魔王討伐の道はまだ続くのです

 ムント王国の王宮にて、勇者一行と国王が今居るここは"謁見の間"と呼ばれている場所である。

 


「この度はご苦労であった。勇者とその一行にはわしから国を代表して礼を言わせてもらう」



と、ハリス王が軽く頭を下げる。



 基本的に外交、内政ともに王とは軽んじられてはいけない存在である。


その王であるハリスがこうして人前で頭を下げることからも今回の事態と感謝の大きさが伝わることだろう。



「いえ、頭をお上げください陛下。私たちもムント王国の臣民、当然のことをしただけですから」

「そうか...そう言ってくれると助かる。それとわしから伝えようと言ったのだが、どうしても自身の口から礼を言いたいと申す者がおってな」

「どなたでしょう?」

「救出されたレイチェル嬢の実父、つまりノワール公爵だ。...入ってきてくれ」



そう言われて一人の男が入ってくる。


 年の頃は40程度だろうか、レイチェルと同じ金髪に碧眼を持ち、表情は優しげだが瞳には堂々とした力強さがある。

ピンと伸びだ背筋にがっしりとした肩幅、ごつくは無いが健康的な生活と運動をしている体に見える。



「お初にお目にかかります勇者殿。私はヒューズ、ノワール公爵家現当主のヒューズ・ノワールと申します」

「こちらこそ初めまして私は異世界より召喚され勇者をしている者です」

「この度は我が娘のレイチェルを助けていただき、誠にありがとうございました。...ほらレイも」



そう言われてヒューズと共に入ってきてからずっと俯いてこぶしを握り締めていたレイチェルが、目元をひくひととさせたままの顔を上げる。


「......この度は.....私を...くっ、助けていただいてありがとうございましたっ!」

「いえいえ礼には及びませんよ。それにしても...具合が優れないようですがどうかされたので?」

「すみませんね、どうやら娘も助けていただいたのが勇者殿ということで少し舞い上がっているのかも」

「それは何とも光栄なのですが.....顔も赤いようで少し心配ですね」



そう言って勇者がレイチェルの傍まで近寄り小声でそっと、



(山賊との契約書は見つかりましたかぁ?)

(くっ、やっぱりあんたねっ!あれをどこにっ!!)



◇◆◇



 ここで一旦、山賊討伐を終えてすぐの勇者たちの話に戻る。


「それで勇者様、これからいかがいたしましょうか?」


「「もがーっ!!」」


「そうだな、とりあえずこの二人を何とかするか....ではまず公爵令嬢様の方だけ猿轡さるぐつわを解いて差し上げてくれ」

「分かりました」


プツンッ


「ぷっはぁぁ....あ、あ、あんたぁ....ちょっとあれどういうことよっ!卑怯者っ!!あれあんた最初から時間稼ぎでっ」

「まぁまぁ落ち着てくださいレイチェルさん」

「これがぁ!落ち着てぇ!いられるかぁぁっ!!」


「...やれやれ困った人だなぁ...ふっ」

「なに私が聞き分けないみたいな顔してんのよっ...あっ何その目!今鼻で笑ったでしょっ」

「いえいえ笑ってませんよ?自意識過剰では?」

「くぅぅぅぅ」



「まず落ち着いて状況を考えてください。今あなたは結構なピンチじゃありません」

「.........」


「それは分かってるみたいですね。では交渉に移りましょうか。私からの要求は2つ、まず1つ目は金銭面の援助です。公爵家は相当なお金持ちだとか、であれば当主や跡取りでないあなたでもそれなりの金額は動かせるでしょう。そうですねぇ...ひと月に大体500万ゴールドほどを王都で一番大きな商店の店長であるエリーゼという女性に支払うように」

「500万っ!?」

「おや不満ですか?...今回の事件の真相を知った両親、国王、あなたのお友達はこのことをどう思いますかねぇ」


「.......それで次は?」

「理解が早くて助かります。それと2つ目ですが....こちらは今後、何かしら大きな問題があったときにあなたには私の後ろ盾になっていただきたいのです」


「後ろ盾?」


「えぇ、それがたとえどのような事であろうとも協力をお願いしたい。できればノワール公爵家としての力が必要になるかもしれませんがとりあえずの保険です」

「...どんなことでも?」

「えぇ」



「...話は分かったわ。でも了承はできないわね。そもそもあなたがいくら勇者だと言っても所詮はまだ山賊を倒しただけの部外者に過ぎない。他の国ではどうか知らないけど、このムント王国で力のあるノワール公爵家の令嬢を糾弾して罪を認めさせることができるかしら?」


