第25話 ブランコ

 俺と泰斗は早朝の公園のブランコに座り込んでいた。奥の方のベンチでは、ホームレスらしき男が起き始めていた。

 「この世界ではマーシーはあの施設が嫌いなのかなぁ?」泰斗は思いっきりブランコを左右に揺らしながら話した。

 「でも、田中先生もあんな感じだし、それはないと思うけど・・・」もし、施設自体が俺らの世界と変わりがないのであれば、おそらく誰も逃亡を企むことはないと俺は思っていた。とはいっても確かに俺があのくらいの時に、同じくらいの年のやつが逃亡したのは、はっきり覚えていた。

 「なぁ、俺たちの時にも逃亡した奴いたの覚えてるか?」

 「ああ、さっき言ってたなぁ。」泰斗はそういうと、ブランコの動きを止めた。ようやく隣が静かになったような気がした。

 「あれって誰だったとか覚えてるか?」すると泰斗の答えはかなり早かった。

 「そんなんマーシーが覚えてなかったらあのくらいの時期じゃあ覚えてないというより知らないって。」確かに泰斗の言う通り、泰斗は昔極度の人見知りで、誰とも話さず、唯一コミュニケーションをとることが出来たのが、田中先生と俺だった。コミュニケーションといっても、本当にただうなずくくらいだったが。となると基本俺と交流がない人間とは泰斗も交流がないはずだった。

 それに追い打ちをかけるように俺は、輪を広げるようなタイプじゃなかった。つまり俺たちの施設の人間で記憶にあるのはお互いと、田中先生だけだった。

 「確かに・・・」俺は一言そう残すと、今度は俺がブランコを揺らし始めた。なんか2人でブランコに乗り合うというだけで中三の2月を思い出した。二人とも高校の前期入試が落ち、次をどうするか考えていた。

 「なんか俺たちって悩んでるときいつもブランコに乗ってる気がするな。」何気ない一言に泰斗は、再びブランコを揺らしながら答えた。

 「でもそのおかげで俺たちはまた同じ高校の後期受けて、一緒に受かったじゃん。」なんかいい思い出が無かったブランコに対して少し愛着みたいなものが生まれた気がした。

 「もしかしたら、俺たちにとってブランコは人生の岐路なのかもよ。」


             ・・・人生の岐路・・・

 

 なんか大げさな響きに感じた。でももしそうなら、ここで何か閃いてもいい気がするなぁ。すると泰斗の目が見開き、俺を見始めた。俺はすぐにブランコをやめ泰斗を見返した。

 「どうした?なんか思い出したか?」

 「いや思い出したというか・・・」そう言うと泰斗は急にブランコから立ち上がった。

 「ここがパラレルワールドの過去で、俺らの世界と違う事象が起きている。」

 「そうだな。」今の泰斗はまるで推理中の探偵のように、眉間に人差し指を当てながらうろうろしていた。

 「現代でもパラレルワールドと俺らの世界での違いがあり、それがマーシーと平ちゃんがそれぞれ関係している。と言うことは・・・」そう言うと泰斗は足を止めた。

 「俺たちの世界で逃亡したのは、俺たちの世界にいる平ちゃんってことはあり得ないかなぁ?」もし、泰斗の言っていることが真だとすれば・・・

 「じゃあ、この世界では俺たちの世界の平ちゃんの人生を俺が、俺の人生を平ちゃんが送っているってこと?」となれば、するべきことはわかった。

 まずこの世界の俺がこの後どういう人生を歩んできたのかを確認する必要がある。おそらくこの次の日に彼は、里親に引き取られるに違いない。それから、元の世界の過去に戻って、平ちゃんと俺の人生を入れ替えるだけ。

 「ってことは俺ってこっちでは平ちゃんと仲が良かったのかな?」泰斗の何気ない言葉にふと我に返った。泰斗は田中先生の様子的にもこの施設にいない。と言うことはこの世界の泰斗は今どこで何をしているのかわからない。そこも何か重要なことなのかもしれない。だが、いまはそれよりも俺の行く末を見ることが大事な気がしていた。

 もし、この作戦がうまくいけば、俺の人生は180°変わることは間違いない。この底辺のごみくず生活に別れを告げ、せめて普通のなんの変哲もない、世界の大半の人間が送るようなある程度平和な生活を送りたかった。

 少なくとも、俺と泰斗がのちに引き取られる里親とは、絶対に会いたくなかった。そんな思いを過去の俺にさせるわけにはいかない。

 「なぁ?」ふと泰斗が俺の顔を覗き込んできた。

 「何だよ?」

 「俺とお前は長い付き合いだ。」

 「そう・・だな?」こいつはいったい何が言いたいんだ?

 「もしマーシーが考えていることの俺の予想が合っているなら、それはやめた方が良いと思う。」

 「何だと思うんだよ?」それについて泰斗は答えなかった。泰斗はふと俺たちが通っていた小学校を眺めていた。

 「俺はなんだかんだ楽しかったぞ?」すると視界に電流が流れはじめると、小学校の校門へと向かう二人の少年の姿が現れた。

 確かに小学校を独り占めするために、集団登校を無視して朝早く学校に行っていた記憶があった。

 「でも、マーシーの人生だもんな。つらいこといっぱいあったよな。」そう言うと泰斗はポケットラジオを俺に差し出した。

 「大丈夫、周波数は俺が全部記憶してるから・・・」俺はポケットラジオを受け取った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る