第8話 神官

「塔から、魔法の武器がリディティックに秘密で貸し、与えられていた。

1回目の討伐時、罠にはめられ、そのうち2つを失う。

それは魔物の手に渡り、2回目の討伐時に使用されたという事か」


「証拠がなく、推測になりますが」


「なぜ息子が死ななければならなかったのです」


コーライン様の声にもはっきりと怒りがある


「それを調べていました。

塔から騎士団への不可解な干渉を」


ネズミが、ベッドの縁を俺のほうに移動し


「ゴーラ神官にお聞きしたいのですが」


俺の後ろにいた神官に突然話しかけた。


「先ほど兄上が話していた、アシクリ殿を蘇生できなかった神官はあなたですよね」


祈りの声が止まり、痛みが全身を走る。

すぐに祈りが再開され、痛みはなくなった。


アマト殿が

「ワーシュムン。

もういい」


と言った途端、炭となっていたものから音を立て、煙が噴き出している。


「ふぅ」


炭だった体がみるみる人のものへと変わっていく。

こちらを向いて、手を広げた。


「教会の『癒し』じゃないから、後から反動が来るよ」


急に体が熱くなり、体が作りなおされているのが分かる。

それと共に激しい痛みが全身に走る。

ベットの上でのたうち回ってしまった。


「イグリース」


カリーエ様が駆け寄ってくださり、体を支えてくださった。

しばらくして痛みを感じなくなる。

ものすごい疲労感があるが、痛みはない。

傷は癒えているらしい。


隣を見れば、左手は肘から先がないが、ほぼ裸の男が座っている。

あの嫌な笑顔はそのままに。

後ろの魔法使いは治療をしていたのではなく、彼を拘束していたのか。


「ゴーラ神官」


今度は本人が後ろの神官に向かい話始めた。


「先ほどからの話を聞いて、

不思議な縁を感じていたかもしれません。

3年前、リディティック殿の2回目の戦闘に同行した神官はあなたですから」


後ろを振り向こうとしたが、そこまでは回復していなかった。

痛みで動きが止まる。


カリーエ様は彼女を見ているようだった。


「アシクリ殿を救えなかった自責の念から修練を重ね。

今では、治癒の奇跡では司祭をもしのぐと聞いています。

ここにいるのは、偶然ではありません。

元老院議長から緊急の蘇生を依頼され、それに対応できる人が、あなたしかいない昨夜を選んでいます」


俺がこうなることは予定済だったのか。


「アシクリ殿の最後をお教え願えませんか。

沈黙の誓いを立てさせられているとは思いますが、ご子息の最後をご家族に伝えることは、その誓いに背くことにはならないのでは」


しばらくの沈黙の後、ゴーラ神官が話始めた。


「先にケガを負って逃げてきた4名を治療し、少し遅れて奥に進みました。

アシクリ殿は広場の入り口横に倒れており、私が行った時にはすでに亡くなっておりました。

鎧の上から脇腹に達する傷があり、それが致命傷だったと思われます。

当時の私では、生へ呼び戻すことはできませんでした。


まだ中では戦闘が行われておりましたので、その支援のため、アシクリ殿をその場に。

私の力が及ばず、申し訳ございません」見


えないが、きっと神官はコーライン様に頭を下げているのだろう。


「剣は折れていましたか」


「は」


考えていなかった質問だったのだろう、何を質問されたのか分からないようだった。

思い出し

「はい」

と答えた。


そうだ、戦いの中で折れてしまったのだ。

絶対に折れてはいけない剣が。

どうやって戦える。


未熟な俺をどんなに恨んだろう。

どんな思いで死んでいったのか。


「どうして覚えていたのですか」


「ご遺体の上に折れた剣先と柄の部分がありましたので」


「何のための質問なのですか」


クェルスの意図が分からず、コーライン様が聞く。


「ゴーラ神官の前には誰もアシクリ殿には触れていません。

おなくなりになった時のままです。

戦闘で剣が折れたならば、折れた剣先はご遺体からは離れた場所に有ったはずです。

ご遺体の上にあったとなれば、剣が折れ、倒れたのではありません。

倒れた後に剣が折られたのです」


「どうして壊す必要がある」


アマト殿が納得できずに疑問を口にした。

コーライン様もうなずいている。


「魔物が持つに相応しくない武器をどうやって手に入れたか、アシクリ殿は悟ったのです。

彼は意識が遠のく中で、気力を振り絞り<雷>を呼んだ」


「雷」


「はい、剣を折ったのは、アシクリ殿ご本人です」


「どうして」


「大切な剣が奪われないように」


「何を言っている。どうしてそんな事が分かる」


「アシクリ殿の剣をお借りし確認しました。

折れた剣に雷撃の痕が残っていました。

戦いに、魔法使いは参加しておりません。雷撃が打てたのは、アシクリ殿だけです」

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