「まぁ陛下辺りは私を疑うでしょうねぇ」


「.....あんた何したのよ」

「ですが心配されなくてもその点は抜かりなく。ロンデル、をここへ」

「はっ」



言われたロンデルが持ってきたのは細かい文字がびっしりと書き込まれた上質な紙、その一番下には"レイチェル・ノワール"と書かれていて....



「っ!?まさかっ」


「そう、瓦礫の山から探しておいてもらいました。山賊への物資提供など協力についての事がびっしりと書かれたところに、あなたの直筆のサインと印。これで言い逃れはできませんねぇ」

「くっ...」

「山賊だってバカじゃありませんからね。もしもの時の保険を用意しているだろうことは想像できました」

「......」


「どうですか?していただけますよね?」


「.............分かった」


「んんん?よく聞こえないなぁ?」

「んのやろぉ....承知いたしました。ご・協・力・させていただきますっ!!」

「では契約成立ということで」




「勇者様、言われた通りに契約書はサムエル殿に渡しておきましたが、ご自分でお持ちにならないでよろしいので?」

「あぁ、それなら心配ない。そもそも取りやすいようにサムエルに持たせたわけだし、サムエルも手筈通り人目のないところへ向かう予定だ」

「ふむ、それでは契約書は取られてもかまわないと....ですがあれが無ければ....」

「その点も問題ないさ。本物は....ほら?」



そう言った勇者の手には、なぜか先ほどサムエルに渡したはずの契約書が握られていて.....



「最初が肝心、格の違いというものを分からせておこうかな、と」



◇◆◇



(はてさて何のことをおっしゃっているのか分かりませんが。....そういえば私、山賊討伐でレベルが上がりまして"イリュージョン"というスキルを取得したのですよ。これが結構便利でして"ある対象"を"別のなにか"に見せることもできるんですよ)

(くっ....、卑怯者めっ!!)


(以前どこかの令嬢様に高潔だとか言われたのですが....あれぇこれって誰でしたっけぇ?)

(のぉ...くっ....)

勇者の煽りに思わず襟をひねり上げそうになったレイチェルはとっさの所で踏みとどまり、

(..のぉ...地獄に落ちろっ、この悪魔めっ!)

(勇者ですが何か?)

(きぃぃっ!!)



何やら小声で話し始めた勇者とレイチェルを見て、自分の娘がまさかおちょくられているなどとは思いもしない公爵が二人のほうに声をかける。


「どうしましたか、勇者殿?それにレイも」

「いえ、お父様なんでもありませんわ」

「えぇ、どうやらレイチェルさんも私に直接お礼を言いたかったようでして」


「誰が...」

(け・い・や・く・しょ)


「っ.....は、はい、この度の御恩は忘れず、必ずをしなくてはと思いましてっ」

「それはそれは...楽しみにしていますね?」

「はい...ぜひとも」


「はははっ、娘と勇者殿の仲が良いようで何よりだ。どうかね、ぜひ娘を嫁になど」


「っ...お父様っ」


「それは大変うれしい申し出なのですが私はいつ命を落とすかも分らぬ身、その気持ちだけで十分でございます」

「そうかい?物腰も落ち着いていて娘をしっかりと守ってくれそうな君であれば私も安心だったのだがね。まぁ、今すぐどうこう言うわけじゃないので頭の片隅にでも止めておいてもらえればいいよ」

「そういうことであれば」


「.......」

「おや、どうしたんだい、レイ?」

「......何でもありませんよ?」

「ならいいが。それでは私たちは失礼するよ。この度は陛下にもお時間をいただき誠にありがとうございました。.....それでは勇者殿、何か困ったことがあれば相談に乗るので遠慮せず言ってくれたまえ」

