後悔

青山えむ

第1話 おばあさん

 僕の通っている中学校からの帰り道は二つある。中学校を出ると右と左に分かれているまっすぐの道。僕は右の道を歩く。

 中学校から右の道に出てすぐの家で、毎日日向ひなたぼっこをしているおばあさんがいる。雨の日以外の朝と夕方、ちょうど通学・下校時間に椅子に座っている。

 ニコニコしているので、通りかかった生徒たちはおばあさんに挨拶あいさつをするのが日課になっていた。


「いいよなぁ学校にも行かないで日向ぼっこしていればいい生活なんて」

 受験で苛々していた僕はつい友人の黒木くろきに呟いてしまった。

「まぁ今まで苦労してきたんだろうし、ゆっくりする年代になったんじゃないか」

 黒木はそう言って僕をなだめた。

 黒木は成績優秀で人望も厚い。推薦枠に入るんじゃないかと噂されていた。

 僕は狙っている公立高校にぎりぎり入れるかどうかの成績だった。


 ある日の掃除時間、ちょっとした事件が起きた。

「きゃあ!」

 女子の悲鳴がしてみんな一斉にそちらを見た、僕も見た。しまった。

竹田たけだ、最低」

 僕は女子の非難を一斉に浴びる。僕の持っていたモップのが、悲鳴を上げた女子生徒のスカートをたくし上げていた。受験の事ばかり考えていた。まさかこんな事になるとは……。

「ごめん……本当に悪かった」

 僕は心の底から謝罪した。けれども女子の団結力は固く、僕はしばらくの間罵声ばせいを浴びせられた。口答えしてもかなわないだろうと思い、黙って聞いていた。


 ちきしょう、謝ったじゃないか。わざとじゃないのに。僕は苛々して帰っていた。

 ニコニコしているおばあさんは今日もいた。本当に毎日ニコニコしているな。きっと何を言っても怒らないんじゃないだろうか。僕はいい事を思いついた。


「こんにちは」

 僕は笑顔でおばあさんに声をかけた。おばあさんも「こんにちは」と返す。ここまではみんながやっている挨拶だ。僕は笑顔のままさらに近づいた。この家は道路沿いにあるけれども、おばあさんは少し奥に座っている。


「いいですね日向ぼっこ、気持ち良さそう」

「そうね、気候もちょうど良くて気持ちいいわよ」

 おばあさんは変わらずニコニコしていた。


「おばあさんが笑っていると周りが喜びますよ」

 僕は笑顔のままそう言った。

 おばあさんは一層ニコニコして嬉しそうだった。僕は笑顔のまま立ち去った。


 次の日の帰り道もおばあさんに話しかけた。

「ご家族は働いているんですか?」

「ええ、息子は仕事中でお嫁さんはパートに出ているのよ」

 おばあさんはニコニコして答えた。

「いいですねおばあさんは、座っているだけなんて」

 僕は笑顔で言った。おばあさんの反応を見る前に立ち去った。


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