第14話 誰がクマを盗んだの

 本当なら、今ごろ、聖堂には数々のタピスリが優雅に展示されてあるはずだった。縫いつけられたビジューが蝋燭の灯火を受けて星々のようにさんざめき、その様子にうっとりとしたため息がこぼれ、炎を揺らす。温かな光の滲む中、いっとう素晴らしいタピスリが選ばれて、後夜祭にて文字どおりの有終の美を飾る栄誉を得る。

 しかし、今夜、聖堂は空っぽで、人っ子一人いない。聖堂の外では未練がましく令嬢たちが肩を落としていた。本来、明日の狩猟祭に参加する者たちへの激励のはずが、かえって慰められる羽目になっている。今年の前夜祭が惨憺たる結果に終わったのは、誰の目からもわかった。

 私たちの陣営は、タピスリの裂かれていた聖堂へ赴く気にもなれずに、寮舎に戻っていた。私やパトリツィアともどもフェアリッテたちの部屋に集って、重たい声で話しあっている。


「きっと、ボースハイト嬢がやったのよ」ヴォルケンシュタインが険しい顔で言った。「こんな悪どいすることをするひとなんて、彼女以外にいないもの」


 ベッドの上で引き裂かれたタピスリの布片を握りしめる彼女の手は、真っ赤になるほどに固く、震えてもいた。その烈しい怒りには同調するも、彼女のあとに続いた「だったらどうして自分のタピスリも台なしにしたの?」というグラーツの意見のほうが、私は頷けた。痛ましそうに、けれど冷静な調子で、グラーツは言葉を続ける。


「タピスリはフェアリッテのだけじゃなくって全部引き裂かれていたわ。前夜祭に提出されたタピスリ全部が。私はボースハイト嬢がやったとは思えない。王太子妃候補がそんなことをするなんて、ばれたときにとんでもない問題になるはずだし」

「ボースハイト嬢じゃなくとも、彼女を支持する人間がやったんじゃないかしら。彼女のタピスリ以外をめちゃくちゃにして、そのあとに訪れた別の派閥の人間が、ボースハイト嬢のタピスリも引き裂いたのよ」

「だったらもっと早くに、それこそ、その“別の派閥の人間”が聖堂に訪れたときに、事が明るみになっているはずでしょう。タピスリがあんなことになっていたのよ? それをわざわざボースハイト嬢のタピスリを裂いてから人を呼ぼうって? さすがに暢気すぎるんじゃないかしら」


 どれだけ考えても、この一件の犯人が浮かびあがることはなかった。

 もちろん、学校外部の犯行という可能性もある。しかし、この時期におこったこととなると、王太子妃候補争いの余波であり、学校内部の人間の犯行だと考えるのが妥当だ。問題は、肝心の目撃証言がないこと。犯行時刻と推定される時間帯に、聖堂へ向かう人影を見た人間がいない。そのため、学校側もこれ以上の追究を断念していて、事件は迷宮入りとなりそうだった。


「……明日の狩猟祭はどうなるのかしら」

「先生に尋ねたら、予定どおり開催されるって」

「こんな状況なのに?」

「こんな状況だからこそでしょう。狩猟祭の参加者だって、明日のためにずっと準備してきたのだし」

「でも、私たちの前夜祭は……」


 すると、そのとき、ずっと顔を俯かせていたフェアリッテが「……ごめんなさい」と力なく呟いた。

 みなゆっくりとフェアリッテへ視線を遣る。

 フェアリッテは幽霊のように蒼褪めた顔で言葉を続けた。


「こんなことになったのは私のせいよね」


 フェアリッテの呟きに、数瞬、誰しもが呆気に取られた。


「どうして? フェアリッテ。貴女のせいなんかじゃないわ」

「でも、私が次期王妃なんて言われてるから、せっかくのタピスリが」

「それとこれとはまったく別の話よ。王太子妃の候補に選ばれるなんて、素晴らしいことなのよ? 悪いとするなら、それを理由に邪魔しようとしてくるひとたちだわ」

「そうよ、フェアリッテ。みんなががんばって織ってきたタピスリを滅茶苦茶にしてしまうなんて、人として最低だわ。貴女だって同じぐらい傷ついているのに……」


 そうやって、友人に慰められているあいだも、フェアリッテは唇を噛み、こぼれそうになる涙を忍んでいた。わずかに朱の散った目尻に固い皺を寄せ、「ごめんなさい」と声を震わせる。


「みんなで、がんばって作ったのに、あんなに楽しかったのに、あんなに素敵なものができたのに、それなのに……悔しい! 悔しいわ!」


 フェアリッテの涙を呼び水に、リューガーの泣き腫らした瞳も再び潤んでいく。グラーツはぐっと拳を握り締め、無念の表情を浮かべていた。ヴォルケンシュタインもパトリツィアも暗い面持ちでいる。この場にいる誰も、待ちに待った前夜祭を、涙で枕を濡らすような夜になるとは思わなかったはずだ。窓から差しこむ月光が、タピスリの死骸を残酷なまでに浮かびあがらせていた。

