第14話:第1章-11

 青年がはくしゆをする。

「今の一撃は良かったよ。君のけんは基本に忠実でとてもりゆうれい──……え、えーっと、レ、レベッカ?」

「………………」

 私は少し離れうつむく。身体からだが勝手にふるえてきた。

 地面になみだが落ち、みを作っていく。おさえられない。

 この剣は、私を支えてくれたゆいいつの……『相棒』だったのだ。

 さっきまでゆうしやくしやくだった黒髪眼鏡の青年が、あわて始める。

「あ~……そ、その、ち、ちがうんだっ! な、泣かすつもりはなくて、ね……困ったな。ねこを相手にするのは久しぶりだったもんだから、加減が分からなくて」

「ぐすっ……わたし、子猫なんか、じゃ、ない……」

 涙をそでぬぐいつつ私は青年を睨みつけ、文句を言う。

 明らかにどうようした様子ですきだらけだ。

 自然と──身体が動いた。

「わたしは、あんたなんかに、負けないんだからぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 私は半ばから折れた剣を最上段から振り下ろす!

 りよくが剣身を伝い急加速する初めての感覚。青年のひとみが大きくなった。

「おおっとっ!?」

 私が繰り出したしようがい最高の一撃は──青年の両手にはさみ込まれ停止していた。

 げたペーパーナイフが、剣身のわきに落下し、突き刺さる。

 眼鏡の奥の瞳がやさしく私を見つめた。

「エルミアが気に入るわけだね。初めての模擬戦で両手を使わされたのも久しぶりだ。今日はここまでにしておこうか」

「……………」

 私はゆっくりと剣をひき、鞘へ収めた。

 ……本当に折れちゃったんだ。私の剣……。

 心がしずみ、ひどく落ち込む。

 青年は突き刺さっている剣身とペーパーナイフをき、私に声をかけてきた。

「ごめんよ。剣を折るつもりはなかったんだけど……君が思ったよりも強くてね」

「! ……本当、に?」

 黒髪の青年と視線を合わせる。

 すると、強いこうていが返ってきた。

「強いよ。第八階位というのは信じられない」

「……そ、そう」

 沈んでいた心がじようしてくる。我ながら単純だ。

 ──頭の上に、大きな白いタオルが降ってきた。

「顔を洗うついでに、おにでも入っておいで。その間に僕は代わりの剣を選んで、夕食を作っておこう」

「え? で、でも……私……」

「折ってしまった剣のおびだよ」

 青年が私を見つめる。そこにあるのはじゆんすいな心配だ。

 ……エルミアと同じ。

 私はまぶたを袖で拭い、返答した。

「…………分かったわ。それと、その──……ハ、ハル」

「ん? 何だい?」

 私は黒髪の青年へ向き直り、深々と頭を下げる。

「え、えっと……あ、貴方あなたが強いのは分かったわ。だ、だから……その……い、育成、よ、よろしくお願いします。で、でも、効果がなかったらすぐめるからっ! ……あったら、ま、まぁ正式な教え子になってあげても、いいわ」

 青年が、くすり、と笑った。

「任されたよ。【辺境都市の育成者】の名にちかって階段を上らせてあげよう。代えの剣と夕食は期待しておくれ。ああ、それと、レベッカ」

「? 何??」

 青年──ハルは私へ笑いかけた。

れいかみなんだし、大事にした方が良いと思うな。昔、教え子が使っていたせんぱつざい、使ってみるかい?」

「!?!!」

 え、えっと……き、綺麗って……あの、その……。

 ほおが赤くなっているのを自覚しつつも──……うなずく。

 すると、ハルは悪戯いたずらっ子のように微笑ほほえんだ。


 ──石造りのお風呂は今まで私が入ってきた中で、一番広く気持ちよいものだった。

 どうやら温泉らしい。あと、洗髪剤は花のかおりがした。

 はい教会のにこんな場所が? という疑問はたなげ。理解出来ないし。

 だつ場には女子用のえが置かれていた。だれかがまりに来ることもあるのだろう。

かいじん】とか【とう】とかなのかしら?

 お風呂上がりの牛乳も冷えていてすご美味おいしかった。

 ごうな夕食の間もハルとたくさん話をして……小さい頃、お母さんが生きてた頃以来だったかもしれない、あんな風に楽しい夕食は。

 こういうのもたまになら、悪くはないのかも……と、思っていたら夜はけてしまい、結局、その晩は私も泊まっていくことになってしまった。

 しかも、あてがわれたのはエルミアのベッド。

 何と、あの白髪ハーフエルフ、この廃教会できしているらしい。

 ふふふ……良い情報を得たわ……。

 だけど、当面、ハルのことはジゼルにないしよにしておかないと。絶対、り聞かれるし。


 ──そんなことを思いながら、私は数年ぶりに安らかなねむりについたのだった。

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