さんに要求されました。


 『なんで?』


 ちょっと、気分を害したので、そう言うと、叱られました。


 『身分証明書を提示しなさい、政府の指示です。』


 『政府か正負か知りませんが、運転免許でいいですか?』


 『よろしい。』


 ぼくは、ぶつぶつ言いながら、免許証を提示しました。


 『ども。・・・・あああ、あなたは、入れません。お帰り下さい。以上。』


 『はあ、ぼくは、なんで入れないのですか?』


 『それを、お知らせする責務はない。特に、拘束の必要はないので、お帰り下さい。以上。』


 『だって、直ぐ近所で、便利だし。カップ麺とお茶くらい買わせてください。』


 『あなたは、入場拒否には相当しますが、とくに、拘束すべき理由はありませんから、お帰り下さい。』


 『うんまあ、さぱり、わかんないなあ。情報開示を求めたいですが。』


 『では、県警に申し出てください。交番でも可能ですが、出来る限り、ネットでお願いします。』


 『ネット。はあ・・・・・。いや、いいです、帰ります。』



 ところが、これが、なぜか、町内に知れ渡り、ぼくは、準お尋ね者みたいになりました。


 とくに『お顔認証』が要らないお店でも、なぜか、入店拒否になります。


 散髪もだめ。


 ラーメン屋さんもだめ。


 てやんでぇ、飲んでやるう。


 と思ったけど、居酒屋もダメ、ときました。


 相手にしてくれるのは、病院だけ。


 精神科のお医者様に苦情を言ったところ、このところ同じような事例が頻発しているのだとか。


 『もしかしたら、個人カードの医療情報が、その方向に、無断使用されてるのかも。調べてみましょう。』


 先生は、そうおっしゃいます。


 とはいえ、一回そうなったら、そうなったまま。


 結局、ぼくは、ますます、引きこもりになり、お買いものは、ネットだより。


 でも、なぜか、商品は、いつも、玄関先に置き去り。


 伝染病の感染防止の予防とか。


 まあ、そう言われたら、しかたがないよなあ。

 

 と、ついに、病院も訪問差し止め。


 ネット診察となりました。


 なんで、そうなったのか?


 先生も、不審がる一方で、分からないのだとか。


 

 悶々とした中で、ある日、昔の職場の部下の方が電話をくださいました。


 唯一の、理解者ですが、最近出世したみたいです。


 『あああ。それね。なんでも、おおむかし、上司に反抗的だった、というデータがあったみたいで、もしかして、それが、ひっかかってるんじゃないのかな。当たってみる、内緒ね。』


 それから、一か月くらいして、『たぶん、もうひっかからないよ。』


 とのお知らせ。


 ついに、目出度く、ストアにも、入れるようになったのです。



 でも、引き籠りは、もう、解消しませんでした。


 まったく、お顔をつぶされた状況ですからね。


 あ、だから、入れたのかしら。


 

   ***************       

                               おしまい

  



 

 






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『小さなお話し』 その205・・・・・『お顔認証』   やましん(テンパー) @yamashin-2

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