 すっかり萎びたフェアリッテを薄めに眺めて、私は眉を顰める。

 こんなことなら、やはりこの手で引き裂いていればよかった。たとえそのせいでブルーメンブラットが疑われたとしても、全てを台なしにされるくらいなら、いっそのこと。

 じりじりと焦げつくような怒りが心臓に灯ると同時に悔しさも湧いた。それを吐息から逃がすように、深く息をつく。


「できるかぎり直しましょう」ややあって、グラーツが口を開いた。「もしかしたら後夜祭には間に合うかもしれないし」

「……そうよね! せっかく一緒にがんばったんだもの。このまま終わっちゃうなんて嫌! みんなで縫い合わせれば、元に戻せるかもしれないし」

「でも、今日はみんな休みましょう。そんな気分でもないだろうし。明日、切り替えていきましょうね」


 こんな夜でもせめてよい夢を、と私たちはそのまま別れた。パトリツィアと共に部屋を出て、月明かりの差す廊下を歩く。火もなしに歩くにはあまりに暗くて、私たちは月明かりを頼りにして自室へと向かっていた。その道中で、パトリツィアが口を開く。


「……フェアリッテ嬢、すっかり気が滅入っているようだったわね。明日の朝には元気になっているといいのだけれど」


 最後はなるたけ笑顔で別れたけれど、フェアリッテはいまも深く傷ついているはずだ。タピスリを織っているあいだ、ずっと楽しそうにしていたのだから、完成したそれを台なしにされて悲しむのは当然だ。あの彼女が悔しいとまで言ったのだ。

 私の返した「そうね」という声も重たいものになる。


「それに、カトリナも可哀想に……ミットライト嬢のタピスリ、あんなに一生懸命に織っていたのに」パトリツィアは同室の友人を気遣った。「どうやら彼女たちも修復作業に徹するみたいよ。それも、夜通しで」

「大変ね」

「きめ細かな意匠デザインだったから、しょうがないわ。そうでもしないと後夜祭には到底間に合わないのですって。私たちも明日からがんばりましょう」


 私たちやカトリナだけでなく、ガランサシャたちも、それこそ、前夜祭にタピスリを展示するはずだった令嬢たちはみんな、後夜祭に望みを賭けているようだった。しかし、何日も何週間もかけて織ったものを二日で修復することは難しいだろう。今年の狩猟祭においてタピスリの誉れは受けられないはずだ。ここまで破綻しているのだから。


「……パトリツィアは、誰が犯人だと思う?」


 私がそのように尋ねると、パトリツィアは短く唸った。


「正直、見当もつかないわ……メヒティルデ嬢も言っていたけれど、王太子妃候補争いが関係しているにしても、候補者三人とものタピスリを台なしするなんて、絶対おかしいもの。いっそ外部の犯行だと言われたほうが納得できるわ」

「だけど、侵入の痕跡はなかった」

「見落としている可能性もあるわ。令息令嬢の通う学校の警備がそんなに軽薄だとは信じがたいけれど」

「念のために、今晩から警備が強化されるみたいね。消灯時間をすぎると、先生や門番だけでなく監督生も、寮舎を巡回するみたいよ」

「それって、やっぱり、不審な生徒がいないかの、見回りのためよね」パトリツィアはため息をつく。「嫌だわ。私たち生徒の中に犯人がいるかもしれないなんて」


 パトリツィアは眉を顰めながら、部屋の扉を開けた。カトリナのベッドは空で、窓際の蝋燭キャンドルには白く細い煙が尾を引いていた。開けっ放しの窓を見て、「カトリナったら不用心ね」と息をついた。パトリツィアは蝋燭キャンドルに火を点し、窓を閉める。静かに燃ゆる火によって、部屋が温かく照らされる。

 私も自分のベッドへと近づき、天蓋のカーテンを開け、腰かけた。湯で身を清めて今日は寝てしまおうと思っていたけれど、ふと背後を振り返って、その思考を止めた。


「……どうしたの? プリマヴィーラ」


 このまま寝てしまおうとしていたらしいパトリツィアが、寝間着ネグリジェに袖を通しながら、そう尋ねた。その声を背中で受け止めながら、私は布団や枕をひっくり返している。窓の外も見下ろしたが、髪が夜風に揺れるだけだ。ベッドから飛び降りて、足元にしゃがみこみ、ベッドの下を覗きこんだ。そんな私の様子に、パトリツィアはいよいよ「大丈夫?」と眉を顰めた。

 私はゆっくりと上体を起こす。しゃがみこんだことで流れに逆らって降りかかった髪が視界を狭めていた。次の瞬間、弾かれたように部屋中を回った。背後ではパトリツィアが動揺する声を上げていたが、気にも留めなかった。