「....くっ、失礼いたします」



こうしてヒューズ公爵と最後に勇者を睨みつけたレイチェルがこの場を去っていった。



◇◆◇



「陛下、私たちはこれから王都を出て、魔王城跡地とされる北の方へと旅に出ようと思います」


「お、おぉ!やっと出て行って..んんっ、そ、そうか...寂しくなるな」

「ふむ、それではもう少しこちらに残れるよう手続きを...」

「おぉっとそれはいかん、わし一人の感情で魔王討伐が遅れたとあっては先代の国王や今を生きる民たちに顔向けができぬからな。今すぐ出発せねばならぬだろう」

「やけに早口ですね」


「そんなことはない......それより仲間にはそこの聖騎士ロンデルも加わった思ってよいのか?」

「えぇ山賊討伐では素晴らしい活躍をしていただきましたから」

「では現状の勇者パーティはそなたと聖騎士ロンデル、それから賢者ガリウスに執行猶予中の商人サムエルと行き遅れバ....回復術師マリアということか...」


「陛下、今私を呼ぶ前に何か言いかけませんでしたか?」


「ち、違うっ、わしは何も言ってない。....言ってないがそなたとサムエルの結婚式は国中に広まるように派手にやろうと思う」


「そうですか。それでしたら何も問題ありませんね」

「う、うむ....ところで最近そなたとサムエルの婚約パーティに出席した貴族の何人かが部屋に閉じこもっているそうなのだが....理由わけを知らないか?」

「知りません」


「そ、そうか....だがそやつら全員がパーティでそなたの事を行き遅れバ.....なんかひどいあだ名で呼んでいた者たちなのだが....」

「知りません」


「.....家の者から聞いたのだがそやつらの部屋から毎夜"行き遅れがぁ"とか"そ、その棒で一体何を...うわぁぁ"という叫び声が聞こえるそうなのだが...」

「知りますん」


「そ、そうか知らぬのなら......今なんて?」

「知りません」



「ん...?聞き違いであったか....まぁ知らぬのならよいのだ...そういえば聖女はどうしたのだ?ロンデルと一緒だったはずだが...」

「あぁ聖女様でしたら....」



◇◆◇



 またもや時は戻り、ここは先ほどの山賊討伐後。契約を終えたレイチェルがその場を去ったさらに後の話である。



「いやはや勇者様は容赦ないですなぁ」

「使える者は使わなければな。それで次は....」



チラリと檻に残ったもう一人聖女を見る勇者。



「やけにおとなしいな。先ほどまで喚きまくっていたのに」

「そうですな....何かを悟ったような決意したような目でこちら、というか勇者様を見ていますが」

「ふむ、とりあえず猿轡さるぐつわを解いてやってくれ」



ぷつり、と猿轡さるぐつわを切られ、いまだ檻の中にいるが返答はできるようになった聖女に向かって勇者が話しかける


「それで、あなたは何か私に言いたい事はありますか?」

「いえ」


「では全てに納得していると?」

「はい」


「やけに素直ですね...さっきとの態度の違いがとても気持ち悪いのですが...」

「いえ、先ほどまでとは違い私はあなたを認めました」

「ほう」

「私は思い違いをしていたのです。我々人類には一致団結してでも戦わなければならない存在がいることを今、改めて理解しました」

「それで」

「私は必ずや魔王討伐のお役に立てるでしょう。ですからまずは縄を解いてこの檻から出してほしいのです」

「ふむ...そこはかとなく怪しいですが」


「では唯一神ウースに誓って勇者様には危害を加えないとお約束いたします」


「この国で信仰される神、でしたか.....いいでしょう。ガリウス、開けてもらえますか?」


「よろしいので?」

「えぇ、敬虔な信徒、それも聖女が神に嘘をつく事はないでしょう」

「そういうことであれば....」



それからガリウスが檻を開け聖女の両手両足を縛っていた縄の手の部分だけをナイフで切ると、いきなり聖女が立ち上がりピョンと外に出ると一息吸って....



