セイラさんの事情も聞いてあげましょう

「いきなり攻撃してくるの何なの? 百合とヤンデレのハイブリッドなんて受け止めきれないわ」


 エリカはうんざりした様子で腕組みをしている。

 

 一方のセイラは呆気に取られたような表情だった。

 彼女の両手では、黄金の柄のついた立派な剣が抜身になっている。


「私の攻撃を防ぐなんて、君は何者?」

「自己紹介は自分からするものじゃない?」


 ドラゴンとの戦いで気分を良くしたのか、エリカがよく喋るようになっていた。

 こちらの世界に慣れていなかっただけで、これが本来の彼女のような気もする。


「私は……」


 セイラは口ごもってしまった。

 怪しいと切り捨てればそれまでだが、何か事情があるように見えた。


「エリカ、彼女は何か訳ありみたいだ」

「ふーん、わたしも似たようなものだし、いじめるのは好きじゃないから」


 トゲを感じさせるようなエリカの態度が軟化したように思われた。

 

「セイラと言いましたね。もしかして、どこかの貴族ですか?」

「……貴族ではなくて王族なんだ」

「――王族!?」


 想定外の答えに驚きを隠せなかった。

 どうして、王族が街道の外れを一人でほっつき歩いているんだ。


 もしかしてと辺りを見回してみたが、護衛らしい人影は一人も見当たらなかった。


「国の名は明かせないが、ここから遠く離れた地の第三王女。訳あってドラゴンを追う旅をしている」

「……なるほど、そういうことですか」


 第三王女という単語が出てきて、どこまで質問していいのか躊躇した。

 王族に会ったことなど生まれて一度もなく、辺境役人の自分とではあまりに身分が違いすぎる。


「ていうか、あんなの追っかけて何がしたいの?」

「ちょ、エリカ……」


 対等に話そうとするエリカを諫めるべきか迷ってしまう。

 

「……話せば長くなるが、聞いてくれるか?」

「……馬車と合流したいから、要点はまとめて教えて」

「ああっ、そうしよう」


 セイラは僕たちにドラゴンを追っている理由を話し始めた。




 彼女は第三王女で正統後継者になる可能性は薄く、他の姉妹と比べて奔放に育てられた。幼い頃から剣術に親しみ、順調に優れた剣士に成長した。

 腕試しをして各地を回ろうと思い立つが、王族のしかも王女にそんな無茶が許されるはずもなく、なかなか実現されなかった。


 そんなある日、お伴を連れての外遊ならばと限定的な許可が下りた。

 彼女はお伴の近衛兵におとなしく従うふりをしていたが、隙を見て逃走した。

 

 生まれて味わう自由に彼女は陶酔した。

 彼女の剣技は城の外に出ても通じるもので、剣聖と腕試しをしたり、悪いやつをやっつけたり、時には魔物を討伐したりした。


 そんな日々が続いた後、彼女は魔物を追った際に深追いしてしまう。

 森で遭難してしまい、町に帰れないまま飢え死にしそうだった。


 厳しい状況の中で、彼女は隠れ里のエルフに助けられた。

 エルフは人と関わらないというのが通説なので、彼女は非常に驚いた。


 エルフとの平和な日々が続き、体調が回復した彼女は里を出ようと考えた。

 

 ちょうどその時、あのドラゴンが現れた。

 隠れ里のエルフたちは犠牲を出しながらも、繰り返しドラゴンを退けてきた経緯がある。


 その時はセイラの助力もあって、最小限の被害に抑えることができた。

 しかし、いつまた次の襲撃があるか分からないという。


 それを聞いた彼女はドラゴンを倒すと宣言して、今度こそ里を出た。

 



「――というわけで、私はドラゴンを倒すために追跡を続けている」

「三行でまとまらない話よね」

「まあ、とにかく彼女の事情が分かったし、よしとしよう」


 ご機嫌斜めなエリカをなだめつつ、会話を続ける。


「もしかして、その剣はエルフから譲り受けたとか」

「ああっ、旅立つ時に贈られたんだ」


 セイラは誇らしげに鞘に収まった剣をこちらに見せてくれた。


「それじゃあ、エリカも話してましたけど、馬車と合流しましょう」


 何となく、アランは歩いて行ける範囲に待機していそうな気がした。

 共にした時間は短いものの、信頼のおける御者という印象だった。


 僕たちは話を止めて、その場から歩き出した。

 街道には人気がなく、ドラゴンの巻き添えが出なかったのは幸いだった。

 

 地面に残る馬車の跡を進んでいくと、木陰で待機するアランが見えた。


「おおっ! お前さんたち無事だったか」

「はい、何とか」

「……んんっ? そこの令嬢はどこから出てきたんだ?」


 アランは僕と同じような反応を見せた。

 街道でたまたま顔を合わせるには不自然に感じられるだろう。


「えっと、彼女はセイラ……」

「同じ馬車に乗せてもらうつもりだから、名乗らせてもらおう」


 セイラはどこかの第三王女であること、ドラゴンを追っていることなどをアランにも話した。

 

「うーん、予定外の仕事は追加料金と言いたいところだが、王族っていうのは本当みてえだし、恩を売っておくのも悪くないか」

「アランと言ったな。世話になる」

「ははっ、やっぱり平民とは何か違うな」


 馬車で商売をしている彼でも、王族を見かけることなど滅多にないはずだ。

 珍しい客を乗せることになり、彼は愉快そうな様子だった。


「それじゃあ、改めてキュトリーまでお願いします」

「折り返しは越えてるから、日没までには着くからな」


 僕たちは馬車に乗りこみ、アランは馬を出発させた。 




・ステータス紹介 その7


名前:レッドドラゴン(エルフたちからは暁の飛竜と中二っぽい呼ばれ方をしている)

年齢:推定100歳

職業:ドラゴン

レベル:??

HP:??? MP:???

筋力:300

耐久:500以上

俊敏:150

魔力:200

スキル:ドラゴンブレス

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る