「……なにか失くしたの?」


 手洗い場も、化粧室も、ドレッサーも、四つのベッド全ても、ありとあらゆる場所を見漁った私は、その場で立ちつくした。月の影の差す顔を俯けて「ないの」とこぼす。


「私のフレーゲル・ベアがない」


 ベットの枕元から、あの蕩けるような亜麻色が消えていた。






 暗闇が怖くないのは昔からで、むしろ、そこに浮かぶ火灯りのほうが恐ろしかった。

 それはきっと、真夜中でも馬を走らせたくなって邸から忍び出たり、牢から抜けだしたのを、火を持った使用人に見つかったりしたことが原因だと思う。むしゃくしゃして、とにかくなんでもいいから叫びだしたくなって、なにかを探し求めるように駆けた夜は、ぱっと我が身を照らされると肩が強張った。暗がりに溶けこむと息がつけた。

 夜は得意だ。それなのに、いまは心細くて、一刻も早くここから抜けだしたいと思っている。


「————」


 裸足にひたひたと感じる絨毯の毛並み。すっかり更けた夜の空気を吸っては吐くのをくり返す。空寒い心臓から送られる酸素は血脈を凍てつかせていくようだった。幻のように香る焦げついた匂い。


「——おい」


 もうどれだけ時が経ったかわからない。時間さえ見ている余裕がなかった。寮舎の廊下に等間隔で並ぶ窓から、青白い月光が差しこんでいる。その光すらも避けるようにして私は隅を歩いていた。


「おい、お前!」


 ぐいっ、と腕を引っ張られて——私はやっと誰かに呼び止められたことに気づいた。引っ張られた拍子に半身で振り返る。私を引き止めた相手がクシェルであることを知った。

 しかし、私の腕を掴んだクシェルは、寝間着ネグリジェの感触にぎょっとして、その指を震わせる。レースをなぞられるのが鬱陶しくて、私は彼の手を振り払った。クシェルはされるがままに手を弾かれながらも、狼狽したように目を丸めて、「そんな格好でなにをしている」と告げた。

 燭台を持つ彼はその気高い顔立ちを火の光で濡らしていた。突き放しても間近に見えた顔に、彼はずいぶんと私を追ってきていたらしいと把握した。廊下に敷かれた絨毯が足音を吸いこんでいたのかもしれない。羽織ショールを肩にかけていたこともあり、近づいてくる火の熱にも気づかなかった。

 そういえば、監督生は、夜の見回りをしているのだっけ。

 ならばクシェルがこのように歩き回っているのも道理だ。こんな時間に燭台を持って出歩けるのは、夜に歩くことを許されているからだ。

 そんなことをぼんやりと考えていると、再び「なにをしている」と詰問された。


「まさか、お前もタピスリを?」クシェルは睥睨した。「多くの令嬢が夜通しでタピスリを編もうとしていた。気持ちは認めるが……消灯時間以降、部屋を出ることは校則で禁止されている。ただでさえこんな事態なのだから、怪しまれる行動は避けるべきだ」

「……いえ」

?」

「探し物が、見つからなくて」


 私が呟くと、クシェルは「探し物?」と首を傾げた。

 すると、そのとき、クシェルの背後、廊下の曲がり角から「待ってくださいよ」という聞き馴染みのある声が、こちらへと追いついてきた。


「ブルーメンガルテン卿、歩くのが早いですってば」

「君が遅いんだろう」

「足元が見えないのですから、しょうがないじゃないですか。僕は灯りなんて持ってないんですし」

「まったく。君といい、こいつといい、みんな揃いも揃って消灯時間になにをしているんだか……」

「こいつって?」視線を彷徨わせた彼と目が合う。「おや、プリマヴィーラ嬢。こんばんは。こんな夜ふけに出歩いて、いったいどうなさったのですか?」


 曲がり角の陰から出てきたのはジギタリウスだった。

 この暗がりにでも溶けこむような真っ黒い髪でも、甘やかな笑みや声音で誰だかわかった。

 そして、彼もこの夜に出歩いていることを知って、私の中の不穏が憎しみで耀う。


「ジギタリウス」

「はい」

「あんたがやったの?」

「……はい?」


 ジギタリウスは首を傾げて「えっ? なんの話ですか?」とこぼした。

 そんな彼を「すっとぼけないで」と刺す。知らんぷりをする彼の雪のような白々しさにさらなる怒りが沸いて、私は彼の胸倉を掴みあげた。目の前から「うぇ」と、隣からは「おい」という声が聞こえたが、気にも留めずに詰問した。


「あんたが女子寮舎に侵入したんじゃないの? ジギタリウス」

「本当になんの話ですか!? 僕はついさっきまで友達の部屋でカードゲームをしていただけで……それをブルーメンガルテン卿に見つかって、お叱りを受けたところなんですけど!」