「ホーリー・ライトッ!!!」



聖なる光で対象を灰へと帰すといわれる"浄化術"をぶっ放した。




「あぶねぇ旦那っ!」



いち早く殺気を感じ取ったロンデルが、手に持った剣を横に構えて勇者の前に飛び出る。



巻き起こった煙が晴れ、勇者の無事が確認できたロンデルが、


「なにすんだよリラっ!勇者様を殺す気か!?」


「くっ、邪魔しないでロンデルっ!そいつは今ここで仕留めないといけないのっ」


「何とち狂ってんだっ、相手は勇者だぞ!?人類の希望だ。それに今の神への誓いは嘘だってのか!?」

「それは私も気になりますねぇ。さすがに聖女が神への誓いを破るというのは....」


「...ふふふっ、嘘はついてないし、誓いも破ってない。私は勇者様には危害を加えないと言ったの...そう、にはね」


「「「...?」」」


「分からない?...さっきの娘レイチェルも言ってたじゃない、あなたは勇者なんかじゃないわ。そう、人類に溶け込みその征服を狙う....あなたは悪魔なんかじゃ物足りないわっ、そうあなたこそが魔王だったのっ!!」


「「「えっ?」」」


「魔の手が一体どこまで広がっているのかは分からないけれど....私が必ず陛下や民に訴えてあなたを討伐してみせるわっ!覚悟していなさい!!」


「「「........」」」



「まぁそれまではせいぜい残り少ない余生を楽しむことね」



(おい、あいつは何を言ってるんだ?)

(さぁ元々ポンコツ具合の目立つ聖女でしたが.....)

(そうですな。あと思い込みが激しいと言うか、妄想が止まらないというか...)


「ちょっとそこっ!小声でこそこそ...聞こえてるんだけどっ!?」



(なるほど....頑固で妄想癖のあるポンコツ.....魔王討伐なんてしてないで婚活始めた方がいいんじゃ...)

(いえ、あれでも他国からの人気はあるのでいざとなったら政略結婚ですよ旦那)

(そうですな...黙っていれば見た目はいいですし。......まぁわしの好みではないですが)


「うっさいわよっ!国内の人気もしっかりありますからねっ!?あとガリウスあんたはロリコンでしょーがっ!!」



「んっ、んんっ.....まぁその....パーじょ様も」

「ホーリー」

「おっと落ち着てください、短期は美容に良くないですよっ」

「あんたが怒らせてんのっ!」


「それでパ...聖女様も私たちに同行するので?」

「...あんた最初断ったじゃない」

「いえ、今回の活躍で考えを改めまして」

「今回の活躍って囮だけなんだけど。というかあんたよくも山賊に売り払おうとしたわね」

「あとで救出するつもりでしたよ?」


「嘘おっしゃい!.....まぁそれも含めて、ね。私は勇者パーティには同行はしない、けれど監視者として付いて行くわ」

「旅には付いてくるが一緒に行動はしない、と」

「えぇ、何かあれば王都に連絡してすぐにあんたを討伐してあげるから」

「それはそれは.....ふっ」


「くっ、ま、まぁそういうことだから.........せいぜい気を付けること」



鼻で笑われてキレそうになりつつも何とか自制して、振り向きざまに堂々としたドヤ顔を残して去っていこうとした聖女が......



「へぶっ!?」



すっかり忘れていた両足に残った縄にひっかかり、顔から盛大にずっこけた。




「「「くっ....くくっ...........ぶふっ!」」」


「っっっ!!?」



(お、おいどうする?どうすればいい?)

(どうすればって旦那.....)


((ぶふっ!))


(お二人とも笑っては....ぶふっ!.....ダメですぞ!」



「......あぁぁぁぁもうっ!!笑い声全部聞こえてるのよっ!!」


「い、いえそんなことは....ぶふふっ」

「くっ!?...あんたそんな態度で」

「"せいぜい気を付けることへぶっ"?」

「くっ、このっ....ぶっ殺して」

「私を攻撃しようとするから神罰が下ったのでは?」

「っ!?そんな、嘘ですよねウース様っ!」


「そんなことより聖女様、転んだ拍子にパンツが丸見えに」


「っ!?っっっ!?」


下を見て状況を理解した聖女が顔を真っ赤にしながら法衣の裾を隠す。


それを見てさすがに不憫に思ったのかガリウスが残る縄をナイフで切ると、聖女が急いで立ち上がりササッと身なりを整え.....



