仲間さがし

 姫野が部室に来るようになってから、放課後の時間はより楽しくなった。だが、それまでの教室で過ごす時間は、相変わらずだった。

 ここではルックスでランク分けがなされ、俺みたいな陰キャはすみっこに追いやられる。そして、陽キャの人達は大概性格がキツくて好きじゃない。そんな俺みたいな奴にとって、社会なんて砂漠みたいなもんだ。

 だから、こんなやり切れない世界だから、楽しいものを作りたくて、俺達はゲームを作っているのかもしれない。


 作ったゲームを見せてからというもの、姫野は声優業を頑張ろうと、よく発声練習をするようになった。俺達が作ったゲームのキャラの声優を務めることに意欲的になってくれたみたいだ。良いことだが、相変わらずの部分もあった。

 オタ文化をすぐには理解できない点は据え置きで、今日も今日とて俺のウチに来て、俺が貸してあげたナッツが好きなアニメのDVDの内容について文句を言っていた。


「ねえソータ、部室にフィギュアも飾ってあるけどさ、あんたらが好きだっていうザクとかグフとかドムだなんて、一体どこが良いわけ? ヤラレキャラじゃん。3分ももたずに12機やられた~とかさ」

「ヤラレとか言いなさんな! 素晴らしいだろフォルムとか個性とかが! あと、お前は全くわかっていない。いいか、フィギュアじゃなくてプラモデルな。ガンプラな。3分12機はドムじゃなくてリックドムな。一緒にしないように」

「どう見ても一緒じゃない! そういう細かいところがあんたらオタクのキモいところなのよ!」

「バカヤロウ! ドムは重装甲なのに熱核ホバー移動による機動性も確保した熱いコンセプトの名機なんだぞ! 宇宙じゃホバー関係ないだろ。だから見た目は同じでも、リックドムは熱くないんだよ」

「ごめん、なに言ってんのか一つもわかんないし、見た目分厚いし重装甲なんだろうけど、ビーム兵器で一発でやられちゃうし、反対にドムのバズーカじゃ何発当てても見た目薄いガンダムの装甲抜けないってのが、なんか悲哀を感じるのよね」

「それを言っちゃ……おしまいよ」


 身もフタもないことを発声練習のため割り箸を口にくわえながら言ってくる姫野に閉口する俺。


「あと、アイドルアニメの方も観たんだけどさ~、あんたらが好きだっていうチュンチュンちゃんのどこがそんなにいいわけ? 最後の方でアイドル辞めて留学するとか言い出しちゃうしさ~」

「馬鹿野郎! お前はなんにもわかってない! チュンチュンちゃんが最大の功労者なんだよ! 彼女は衣装製作を担当してるんだぞ! 一曲ごとに9人分の色違い細部違いの衣装を作るのにどれだけの時間と労力とお金が掛かってると思ってる! 仕上げは店でやってもらってるという言葉もあった。9色以上の生地を買い、9着を店で仕上げてもらったらバカにならんぞ。その額をメンバーに請求してると思うか? そんな風には見えないね! 貧乏キャラの子もいるし! バイトを始めてたのも、本当はその代金を稼ぐためだったと俺は思ってる! もう天使だぞ!」


「いやいや、そんな本編で描かれてないことを勝手に想像してゴリ押しされても……。そ~ゆ~のがまたオタクのキモいとこだと思う」

「……それと、ナッツ達と違って、俺はガンダムはファーストしか認めない派だ」

「そういうのも石頭でキモいと思う」


 発声練習のためにバケツを被りながら喋る姫野にバッサリと切って捨てられ閉口する俺なのであった。


 だが、数日後には、ナッツと「ガンダム戦記とギレンの野望、神だわ~」とか語り合ったり、アイドルアニメの曲をカラオケで熱唱しまくったりしている姫野なのであった。影響されやすい。

 なお、最近ではジーンも交えて語り合ったり歌ったりしている。大分打ち解けてきた。



「女の子の部員が欲しい」


 そんなホットな日常が続いたそんな中のある日、突然姫野が無茶な要求を俺達に突き付けてきた。


「え? なんで?」

「だって、女が私一人だけで、なんか居心地が悪いんだもん」

「まぁ、そりゃそうか……」


 もし逆なら、自分が女子三人の中に一人入っていったらと考えると、至極真っ当な望みだと理解はできるのだが、しかし……


「それを俺達に頼むか? 女の子と話したことすらろくにないというのに……」

「え~、どうにかならないわけ~? 一人くらい」

「誰に向かって言ってるんだ誰に」


 そう問答し、互いにため息をつく俺と姫野。しかし、その時だった。


「う~ん、すっごい細い糸をたぐるような感じになるけど、アテがあるっちゃあるかなぁ……」


 ふいにジーンが眉間にシワを寄せ、思案顔でそう口にしたのは。

 一瞬驚いたが、その様子と口ぶりから、俺はジーンが何を指しているのか、すぐにピンきた。


「ああ、もしや、ネトゲで知り合ったって子のこと?」

「ああ。彼女、ウチの生徒だって話してたから、もしかしたらと思って……」

「可能性がないわけではないのか。なら、やってみるんだジーン。男であらばな」


 今回、俺には何もできないので、せめてもと彼にエールを送っていると、そこでナッツも、ふいにポツリと口にした。


「それなら、俺も一応話してみるかな……。ネトゲで組んでる子と。あ、でも彼女はウチの生徒じゃねーわ」


 そう言われてみれば、ナッツもまた、ネトゲで女の子と親しくしているという話を聞いていたことを俺は思い出した。よし、頑張れお前達。

 

「いいよ。放課後に部室にさえ来てくれればいいんだから。しっかし、声掛けられる女の子がネトゲ上の知り合いだけってどうなのよあんたら」


 姫野に憐れんだ目で見られ、いたたまれず目を逸らすジーンとナッツだったが、いや声掛ける相手がいるだけ凄いだろ俺なんて人付き合いがイヤでネトゲすらしてねーもんと、内心で賛辞を送っている俺なのであった。

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