第15話~15

いつから?歌が邪魔になったのか?

始まりは30代中盤ごろだろうか?


自分の積み重ねたモノがすべてハリボテのように感じた私はそのほとんどを捨てた。

例えば、映画を観に行く、舞台を観に行く。音楽を聴きに行く。等そういった文化的生活も封印。そういった事が勉強だから。と思い込んでいた私は一切観ない。聞かない。と決めてしまうと自分が本当に好きだったのかさえも分からず、何をしたいのか?さえ見つからず、生きる目的意識にあふれていたことすら偽物で、新しく生きなおそうと思うのに、ヨレヨレになったポケットの中身は空っぽの毎日が繰り返された。働かなかった訳ではない。でも、その行く先々でトラブルが起こり、ただ、時間が流れて行った。


そんな時、何気なくテレビを付けると、いきなり父が出ていて、一瞬でいろんな次元へフラッシュバックした。号泣し、旦那さんがまだ帰ってきていない誰も居ない部屋で気づくと私は何かを怒りに任せて喋っていて、そしてしゃべりながら泣いた。又、あの頃、父は勢いづいていて本当に良くテレビに出ていた。


ただ、旦那さんとはあの頃まだよく出かけたりしていて、例えば、近所のスナックへ行き、カラオケなんかを歌ったりしたことがある。そんな時、「私はもう、歌わないのだから。。」等とは言っていなかった。


私がミュージカルや歌の仕事を辞めた本当の理由は話せていなかった。すなわち、父から受けた暴力や、近親姦の話はそういったことがあった。という事までで、「それ以上、話すな。」と釘を刺されていたのだから。。


カラオケを歌うと、そこでもトラブルが起こった。

「何だよ!楽しく歌えなくなるだろ!」「プロのなりそこないは素人の中で歌うなよ。」心無い客は酒の勢いもあって言いたいだけ言ってくる。

旦那さんは無用な喧嘩をするような人ではないし、そんな時はもう帰ろうか!とか店を出ようかと言って事は治まるし、そういった穏やかな人で私はホッ!とするのだからそれでいいと思っていた。お店のママも慣れたもので、お客の居ない時は「歌って!」と言ってくるが、他に客の居る時は、旦那さんが「君の歌でも聴こうか!」と言ってカラオケに行くのに、私の入れた曲はいっこうに出てこない。そんな時もあった。。


そんな時に思ったのは


上手くなりたくて練習した訳ではない。


あれは、自分の意思ではなかったのに。。


だった。。


そのうちに旦那さんとカラオケに行くことも無くなった。


当時のカラオケボックスは本当にコンテナ。。まさにボックス。。といった味気ないものだったし、スナックやクラブでは私の「歌」はトラブルの元だったような気がする。


職場関連でも事の流れでカラオケに行って、良い気分を味わった事も少ない。

接待ゴルフとはよく言うが、私の「歌」はどうもそうはならなく、素人の相手を不快にしてしまう程プロの歌い方。。だったのだろう。。


噛み続け、へばりつき、堅くなった。。味も何もかも抜け殻の、まさに裏返しのチューングガム。。それが私の「歌」

そのうち、私はカラオケも封印した。


ただし、インドネシアのバリ島に行った時だけは違った。

おそらく私の気分も違ったのだと思うし、日本人と外国人の反応が違った。。

日本人よりもっと反応がシンプルだった。。

ツーリストは主にオーストラリア人やヨーロッパの人も多く、私は日本人が殆ど泊まらないコテージを選んでいた。


定宿にしていたコテージのバーは、カラオケではなく生バンドで。。大体日本語の歌は「すき焼きソング」ぐらいしか演奏できない。だからシャーデーやホイットニーヒューストン辺りを歌うのだが、いつも最初と最後に泊まる小さなコテージのバーでは毎回歌っていた。いつだったか?オランダ人の医師夫婦。。その旦那さんがプロ級に歌が上手く、歌合戦になった時、一杯御馳走になったりした。。一人旅でしかも日本人が。大したもんだ!(おそらく歌う勇気が!)そんな風に言っていた。。


同じコテージに泊まっていたオージー家族は明日も歌うのか?と聞いてきた。

で、一家で私の歌を聴きにきてくれた。。


おそらく、バリ島に行っている時だけ、母との良い思い出だけに浸れるようなノスタルジックな気分だったから歌えたのだと思う。。それに人々の反応が日本より良かったのだから。。



でも、日本に帰ってくると、再び「歌」は封印した。。


解禁したのは、否応なく、父の介護の時だった。

で、再びあの時代の再現が襲ってくることになる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る