「この借りも含めて必ずあなたを滅するからっ!待ってなさい、魔王っ!!」



そう言い残して今度こそ去っていった。



◇◆◇



「と、まぁ大体こんな感じで魔王認定されてしまいました」


「なるほど.....魔王....」

「何か?」

「いやなんでも。まぁとにかく仲間も集まったことだけは分かった。とにかく問題だけは起こさないようにな....くれぐれも必ず」

「そうですね。聖女様には言って聞かせておきますよ」

「いや、そなたに言っておるのだが.....ま、まぁよい。それでは達者で」


「お待ちください陛下」



「.....なんだエバルス」

「陛下は大事なことをお忘れですよ?」

「.......いやだが」

「陛下」



ここでちょいちょいとエバルスを手招きするハリス王。



(もしかしなくてもあれのことよな?)

(えぇ、それで間違いないかと)

(でもそれ言ったら多分またわしがひどい目に合うのだが...)

(言わなければ私の方に面倒が回ってくるので)


(.....なんかお主、最近たくましくなってない?)

(はい、鍛えられていますから)


(......少し前にまた倒れてから何か憑き物が落ちたように晴れやかな顔になっているが....)

(はい、鍛えられていますから)


(そ、そうか...なんかすまんな)

(いえ、大丈夫です。........それに最悪、上に全てぶん投げる用意はしていますから.....)

(そうか、ホントにすまな......その上ってわしの事じゃないよな?)


(.....それでは陛下お話の続きを)



そういってスススッとすばやく元の位置に戻った宰相に、ハリス王が愕然とした表情を向けてから一呼吸置いて勇者に向き直る。



「んんっ....それで勇者よ。先日の山賊討伐、これは見事であったのだが.....そのそなたの爆破した山についての話でな」

「山、ですか。あの山がなにか?」


「う、む。実はあの山は我が国建国以来、常に財政の支えとなっておった金鉱山でな」

「ふむ、初耳ですが」

「いやそなたに言うとパク......まぁ話がいかなかったのも無理はない。問題はきんを掘るための洞窟のほとんどが一時的に使えなくなったため、きんによる収入が減るという点なのだ」

「それは困りましたね」


「困りましたねって....まぁそれでだな、できれば以前に渡した国家予算の一部を半年間だけ戻してはくれまいか......できれば1/3程度でも返金してもらえないかなぁ、と」

「なるほど....そういうことであれば私はそれでも構いませんが」

「ほ、ホントかっ!?」


「えぇ、ですが.....人からお金をタダでもらえる事などありませんよね?」


「つい先日、強盗みたいなのに国の予算の半分持ってかれたが....」


「そこで返済の期限を設けるのです」

「やっぱり無視かっ!」



「ただその期限を超える場合は罰金として元の額の1割を返済金額に足します。そのうえでさらに返済期限を設定します」


「...その返済期限も超えたら?」

「同じく元の額の1割上乗せで期限をさらに延ばします」


「...金額の返済は3割とか....」

「全額です」


「.......それで期限は....」

「5か月としましょう」


「ほらやっぱり搾り取る気じゃんっ!?見たかエバルスこれがこやつのやり方よ!」

「がんばれ陛下」

「やる気ないしっ」


「それでどういたしますか、陛下?」

「くぅぅぅ」



頭を抱え悩み始めたハリス王、勇者の周りの面々が「あぁ、可哀そう...」と思いつつも自分には関係ないのでスルーする中。



「お待ちください陛下っ」


「.....?そなたは...」

「はっ、この度この場に呼ばれましたサリバン子爵家が当主、ゴドリッチ・サリバンと申します」


「してゴドリッチよ、なにかあるのか?」

「はっ、恐れながら陛下、こやつは我々貴族をめております」

「ま、まぁ...だがそのあまり強く言うのは...」


「いいえ陛下!このようなやつには一度、格というものを教えなければなりませんっ!」


そう言うゴドリッチ、それに続いて次々と貴族たちが騒ぎ立てる。



「そうだそうだ!勇者などと祭り上げられたまたま山賊討伐に成功したからとつけ上がりおってっ」

「ノワール家のヒューズ様には気に入られているようだが調子に乗るなよっ、所詮貴様は異世界の民...ここでは平民でしかないのだっ」

「そうだっ立場をわきまえんか!!」



「な、なんか前と似た流れを感じるのだが....わしもう帰っていいかな...」

「陛下がいなくてどうするのですか。....ただ私は急用を思い出したので帰っても...」

「おいまて逃げる気だろエバルス」

「そんな.....今日はゴンザレスちゃんの植え替えがありまして...」

「えっ、ゴン..えっ誰っ!?」



ハリス王と宰相が我先にと逃げ出そうとする間にも貴族たちはさらにヒートアップして....