「あんたにはお友達が多いものね。誰かをけしかけて盗んだのかしら」

「……盗み?」ジギタリウスは瞠目したのちに眉を顰める。「その、僕は本当に存じあげないのですが。貴女はなにか大切なものでも失くされたのですか?」


 あどけない顔の翳りは私を気遣う色をしていた。

 その様子から、彼は本当になにも知らないのだということを察した。

 一時いっときは憎しみで彩られた胸の内も、霧散してしまえば虚しさだけが残った。激情に突き動かされていたほうがまだだった。少なくとも手がかりにはなるだろうと思っていただけに、私は落胆する。彼の胸倉を鷲掴む手が緩んでいく。彼はそれを振り払うでもなく、ただ私を見つめていた。

 ややあって、噛み締めて傷んだ唇から、ぽろりとこぼれる。


「……クマ」

「クマ?」

「ぬいぐるみ。フレーゲル・ベア」次第に、私の声はひっくり返っていく。「探してるのに、見つからないのよ」


 ジギタリウスは目を瞬かせた。

 消灯前、私たちがフェアリッテの部屋にいるあいだに、何者かがフレーゲル・ベアを盗んだのだ。部屋の鍵はかかっていなかったし、窓も不用心に開いていた。誰でも押し入って盗める状況だったのだ。令息が令嬢のいる女子寮舎へ赴くことは難しいため、女子寮舎で寝起きする令嬢が犯人である可能性が高いのだが、タピスリを台なしにされ、その悲痛と修繕作業に追われている彼女たちが、いまさらそんなことをするとは思えない。他人の部屋に侵入して、ドレスや貴重品にも目もくれず、わざわざ私のぬいぐるみを持っていくだなんて。

 だからこそ、これは私個人に対する嫌がらせなのだろうと考えた。

 王太子妃候補争いにおいてブルーメンブラット派閥に属し、候補者フェアリッテと腹違いの姉妹にあたる、私への。

 しかし、ボースハイト派閥であり、ガランサシャの弟にあたるジギタリウスは、そんなものは知らないと首を振った。胸倉を掴む私の手を握り締め、「フレーゲル・ベアって、プリマヴィーラ嬢のですか?」と顔を覗きこんでくる。

 私が言葉を失っていると、ジギタリウスとクシェルは顔を見合わせた。


「……ブルーメンガルテン卿、どうしますか?」

「ぬいぐるみごときで、と言いたいところだが……これが本当なら事件だな。令嬢の部屋になにものかが侵入し、所持品を盗んだということだろう」

「前夜祭ではタピスリが滅茶苦茶にされるしで、狩猟祭って毎年こんな感じなんですか?」

「まさか。前代未聞だ。このご時世なら仕方のないことかもしれないが……とはいえ、このことを事件として関連づけるには不十分だ」クシェルは私へと視線を遣った。「プリマヴィーラ・アウフムッシェル、お前は部屋に戻れ。夜も遅いんだ。監督生として、勝手に歩き回るのは見すごせない。このことは、明日の朝にでも、僕から先生に伝えておく。どこかからひょっこり出てくるかもしれないし、寮舎の見回りをしているあいだも探しておいてやるから……お前は帰って寝るといい」


 言い聞かせるようにクシェルはそう言ったけれど、私は頷けなかった。このまま踵を返して、フレーゲル・ベアを探す算段でいた。しかし、クシェルもそれを察したのだろう。しばしのあいだ私を見つめ、はあ、とため息をつく。


「それを抱いてないと眠れないのか?」

「こんなときに言いますねえ、ブルーメンガルテン卿」

「馬鹿にしてるわけじゃない」クシェルは私の目を見て言う。「お前にとって、それほど大事なものなのかと聞きたいんだ」


 気高い顔立ちの浮かべる表情は、思いのほか、私を見下したものではなかった。ただ私の真意を尋ねている。暴かれているようで居心地が悪かったけれど、押し黙っていればいつまでも私の返事を待ちつづけるような予感がして、逡巡、口を開いた。


「フェアリッテからもらったものなんです」

「…………」

「それがないと生きてゆけません」


 そうか、とクシェルは答えた。目も馴染んだ薄暗い廊下に溶けこむような声調だった。彼はそのままジギタリウスへ視線を滑らせて、「ならば仕方がないな」と告げる。


「ぬいぐるみ探しに付き合おう。ジギタリウス卿は先に部屋へ戻るといい」


 えっ、という私とジギタリウスの呟きが重なる。私はそのまま閉口してしまったけれど、ジギタリウスは「僕も手伝いますよ」と顔を顰めた。


「監督生として、就寝時間には無闇に出歩かせたくない。こいつの場合はしかたなくだ。君は一刻も早く部屋に戻るべきだよ」

「だけど、手っ取り早く見つけて全員で部屋に戻れたら一番じゃないですか」ジギタリウスは微笑む。「ほら、僕の《好運の祝福》なら見つけられるかもしれませんし。プリマヴィーラ嬢もそう思うでしょう?」


