第26話 手錠

 俺は病室で寝ている。寝ていると言ってもただ目をつぶっているだけだが・・・。俺は昔から病院独特の薬品か何かの匂いが嫌いだった。とは言ってもしばらくは睡眠できたみたいだった。

 俺はぼーっと目をつぶりながらも考え事をしていた。内容はもちろんあの二人の事だった。俺の部屋に現れた二人と、街灯の下に急に現れた二人は、まるで別人に見えた。そもそも俺の部屋に現れた二人は俺を狙っていた?なんのために?まぁ今ここで考えていても答えが出るわけではない。俺はそう思いどうにか睡眠状態になろうと、無心になるために、羊を数えていた。

 すると、病室の扉がスーッと右にスライドしているのが分かった。

              

              誰か来る・・・


 俺は横向きに寝返りを打った。足音も何も聞こえないが、人が入ってきているという、空気がかき分けられているような殺気を感じた。その殺気はだんだんと近づき、はっきりと手の先が自分の肩に触れようとしていることが分かった。

 俺は思い切って殺気の正体を見るために顔を上にあげた。すると俺が声を出す間もなく口を手で抑えられた。手は革製の手袋のようなものをはめているのか、少し臭かった。

 「声を上げない方が良い。」落ち着いた声がさらに恐怖をあおり、俺は声が出せなかった。とりあえず俺は顔を見上げてみた。すると、黒いレインコートのようなものを着て、黒いマスクをしている男が立っていた。身長は俺と同じくらいか・・・ならなんかあった時も対応くらいならできそうだった。

 「良いか?俺は今からお前をここから連れ出す。だが拉致はしない。」そう言いながら男は、手を俺の口から外した。

 「お前が決めろ。ここに残るか、俺と一緒に行くか。」こいつは急に何を言いているのか?しかも、拉致目的じゃなくてじゃあ何しに来たんだ?なぜか俺はこいつが危害を加えるように思えなかった。もし危害を加えるつもりでも、まず動機も分からないし、何かあってもどうにかできるという変な自信が出てきた。

 「行くと言ってもどこに?」すると、男は少し驚いたような様子になった。

 「え?来るの?」こいつやっぱり頭がおかしそうだ。

 「何だよ!最初っからこの作戦でよかったじゃんかぁ・・・」俺は彼の小声のつぶやきがそう聞こえた。

 「場所によるなぁ?その行先によってはここに残る。」俺はこの話し合いに有利に立てるのではないかと淡い期待をした。

 「過去だ。」男の一言に俺は固まった。

 「今なんて言った?」

 「だから過去。パストって言った方がよかったか?」

 「ってことはあんたもタイムトラベルができるってことか?」

 「仲間が増えてうれしいか?だが、残念ながら俺は仲間じゃない。」そう言うと、男はポケットの中を漁った。

 「お!あったぞ。」俺は手を突っ込まれているポケットから出てくるものが出てくるのを俺は恐る恐る待った。彼に手には銀色の手錠が握られていた。

 「お前を逮捕する。」俺の頭の中は一瞬にして、この場からどう逃げようかという頭に早変わりした。 

 「と思ったが、まぁそうもいかないのよ。」なぜ俺の周りにいる人々は俺の精神を崩壊させようとするのだろうか・・・

 「どういうことですか?もし逮捕されるにしろちゃんと説明してくれよ。それにあんたら何者なんだ?」すると男は俺をなだめるように、俺に両手を向けた。

 「まぁ、落ち着いて・・・まだ逮捕するわけじゃないから・・・」しかし、俺は納得できない顔をした。

 「証拠不十分なの・・・それにこれは君にとってもとても重要なことだ。」

 「ちょっと待ってくれよ。あんたは警察かなんかかぁ?」俺はとりあえず彼に疑問をぶつけていくことにした。

 「それも違う・・・まぁなんだ?そのうちわかるから・・・どうするの?来るの?来ないの?」なんかわからないが、この話し方どこか親近感がわいた。

 すると突然、彼の時計のアラーム音が鳴り響いた。

 「おっと!時間がない。どうする?来るの?来ないの?」急かされると人間って正常な判断が出来なくなるってよく言うけど、本当だなと思った。

 「わかりました。行きますよ。」

 「じゃあ、これして。」すると男はイヤホンの片耳を俺に渡した。俺は、動揺を隠しきれず、少しイヤホンを眺めた。

 「ほら、早く!」また急かされた。

 「ところであなたはどこの時代の人ですか?言動からして未来人っぽいけど・・・」なんかいろいろ知っていそうな言動から俺はそう言ってみた。

 「まぁそんなところかな?とはいってもちょっと先のだけどな。」そう言うと、男は自分の胸元を覗き込みながら、何かを探していた。

 「しっかり歯を食いしばってろよ!」彼がそう言った瞬間、視界を縦横無尽に電流が流れ始めた。

 この光景、どう考えてもあのポケットラジオを使ったときの減少だ。

 「さて、ここが過去かな?」辺りを見回すと、大きないびきが聞こえてきた。

 「おっと・・・」男の不安な一言が聞こえてきた。

 「何?」するとマスク越しでも言いにくいことを言おうとしているのが分かった。

 「まず、ここから出ないと・・・」

 「うん、出ようよ。」俺は簡単答えた。

 「でも、ここは過去の病院。つまり君はまだこの病室に入院していないから、俺たちは不法侵入者ってことだ。」


               やってくれたな。


 この言葉に尽きる・・・

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