「大体貴様っ我々と同じ目線で話そうなどとは」

「そもそも目上の人間貴族にあったら先に挨拶が礼儀であろうがっ」



などと勇者を罵り始める。



◇◆◇



「ふーむ、これは面倒なことになりましたねぇ」

「という割には落ち着いていますが」

「いえね、一応、対策はとってあるのですよ.....それにしても前回見た方たちとは違う顔ぶれのようですが?」

「おそらくですが彼らは下級の貴族ですな。最初に名乗りを上げたのがおそらくリーダー格なのですが、それが子爵ともなると大体が男爵、高くても子爵ということになります」

「ふむ、それは勇者こちらが下に見られているということでしょうか?」

「さてどうなんでしょうか」



 たしかにここに居る貴族は男爵、子爵といった下級と言われる貴族のみである。

だがそれは決して勇者がめられているわけではない、というかむしろ恐れられた結果ともいえるだろう。


 前回、自爆に巻き込まれかけた貴族は全員が高位の貴族、勇者召喚という歴史に語られる儀式に参加するにはそれなりの出身が必要だったからだ。

 

だがそんな儀式で現れた勇者が突然、金と権力を要求してきたかと思い文句を言ってみれば自爆するという、それも冗談ではない雰囲気を醸し出して、だ。


高位の貴族であれば様々な修羅場を潜り抜けてきている。

そんな彼らの直感が叫んだのだ、


"こいつはヤバい、ぶっとんでやがる"


と。



 そんな勇者がさっそく王都の経済を狂わせ、"行き遅れバーサーカー"までも仲間にし、ついには山賊をまとめて爆殺したという。


この情報をいち早く仕入れた高位貴族の面々が見送りであろうと関わりたくない、と参加を拒んだのも仕方のないことだと言えるだろう。



そんなこんなを一切知らない下級の貴族たちが今度はここに居ない高位貴族にも文句をぶつけ始める。



「大体、ここに居ない伯爵位より上の方々はなぜか参加を拒んだというではありませんか」

「なんとっ!彼らには貴族としての矜持が無いと見えるなっ」

「まったくだ。それに引き換え我々はしっかりと出席している」

「ふはははは、これは私が伯爵位に昇爵するのもあとわずかなのでは?」



口々に罵り笑いあう貴族たちの声がひとしきり続いた頃、勇者が彼らに問いかける。


「それで....あなた様方は私に何をお望みで?」


「決まっておろうが、まずは爵位の返還と...」

「金だっ、国家予算をよこせだのとバカなことを言ったらしいではないか」

「それと先ほどの話も全て無効だっ、召喚した我々がお前の主人なのだからしっかりとこの国に尽くせばいいのだ」


「何もなく奴隷のように働けと?....さすがにそれには抵抗いたしませんと」


「ほう、それでどうするというのだ?言っておくが情報はこちらにも入ってきておる。"ふんじんばくはつ"...だったか、粉を巻いてから引火するならばその時間もなく捕まえればよいこと。おいっ」


リーダー格の貴族がそう叫ぶと突如この場に盾を構えた重装備の大男たちが乱入してくる。



「お前たちっ、即座に奴を捕らえるのだ!....ふふふ、どうかな?これで貴様は何もできまい」

「なるほど、少しは対策を考えたというわけですね」



余裕の表情で追い詰めた獲物をいたぶるように笑いながら話しかける貴族、そして勇者にせまる男たち。


陛下も思わず「がんばれっ」と呟いてしまうくらい不利に見えたこの状況でも勇者は笑みを絶やさず話しかける。


異世界むこうの道具で爆発を起こせる、という話を耳にしているのであれば、勇者の特殊能力の"物を無限に詰め込める能力"についてもご存じでしょうか?」


「....?それがどうした?そんなもの今は関係」

「あれから思いついたことをいくつか試してみて分かったことがありまして」

「だからなんだと」

「実はこの能力で収納している物の時間は止まるようなのです」


「....?」


「そう、たとえば既に火がついて爆発寸前の爆弾とか」



「「「っ!??」」」

「さて、これを取り出し投げつけると一体どうなるでしょうか?」


「なっ」「そんなっ」「ハッタリ...」


そう言った勇者が素早くどこからか取り出した物を男たちに投げつけると....