 ね、と首を傾げられても、クシェルが私を助けることに驚いてしまって、狼狽えることしかできなかった。当のクシェルはジギタリウスの言葉に肩を落として「まあいい」と呟いている。ジギタリウスも「決まりですね」と言った。

 火を持っているクシェルを先頭に、私とジギタリウスがその後ろを並ぶようにして、寮舎の廊下を徘徊する。この状況が理解できず、けれど、言っておいたほうがよかろうと、私は「ありがとうございます」と二人に告げた。


「お気になさらず」ジギタリウスがにっこりと返した。「貴女の様子が尋常でなかったので、心配だっただけです。びっくりしましたよ。貴女にと言われたのも、胸倉を掴まれたのも、初めてのことだったので」

「…………」

「ほら、そうやって言い返さずに押し黙るのだって、貴女らしくない。それほど大事にしているものなんでしょう? そのフレーゲル・ベア」


 ブルーメンブラット嬢からいただいたものなんですよね、とジギタリウスは言葉を続ける。だからなんだという思惑をこめて睨みつけると、ジギタリウスはなんとも言えない困った表情を浮かべ、ゆるりと微笑んだ。


「貴女は、本当に、ブルーメンブラット嬢を大切に想ってらっしゃるんですね」


 クシェルの背中越しの光を受けた頬がしなやかな線を浮かべた。姉に似たほっそりとした輪郭だ。それをじっと見つめていると、ジギタリウスはまた一つ苦笑した。そして、「はあ。やっぱり、貴女を靡かせるのは難しそうです」とわざとらしく肩を竦めた。


「……ああ、貴方は、私が彼女を憎んでいるはずだから、だからボースハイトに寝返ってほしいのだっけ?」


 目の前にはクシェルもいるというのに、ジギタリウスは悪びれもせず「はい」と答えた。クシェルはクシェルでこちらを一瞥したものの、なにも言わないでいる。王領伯の令息である彼が王太子妃候補の派閥争いに口出しすることはない。それをジギタリウスもわかっているのだ。純真無垢でいて、彼は実に要領がよく、狡猾だった。

 今も歩きながら、私の顔を覗きこむように、ジギタリウスは首を傾げている。そうやって、私の表情を一つも見落としはしまいとしているのだろう。彼は他人の隙を見抜き、突くことに長けている。


「いただいたものとはいえ、血相を変えて探し回るくらいですし……もしかして、フレーゲル・ベアのようにかわいらしいものがお好きなんですか? 僕から贈っても受け取ってくださいますか?」

「貴方からはいらない」

「相変わらずつれないですね。では、クマではなく、ウサギのぬいぐるみなんてどうでしょう?」

「別にぬいぐるみを好んでいるわけではないわ」私は小さく息をつく。「フレーゲル・ベアは……私が昔にもらいそこねてしまったのを彼女が覚えていただけよ」

「なるほど、未練の品ですか。いただけてよかったですね」


 未練どころか、そんな言葉では片づけられない品だ。そのぬいぐるみは、彼女にはあって私にはないものの象徴だったのだから。それが欲しくて、嫉妬は憎悪に、憎悪は殺意にまで膨らんで、私は溺れていった。

 時を遡る前のように至らなかったのは、その彼女が私にくれたからだ。彼女がくれたから、彼女も私も生きている。


「……ちっとも見当たらないな」話が移ろったのを見計らってか、クシェルが口を開いた。「もしかすると寮舎にはないのかもしれない。誰かが外へ持っていったとか」

「あとは、生徒が部屋に持ち帰っているとか?」

「時系列にもよるが、可能性は低いな。監督生は室内を確認する権限も持っている。さっきまで全部の部屋を確認したが、それらしいものはなかった。令嬢の部屋も女の監督生が見回っているはずだし……」

「もう寮舎を一周しちゃいますよね。どうしますか? 外へ出てみます?」

「いや。寮舎の外の巡回となると、監督生の領分を越えている。僕の一存では許可を出せない」


 燭台に灯る火を見る。蝋燭もほとんど溶けていて、今にも消え落ちそうだ。

 クシェルは燭台を持つのとは別の手で口元へ手を遣り、「ここまでか」と漏らす。

 私へと振り返った。いつもは視界に入れることすら厭う彼が、こうして私を見ることは実に珍しい。今宵はなんとも不思議だった。いっそなにか謀っているのではないかと腹の底を疑ったほどだ。けれど、彼はそのあばらからつるぎも毒も出すことはなく、折り目正しい指図だけ告げた。


「あとはこちらで対応するから、今度こそお前は部屋へ戻れ。そしてそのまま眠りにつくんだ。僕の言うことが聞けないで、それでも外へ探しに行こうとするのなら、もう僕は見逃さないし許さない。先生に報告させてもらう」


