最終話



そして放課後、私は教室に愛美まなみを置いたまま一人体育館横に向う。


そこには既に良太りょうたくんが待っていた。


気配を感じてこちらを見た良太くんの顔が、私を見て一気に曇る。



「え…由実ゆみさん、なんで?。愛美は…?」


不安そうに言う良太くんに、私は深く頭を下げる。


「すまん良太くんっ!。愛美は2度と良太くんと─────」

「ダメーーーーっ!!」


いきなり後ろから駆けてきた誰かに後ろから抱かれる。


私が顔を上げ後ろを見ると、涙目で顔をフルフルさせている愛美がいた。


とりあえず一回愛美の頭を抱きしめて、頬摺りするまでがワンセット。



「おっと、電話が。すまん、あとは2人でよろしゅー」


私はスマホを取り出し、わざとらしく2人から離れる。


そして体育館の陰から、こっそりと2人の様子を窺う。




私がいなくなって、すぐに今までの寂しさを補う様にガバーっといくかと思ったけどそんな事もなく、2人はもじもじと向かい合っている。


「「あのっ…」」


そして同じタイミングで話し出して、またもじもじして止まるというイライラする展開だ。


…これはそろそろ、私が割って入った方がいいんじゃないか?。


最悪そんな展開も考えないとと思っていたところ、2人に動きが生じる。



「「ごめんなさっ───」」


─────ゴチン


比較的近付いていた2人が同じタイミングで頭を下げたため、頭が相手の頭へゴチンとぶつかる。


そして愛美も良太くんも頭を押さえ、その場にうずくまる。


とりあえず私は、構えてるスマホはそのまま固定で動画を撮り続ける。



「アイタタタ…もぉ、なんで同じタイミングで頭下げるのよっ!」


「イテテテ…愛美こそ、ボクが謝ってるんだから、そのまま立っててくれれば良かったのに、なんで頭下げたんだよ!」


少し痛みが引いたのか、顔を上げて2人がギャーギャーとレベルの低い言い争いを始めた。



「大体、私があんな事しなかったらこんな事になってないんだから、まず私に謝らせなさいよっ!。レディーファーストって知らないわけっ!?」


「何を言ってるんだ!。ボクがあんなにしつこくしなければ愛美をこんなに追い込まなかったんだ。先に謝るのは当然ボクだろう!」


あれ?、仲直りのはずが何で言い争ってるんですか?、あの2人。



「大体、なんであれだけ断られたのにまだ私なのよ!。由実とか、もっとかわいい子いっぱいいるじゃない!。アンタ、バカなのっ!?」


「由実さんとなんて比べ物にならないよ!…愛美以上に可愛い子なんかいる訳ないじゃないか!。その程度も分からない愛美こそバカじゃないか!」


うずくまったままの2人は、なんか唸りながらじっと見つめあう。


とりあえず良太くん、そこは『由実さんとなんて比べられないよ』じゃないかな?。


…とりま、良太くんは後で2発ほどシバくけどな!。


「もぅ、こんな危険なの放っておけないわ。とりあえず私の友達にはしてあげるから、他の子に迷惑かけない様に私だけを見ときなさい!」


「…えっ?。それって…」


後ろからなので表情までは分からないものの、愛美が顔を下に向ける。


そんな愛美を見てる良太くんの顔は真っ赤だ。



「…それから、今までごめんなさい。私本当にひどい事してしまってた」


「ボクの方こそ…全然愛美の事を考えずに、自分だけの事しか考えてなかったみたいだ。こちらこそごめん」


それから良太くんがスクッと立ち上がり、愛美に手を差し出す。


愛美はその手を握り、引き起こされる様に立ちあがる。


私はそんな2人を見てると、我慢できずに飛び出し愛美を背中から抱きしめた。



「もーっ、お姉さんは心配したんだよー。仲直り出来てホントに良かったー」


私は愛美の髪のくんかくんかと5回ほどしてから、強くぎゅーと抱きしめる。


「ちょ、ちょっと!?。由実、アンタなんでここに居るのっ!!?」


「あー…由実さんならずっと体育館の陰からこっちを見てたよ…」


愛美がこちらに向けていた顔を凄い勢いで良太くんに向ける。


「なんで………なんでそれをずっと黙ってたわけ?」


「いや…そんな雰囲気じゃなかったというか…」


アハハと渇いた笑いをしながら、視線を逸らす良太くん。


「信じられないっ!。私帰るっ!」


私を乱暴に引きはがし、ドスドスとガニ股で歩いて行く愛美。


良太くんは私に「由実さん、ホントごめんね!」と頭を下げて愛美の背を追っていく。



追いついてきた良太くんになんか文句を言ってるけど、無視したり逃げたりはしてないのできっと大丈夫だろう。


…まぁ、良太くんは明日にでも今日の分も含めて3発ほどシバくんで、覚悟しぃや?。



「あーあ…私にも素敵な彼氏でけへんかな…贅沢言わへんけど、スポーツマンでイケメンやったら文句ないわぁー…って贅沢言っとるやないかーい!」


虚空につっこんでひとりボケひとりツッコミもしたので、私はぐいーっと背を伸ばす。



そんな私の背中を体育館の陰から見てる小柄な人影がいたなんて。


そしてその小柄な人影がハートのシールで封をした手紙を持ってたなんて、私は全然気付いてなかったけど、それはまた別のお話って事で。



=fin=

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