第7話 アシクリの死
「坑道の件が今回の事に関係しているのか」
オビシャット卿の話は終わった。
「話をすこし戻しますが、私は塔から秘密りに持ち出されていたことに気づいていました」
「そういえば、書いてあるものは認識できなかったのだろう」
「さっきアマトが言っていた収蔵品目録を使いました。
調べてみると記録されている数と合いません。
<カラーヤの台帳>からは持ち出したものは調べられないが、無くなったものは目録から知ることはできます。
それでは、なぜわかられないように持ち出したのでしょうか」
「自分の研究のためだろう。
壊してしまう可能性がある実験をしたかったとか」
アマト殿が魔法使いらしい考えを示した。
だが坑道に関係があるのならば、それは違う。
「<カラーヤの台帳>は持ち出した日と返却された日は自動で記録されます。
その3つはいつ持ち出されておりますか」
オビシャット卿が台帳を取り、記録を確認した。
「坑道討伐の件と関係があるのだな。
持ち出されたのが討伐の直前だ」
「やはりそうでしたか」
魔法使いは、予想していたらしいが、オビシャット卿は納得できない。
「魔物討伐に使われたのか。
今までも何度か魔法の武器の貸し出しを塔に頼んだが、全て断られてきたぞ。
なぜ、この時だけ。
しかも公に行われたことでもない」
「今、初めて他者が知ることができたのですよ、本来公になることのない秘密のはずです。
これを兄上が知っていたら、公式に借りる場合をどうするかなど大きな話になっていたと思います。
兄上が知らないという事は、アシクリ殿へ渡ったのではない」
不公平な助力があったということか。
「私はフェルダ坑道に行き、坑道の中を調べ直しました。
当時、魔法使いは参加しておりませんでしたので、魔法使いの目で見れば、なにか発見があるかと思いまして。
兄上が先ほど言った広場で魔力の水晶のカケラを見つけました。
魔力の水晶は魔力を備蓄しておき、魔法を使う時に魔力を補うものです。
どのくらい蓄えられるかは品質によるんですが。
そして、あまり知られていない事ですが、魔力の水晶は蓄えた魔力が限界になると割れやすくなるのです。
カケラがあるということは、ここで水晶が割れたということになります。
アマト、その時どうなる」
「強烈な光を放つだろう」
魔法使いには常識のようだ。
「魔物は一瞬目が見えなくなり、そのおかげで、討伐は成功したのかと」
「最初からそのような物があるのなら、不要な犠牲者を出さずに済んだのに」
オビシャット卿の声は荒い。
「魔法使いがいれば、その水晶で、強力な魔法を繰り出せます。
このような使い方をする物ではありません」
魔法使いにも言いたいことはあるらしい。
「そして光る石。
塔から売り出されている物で、持ち主のマナで淡く光ります。
便利なランプ替わりとして使われだしています。
落ちていました。
広場には蛍鉱が設置してあったので、微かに明かりはあります。
いらなくなったのでしょう。
アシクリ殿の部隊は水をかけられ、松明の火が消え、闇の中での戦いをしいられました。
光る石は水では消えません」
そのひと言で、コーライン様が
「クェルス師。
<グリス>瀑布の剣とは、どのようなものなのですか」
「そのふたつ名のとおり滝のように水を呼び寄せる剣です」
「なぜ、魔物が塔に有った武器を使える。
リディティックは剣を奪われていたのか。
そして、自分たちだけ対策をして取り戻す機会をうかがっていたのか」
オビシャット卿が一段と声を荒らげる。
「不思議な攻撃は<ニプルス>でしょう。
自ら飛び、敵を攻撃持ち主の元に戻るものです」
それに対し、ネズミの声は冷静なままだ。
「なんという事をそれを今まで黙って」
「秘密で借りたもの、奪われたなどとは言えません」
「しかも<ニプルス>には返した記録がない。
奪われたままか」
オビシャット卿の怒りは収まらない。
「<ニプルス>での犠牲が出ていないか、その後の魔物の出現記録を調べ直してみました。
微かにギリシスカネ山脈へ移動するそれらしい痕跡がありました」
「痕跡?」
「オークと魔法の組み合わせです。
普通オークが魔法で攻撃してくるとは想像していないので記録にないものも多く、直接、現地に行って聞きまわりました。
そのままギリシスカネ山脈へ行き似合わない荒事をしてきました」
「戦ったのか。それで」
「すでに<ニプルス>は朽ちていました。
無理な使い方をしていたのでしょう。
そして収蔵品目録の記録と状態が違っていたので<グリス>も持ち出されていたと知ることができました。
魔力をすべて使いきっていました。
松明を消すために一度に力を使ったためかと。
あれでは光るナマクラです」
「2つも魔法の武器を奪われて黙っていたのか」
オビシャット卿の声は戻ったが、怒りはそのままだ。
「ギリシスカネ山脈で回収した物の中には、アーシル家の家紋が入ったミスティル剣もありました」
奪われたのは3つという事になる。
「アーシル家の者で討伐に参加したのは1人。
彼は1回目の突入でケガを負い、その後は参加していません。
なので、リディティック殿の昇進の恩恵は彼にはなかったようで。
それどころか、彼は坑道の件のあと、騎士団をやめ、領地に戻っています」
「家門入りのミスティルなら大事な剣だ。家長から罰を受けたか」
「剣を返すついでに、本人と酒を飲んできました」
身が軽いな、塔の副長と言うのもそんなに暇じゃないはずなのに。
「彼の名はゲルストルス。
兄上が想像した通り家宝の剣をなくしたため、領地に引きこもる事を命じられていました。
将来がなくなった彼からは、友人と称していた人々はじょじょに離れてゆき。
今では、本人もかなり腐っていました。
酒の力も借りて、当時の事を聞いてきました。
1回目の突入では途中敵に出会う事がなく、かなり奥まで進めましたが。
突然壁が崩れ半分が生き埋めになったそうです。
どうにか逃げ出す事はできたが、その時、腹に大きな傷を負い、神官が駆け付けたところで気を失った。
各自バラバラで退却して死人が出なかったのは運が良かっただけと言っていました」
「1回も敵と戦っていないだと」
「だそうです。
本人も恥ずかしかったらしく、今まで誰にも言っていないと。
剣が戻った嬉しさで教えてくれました」
「ゲルストルス殿は塔からの武具は知りませんでしたが。
リディティック殿と取り巻き2人が、ミスティルの武器をもっていたことは覚えていました。
壁が崩れた時、リディティック殿は後方にいたので巻き込まれなかったが、近くにいた2人は埋まったと。
彼も必死だったので確かではありませんが」
「まて」
オビシャット卿がクェルスの話を止めた。
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