第12話 忘れ物

「遅い……」

なんで

呼び出された側の私が待たされてんの?

などと、思いながらマフラーを巻き直していると、


「悪い…、遅れた」「遅い!」

「ごめん…」

「それで?今日はどうしたの?」

「どうしても言いたいことがあって…」

「…なによ?急に…」

「俺、お前のこと好きだったみたい…」

「………」

私は何も言わなかった

「遅くなってごめんな」

「別にいいわよ…、そのくらい

 話はそれだけ?」

「うん…」

「そう…、じゃあね」

「うん…」

「あ、私も好きだったよ」

「うん…、うん?」

彼は言葉の意味を理解したみたい


「あぁー…

 俺、ホントに遅かったんだなぁ

 気付けなくてごめんな」


「いいよ、別に…」


そう言い残すと

彼女は季節外れの雪のように

消えていった


ぬるくなった麦茶を持ったまま

俺は呆然としていた…


アイツが自殺してもう、半年か……






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