第4話:酒井重澄1

 家光には多くのお気に入りがいた。

 父性愛を求めて強い中年男性に惹かれる一方、見目麗しい少年も大好きだった。

 衆道が当たり前の時代であり、戦国の気風の残っていたから、次期将軍である家光の小姓は腕の立つ美少年美青年が綺羅星の如く集められていた。

 無礼討ちにされた坂部五右衛門は別格だったが、最近では坂部五右衛門は超える美少年も小姓として出仕していた。


 そのうちの一人が三枝守恵で、一六一六年に二十一歳で出仕し、一六一八年に家光に見初められ小姓二〇〇石に取立てられていた。


 一六一八年に朽木稙綱が出仕していたし、翌年の一六一九年には前出の柳生三厳が出仕している。


 そして運命の一六二一年に家光は柳生宗矩に調教されたのだが、一六二二年に出仕して小姓となった酒井重澄十六歳と堀田正盛十五歳が、柳生宗矩の計画を大きく狂わせることになった。


 酒井重澄とは書いているが、この頃は外様大名金森可重の七男として、金森右衛門八と名乗っていたのだ。

 そのあまりの美貌に激しく欲望を描きたてられた家光は、金森右衛門八に衆道の相手をさせることにした。

 柳生宗矩の調教もあって、金森右衛門八に菊座を責めさせる事はできなかったが、自分が金森右衛門八を責める事には何の問題もなかった。

 いや、坂部五右衛門の件があるから、堂々とタチとして振舞うべきだった。


「ああ、あああ、ああああ、家光様ぁ。

 怖いです、初めてで怖いのです、もっと優しくしてください」


 金森右衛門八(酒井重澄)恐れおののく姿を見て、家光の嗜虐心に火がついた。

 タチに完全に目覚めたと言っていい。

 家光は恐れ恥じらう金森右衛門八の姿に興奮し、自分の知る限りの方法で責めに責めたが、それは全て柳生宗矩に教え込まれた技だった。

 基本柳生宗矩は後背位しかやらず、徹底的に家光を支配した。

 当然家光も同じように金森右衛門八を調教しようとした。

 手拭いを使って馬のように責め苛んだ。


 衆道初体験の金森右衛門八にはあまりにも酷な行為で、人格を捻じ曲げてしまうほどの衝撃を与えることになった。

 それは同じように年若い小姓達も同じだった。

 まだ衆道の経験のない、側で見ていた小姓達が、その姿を見て流石次期将軍様だと思ったかどうか……


 だが家光は単に小姓を責め苛むだけではなく、ちゃんと褒美も与えた。

 一六二三年七月二七日に将軍となった家光は、タチに目覚めさせてくれた金森右衛門八へは、外様から譜代名門中の名門、大老の酒井忠勝の家号を与えられ、譜代扱いで酒井重澄を名乗る事になった。

 しかも小姓に過ぎない十七歳の少年が、下総国生実二万五千石を与えられたのだ。

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