 高慢ちきな口ぶりだけれど、彼にしてはずいぶんと譲歩してくたように思う。正直なところ、廊下で見つかったときは、監督生の彼が私を見逃すことはないだろうと直感していた。余裕のない私にもそれがわかった。しかし、意外にも、彼はここまで付き合ってくれた。だから、私も引き下がってやったほうがいいのだろうな、と思った。

 私は「わかりました」と小さく頭を下げる。

 そのつむじへと、クシェルは呟いた。


「……失くしたからって、フェアリッテがお前を愛していることに変わりはないんだからな」


 図星を突かれたようで驚いて、私は薄く息を呑んだのだが、続く「こんな男に惑わされたり、隙を見せたりするなよ」という言葉に、そういう魂胆かと納得した。

 ジギタリウスに付け入る隙を与えるなと釘を刺したかったのだ。

 彼の真意が見えてくると、地に足のつかなかった心地も足場を得た。

 フレーゲル・ベアの行方にまつわる覚束ない不安も、落ち着かせてやっていい。

 そのまま私たちは二手に分かれ、クシェルとジギタリウスは男子寮舎へ、私は女子寮舎へと戻っていった。灯りのない道をひたひたと歩いていく。すっかり冷えこんだ足や手を、暖炉の熱で癒やしてやりたかった。そうして、部屋のある階へと続く階段を辿っていると、

 人ならざる者と遭遇した。

 我が身を震わせたときには、その影をきちんと捉えることができて——その正体がやはり人であることを認めた。しかし、一目見て、この世のものではないような、そんな眩しさが、彼女にはあった。

 踊り場の窓から差しこむ月明かりを受けて発光する髪も、なんらかの運命を背負ったかのように神秘的な虹彩異色症ヘテロクロミアも、彼女を形容する渾名あだなにふさわしい荘厳な佇まいも、なにもかもが浮世離れしていた。

 まさしく月のひと——ディアナ・フォン・ミットライト。

 シルクの夜着に、イーリエンの簪で髪をまとめたいでたちの彼女は、まるで夜の女神のする月光浴のように、階段の踊り場から窓の外を見つめていた。

 どこか鳥肌の立つような恐ろしさを感じて、私は目を細める。


「こんばんは」


 すると、彼女が話しかけてきた。

 華奢な体躯から紡がれるにふさわしい清廉な声。

 真昼の下で聞き取れば透き通るそれも、夜闇の下ではおぞましい。

 こんな夜更けに出歩く学年主席の聖女など信用に値しない。数段上にいるだけの彼女を、私は内心で警戒していた。しかし、次の瞬間、その警戒が正しかったことを知る。


「ぬいぐるみ、見つけられなくて残念ですね」


 彼女の言葉に、私は戦慄した。

 私のフレーゲル・ベアがなくなったことを知っている。私がずっと探していたことを知っている。どうしてそれをだとか、何故いま言うのかだとか、そんないろんな考えが頭の中でもみくちゃになって、しかし、全てが一つの線に結ばれたように、確信してしまった。


「……あんたが盗んだの?」


 私は凄むようにして彼女を見上げた。

 そんな私をただ見下ろし、「いいえ、」と彼女は告げる。


「お願いしただけで、やったのはコースフェルト嬢ですよ。貴女の大切にしているものを一つ盗ってきてください、と彼女に言ったのです。まさかぬいぐるみを持ってくるなんてと驚きましたが……いまの貴女の顔を見るかぎり、本当に大切にされていらっしゃるのですね」


 カトリナに裏切られたのだと理解して、数瞬、心臓を嬲られたような心地がした。しかし、瞬く間に赤く沸きだしたのは熱のこもった感情だ。はらわたまで煮えくり返るようなはげしい怒り。音が鳴るほど拳を強く握りしめた。

 この女が差し金か。

 目の前の、己はなんの罪も犯してはいないのだとでも言いたげな、あまりに屈託のない様子に、虫唾が走った。


「さて、アウフムッシェル嬢。貴女のぬいぐるみをどうするべきかしら。手足を引きちぎってずたずたにしましょうか? 綿をぬきだして泥の中に沈めましょうか? 貴女がより傷つくほうを選んであげましょう」

「……どういうつもり」

「私の答案に悪戯をしたお返しです」


 腹の怒りに、ひやりと冷気が差した。

 しかし、顔には出さなかったはずだ。私は眉一つ動かすことなく平静を装った。


「なんのこと?」

「とぼけても無駄ですよ」彼女は断じる。「先日、先生から伺いました。試験の日に、ファザーン嬢が登校していたようですね。私たちとは別室で試験を受けるためだったようですが……彼女の祝福、《漂白の祝福》でしたか、それで私の答案用紙に手を加えたのでしょう」