カッ、ドッカーン!!



という音と激しい光とともに近寄っていた男たちが吹き飛ぶ。


持っていた盾には穴が空き、来ている鎧はところどころひしゃげた状態だ。


死んではいないが辛うじて、という程度で既にまともに立ち上がれないほどにダメージを受けているのが目に見えて分かる状態だ。


「「「..........」」」


「さて、それでは次はさらに威力の高い....」


「わ、分かった....まずは話を」「話せばわかるっ」「暴力は暴力しか生まないぞっ、一旦冷静に...」


「えっ?でもせっかく作ったのに....」

「それはまた今度の機会にでも....」

「でも結構苦労したんですよ?なにせ初めてでしたので。でも作っていくうちに楽しくなっていって....これを見せたらどんな顔をしてくれるのかな、と」


「「「ひっ」」」


「では早速第2弾を....」


「「「.........す....」」」


「す?」



「「「すみまぁっせんでしたぁぁぁ!!」」」



ここでやっと勇者の本性と本気を悟り、参加しなかった貴族の気持ちを理解し、全力で数分前の自分の愚かさを呪った貴族たちが何もかもを放置したまま一目散に退散していった。



◇◆◇



「やれやれ、これで面倒なのからのちょっかいは無くなりそうですね」


「あの貴族たちと面識が?」

「それは無かったのですが、爵位についての抗議のようなものを受けたことがありまして」

「それで爆弾制作ですか。さすがは旦那、そこにしびれるあこがれ」


「ねぇよっ!!」


「おや、いたんですかサムエル」

「お前が連れてきたんだろうがっ」

「そういえばそうでしたね、先ほどまではやけに静かでしたが...」

「旦那様は先ほどまで気絶していましたからね」


マリアおまえの所業のせいでなっ!!」


「おまえだなんて......なんだかもう夫婦みたい、きゃっ」

「そこじゃないっ、というか今はそれでもない。俺言ったよね、何かするなら先に言ってって!」

「別にあの程度....」

「いや人間瀕死に追い込んでますけどぉ!?」

「兵士の方々も大変ですねぇ」

「それにここ王宮の中!?国王様もいますが!?」

「...ふむ。大丈夫ですよね、陛下?」


「ひっ.........あ、あぁ」


「今"ひっ"って言ってただろうが、ドン引きだよっ!!」

「そんなこと....というかさっき陛下、がんばれと言ってませんでしたか?」

「い、言ってない...」


「そうですかぁ?...まぁでは返済の件はこれで問題ないですよね?」

「あ、あぁ........分かったから二度と王宮内では爆発物を使うのはやめてくれよ?頼むぞ?」

「使いますん」


「っておいっ!?今のはちゃんと聞いたぞっ。"ますん"ってなんじゃ!どっちなんじゃ!...エバルス、お前のほうから言い聞かせておいてくれ...」


「分かりますん」


「お前もかっ!?」



◇◆◇



「では陛下、私たちはそろそろ....」


「そうか....今度こそ達者でな........ん?ちょっと待て勇者、ロンデルの持っている剣にわし見覚えがあるのだが...?」


「えっ?これですか..?これは以前、旦那にいただいた剣ですが」

「え、あぁ、あれは王宮内の銅像が偶然ドロップした貴重な武器でして」

「いやそれムント王国うちの!どっかで見覚えあると思ったら先代勇者が使った剣じゃん!?」


「.........はて?」


「ほら絶対わかってるじゃん!盗品じゃん!!」

「まさかあの銅像....そんな業物をドロップするとは....」

「いやその銅像先代!?あんたの先輩の銅像ですがっ!?」


「それはそれは...ありがたくいただきます」

「あげるとは一言も言ってないけどっ!?」

「それでは行きましょうか、皆さん」

「えっ、ちょっ....」


 ハリス王の戸惑いと制止の声を背に歩き始めた勇者、そしてそれに付き従う一行。


 当初に比べて増えた仲間を引き連れた"ぶっとんだ勇者"の魔王討伐への道はまだまだ続く。




「いやだからそれ国宝なんだけどっ!?返してくれないと外交とかでも色々ヤバいんだけどおっ!??」



ムント王国国王ハリスの苦悩の日々とともに......。


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