「では、ファザーン嬢が犯人でなくて?」

「そう思って問いつめてみました」


 また一つ、ひやりとしたものが背筋を走る。そこからじわじわと、今度は熱が広まっていって、動揺を顔に出さないようにするのがやっとだった。

 いいえ、大丈夫。マルゴット・ファザーンが私を裏切るわけがない。私への裏切りは、フェアリッテの裏切りとなるのだから。フェアリッテに心酔する人間が、彼女を信仰するとは考えづらい。それこそ《真実の祝福》でも使わないかぎり、このことは一生闇に葬られる。


「……肝心なことはなにも言いませんでした。彼女もなかなか敬虔な方のようですね」


 案の定だ。

 安堵していることも悟らせず、それみたことかと目を眇める。


「けれど、アウフムッシェル嬢の名前は口にしていましたよ、騙されたと」彼女は首を傾げた。「コースフェルト嬢から伺ったのですが、試験前の週末、貴女は校外へ外出していたのでしょう? そのときではないですか? ファザーン嬢と接触したのは」


 鎌をかけているだけだ。証拠はない。

 けれど、真相が筒抜けになっていることにはおののいた。


「大方、私を引きずり落とそうとしたのでしょうが、いけませんよ。試験結果の改竄なんて。これが明るみになれば問題になるでしょう。それもブルーメンブラット嬢のためだとわかれば、彼女も立場を悪くします」


 彼女の推察はまったくもって正しく、立証されてしまえば言い逃れはできない。それほどまでに完璧だった。小さなひびから大穴へと広げた。ただ成績がよいだけのおとなしい聖女さまだと侮っていた。

 彼女の口ぶりに、私は声を低くする。


「……私を脅そうと?」

「はい」


 彼女は清らかに笑った。

——聖女なんて、どこがだ。

 まるで首まで湖に浸かってしまったかのような気分だった。心臓はその中で鳩でも飼っているみたいにばくばくと脈打っていて、いまにも飛びだしそうだった。手足が冷たいのは冬の夜風のせいだけではない。不覚にも、私は、目の前の彼女に圧倒されていた。

 ただでは転んでやるものか。

 貴女がその気なら、私だって容赦はしない。その聖女に化けた面の皮を剥いでしまおう。私は羽織ショールを巻きこむように腕を組み、「脅せるかしら、」と口角を吊りあげる。


「貴女だって、タピスリを引き裂いた犯人でしょうに」


 私がそう言うと、彼女は虚を突かれたのを蔽うように、ゆっくりと目を瞬かせた。


「言いがかりはよしてください。あそこには私たちのタピスリもありました」

「たしかに、あの場には王太子妃候補全員のタピスリがあって、その全てが引き裂かれていたわ。けれど、一番被害が少ないのはミットライト陣営のものよね」蔽い隠そうとするその皮を爪でひっかくみたいに、私は彼女を口撃した。「だって、候補者本人が携わっていないんだもの。ブルーメンブラットもボースハイトも、候補者本人がタピスリを仕立てていて、前夜祭は完全に両家の争いだった。蚊帳の外の貴女の勝負は、タピスリではなく狩猟祭で捧げる供物。タピスリに懸けていた両家が潰れれば、誰の邪魔もされずに狩猟祭を迎えられるミットライトの優勢は固い」


 これは、彼女が前夜祭ではなく狩猟祭に参加するのだとわかったときから見えていた図式だった。

 フェアリッテとガランサシャが前夜祭を競うなか、彼女は狩猟祭で独壇場になる。もちろん、ブルーメンブラット派閥、ボースハイト派閥から名代たる参加者は出るけれど、候補者本人が参加し、勝利を収めたとしたら、その栄誉は名代が勝利を収めるのを遥かに凌ぐ。

 たとえ前夜祭が台なしになったとしても、ディアナ・フォン・ミットライトの名には、一片の傷もつかないのだ。

 これまでは、聖女と崇められる彼女の人柄から、その可能性を排除していたけれど、いまこの瞬間になってようやっと、タピスリを引き裂くことができたのは彼女しかいないと考えられた。

 カトリナをはじめとする彼女の信者たちが彼女のためにと織ったタピスリも、フェアリッテら他の候補者のタピスリも、巻き添えにされた他の令嬢たちのタピスリも、


「全て貴女の憶測でしょう」


 しかし、これにも証拠がない。それを彼女も理解しているから、対峙する私へ動揺の一つも見せなかった。相も変わらず清らかに佇んでいる。ただ、琥珀色アンバー青灰色ブルーグレーの瞳だけは、獣のように獰猛に、化け物のように静謐に、月光を浴びて爛々と輝いていた。

 彼女は優雅で緩慢な足取りで、私へと近づいた。簪に結われた髪に影が差す。まるで月の裏側みたいだ。青白いかんばせを暗くして、目と鼻の先にいる私に囁きかける。


「これ以上私の邪魔をするなら、徹底的に潰します。貴女だけではありません。ブルーメンブラット嬢も、社交界で生きていけなくしてさしあげます」


 きっと彼女なら平気でやるだろうと、本当にやってのけるだろうと、そう思わせるだけの気魄きはくがあった。ひそやかな声の麓には、残忍で無情な精神が鳴りを潜めている。私はそれを鼻で笑った。


「完全無欠の聖女さまが聞いて呆れるわね」

「もうすでに欠けていますもの、貴女が手にかけたのですから」けれど、と彼女は歌うように続ける。「たとえ欠けても月は月です。いずれは枯れ落ちる花も、地べたで踏みしめられる雪も、月の光を見上げることしかできない」

「…………」

「王太子妃になるのは私です」


 まるで運命を啓示するかのように、彼女は私へと言いきった。

 私からそっと身を放して、聖女の顔を浮かべる。


「脅されているうちがですよ。散らせたくないなら、これ以上私の邪魔をなさらないでください」ああ、でも、と両手を重ねた。「ボースハイト嬢の邪魔はどうぞご自由に。ミットライトの手を汚す必要もなくなりますもの」


 煌めく月の天下、彼女は音もなく微笑んで、私に背を向けた。

 階段を上ってゆく後ろ姿を、私は見えなくなるまで眺めていた。

 一人きりになった階段で立ちつくす。心臓の鼓動と吐息以外の音が全て奪われたような静寂。じっとりとした汗で手が濡れていた。乾いた瞳が竦む。こんな無様な姿を誰にも晒していないことだけが救いだった。窓から見える月を睨みつけ、私は階段を上ってゆく。

 部屋に戻ると、パトリツィアとカトリナのベッドが膨らんでじっとしているのが見えた。カトリナのベッドを一瞥して、諦めた。

 あの女の言葉がどこまで本当か考えて、しかし、嘘はついていないんだろうと直感している。私にはどうすることもできないだろうと見越しているから、あれだけのことを話したのだ。まさしくそのとおりで、カトリナに問いただしたところでなんにも得られない。カトリナにとってのディアナ・フォン・ミットライトは、マルゴット・ファザーンにとってのフェアリッテに等しい。裏切れない。裏切るとしたら私だった。フレーゲル・ベアは返ってこないだろう。もしかしたらすでに引き裂かれているのかも。タピスリみたいに。


「……っは、」


 こらえるように笑みをこぼす。

 己の空っぽのベッドを見下ろして、私は肩を震わせる。

——甘かった。

 暢気でお幸せな思考が移ってしまったのだろうか。一寸たりとて、気も手も抜いてはいけなかった。自分で仕掛けた策に自分で溺れて、沈んで、身から出た錆で脅迫までされて。敵に命綱を掴まれているようなものだ。

 私がディアナの答案を改竄したという証拠はたしかにない。けれど、その気になれば、証拠なんていくらでも捏造できる。もしくは、私を憎む彼女を連れてこられでもしたら、一発だ。マルゴット・ファザーンとも接触された。いくらフェアリッテに心酔する彼女とはいえ、家の立場が危ぶまれれば、さすがに口を開くだろう。そこまでディアナが彼女を追いこめば、全てが露見する。水の泡になる。


「……はは、は」笑うしかなかった。「本当に、上手くいかないわね」


 静かな部屋で私の乾いた笑みだけが鳴った。それは響くこともなく溶け消えていく。窓の外から見える夜空では月が美しくわらっていた。

 屈辱や、苦渋や、憤怒や、後悔や、様々な感情がぜになって潮のように責めたてる。まぼろしい酩酊。足元がふらつく感覚。そんななかでじわじわと募っていくのは、この胸を占めるあらゆる感情の結び。私をこんなにもみじめな人間にさせる残酷なひと。

——やっぱり、あんたが憎いわ、フェアリッテ。

 その夜、私は一つの決断をするに至った。

 私もディアナも互いに互いの足元を見ている。相手にとって致命傷となるような手札カードをちらつかせて、出方を見ている。牽制として残しておくか。予断も許さずに切るか。

 そもそも口火を切れる手札カードなんてあるから厄介なことになる。


「——ねえ、フィデリオ、お願いがあるのだけれど」


 翌朝、いの一番に己のもとへ訪れた私に、フィデリオは目を見開かせる。

 私の格好を見て、どうしたの、と尋ねた。


「せっかくの前夜祭が台なしになってしまって、フェアリッテは気に病んでるわ。私だってなにもできずじまいだなんて悔しいのよ。だからね、」


 本当に、つくづく、甘かった。

 私も。そして彼女も。

 尻尾を掴んだなら、証拠を掻き集めて、繕って、暴いてしまえばよかったのだ。


「私も狩猟祭に出ようと思うの」

 

 完全無欠の聖女さまは、死人に口なし、という言葉を知らないらしい。

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