第11話 養ってもらうには

「ね、ねぇ?ミラ…」


「何かにゃ?ご主人…」


 私はノアさんが出かけてる間に目下の悩みをソファーで毛繕い中のミラに打ち明けた。


「あのね?お休みが取れて私がノアさんと旅行に行ったらもうここでは暮らせないわよね?弟やお父様に事情を話したらノアさんは魔法省に逮捕監禁よね。でもそれじゃあまりにも可哀想よね?」


「情が沸いたにゃ?それとも惚れたにゃ?」


「なっ!ほ、惚れるわけないでしょ!!あんな変態執事っっ!!せめて慈悲深いって言ってよね!」


「でもご主人…あの家に戻っても…そんな信用されるかにゃ?絶対に嘘だと思われた挙句、相手に遊ばれて捨てられた可哀想な令嬢に見られて更に旦那さんはこの穢れた娘を金持ちのスケベジジイの後妻にでもと押し付けるのがオチにゃ」


 なっ!!何ですってーーー!!!

 でもあり得るから不思議ーーー!!


 確かに…あの真面目な弟やお父様なら帰ってきた私を見て虫けらみたいな目で見て信用しないと思うわ!


 そうなると帰っても意味がないしミラの言う通り…スケベジジイに押し付けられるわ!!


「ちょっと待って!嫌よ!そんな!!ここにいた方がマシじゃないの!?どう言うことよ!」


「やっと気付いたかにゃ?ここは居心地がいいとミラは最初から言ったにゃ?従者はあんなに尽くしてるのにご主人の自由を奪ったことを嘆いて解放しようとまでしてるにゃ。このままじゃご主人は捨てられる運命にゃ。スケベジジイに嫁ぐかこのままここにいて従者の奥さんになれば解決にゃ」


「や、やだぁ!ミラってば!ばかん!おお、奥さんだなんて!!私…家事出来ないじゃない!!もー!!」

 とつい、美形変態執事の奥さんを想像してしまう。


『やだー!またお皿割っちゃったー!』


『大丈夫ですか!?お嬢様…可哀想に…お嬢様の白い指先から血が!おのれ割れた皿め!お嬢様の大切な指をよくも!!』


『も、もう!ノアさんたら!…も、もうお嬢様じゃないの…貴方の奥さんのただのヴィオラよ…』


 見つめ合うヴィオラとノア…。


『そうでしたね、私としたことがうっかり…。ヴィオラ…クルルメイラ…』


『やだあ!クルクルパーじゃなくてちゃんと言って…』


『すみません、ヴィオラ…愛してます!』

 と愛し合う2人…を想像してしまい、


「き、きゃー!!ダメよ!そんな!!」

 と赤くなり悶えた。


「気持ち悪いにゃご主人…。そもそも従者のこと好きなことは認めるにゃ?」

 とミラが言うので


「は?何であんな変態を?違うわよ!別に好きじゃないわよ?だけどあれよ!向こうがどうしても私の事好きだとか言うならか、考えてあげなくもないわよね?…ていうか普通そうよね?男の方から女に婚約を申し込むんだからね?ノアさんが懇願するならつ、妻になってもいいかなって…」


 するとミラは呆れて


「その妻になれるかどうかはご主人が懇願しないとあの従者は絶対に自分からはアプローチしないにゃ!」


「にゃにい!?」


「にゃにい!?…じゃないにゃ!従者はご主人を愛してるにゃが、自分の重すぎる愛も自分で理解しているから軽率な行動は取らないにゃ。男は好きな女にあまり手を出さにゃいという人間理論にゃ」


 何だこの猫!!もしかしてれ、恋愛マスターか!?そして微妙に主人の私を小馬鹿にしてない!?


「ミラ…貴方…私の味方でしょ!?最近ちょっとあの変態の肩を持ちすぎてない?」


「ミラは美味しい餌をくれる従者が好きにゃ。ご主人だって従者がいないと料理すらまともに作れないからすぐ死ぬにゃ。変な意地を張らないでさっさと従者に懇願して養ってもらう必要があるのはご主人の方にゃ!だからアドバイスしてやってるにゃ!」


 うおおう!こっ、この猫め!いつの間にか変態に擦り寄っていたのね!!


 でも確かにミラの言う通り旅行中に逃げられて1人(これで私は自由だわーーー!)と手を広げても…。私1人で生きて行ける自信がない。い、いやいやでも!

 わ、私からノアさんに好きなんて言うなんて!いや、いつも愛してるとか言われてるけど聞こえないフリばかりしてるし!


「ミラ…な、なら…次にノアさんが…私のこと…好きとか愛してるとか言ったら…わ、私だってそれなりに返して見るわ…。流石に放り捨てられたら生きてけないし」


「なんて素直じゃないにゃ!?とっとと懇願すればいいものを…拗れても知らないにゃ!」

 とミラはプイと頭を掻いて寝た。


 ……次にか…。

 言ってくれるかしら?言われたらどう返そう?

 養ってください?

 もっと貴方にお世話されたい?

 というかご飯を恵んでください!


 ……だんだん道端に座る乞食みたいに思えてきたわ…。


 帰っても信じてくれそうにない家族の元では居場所ないし、スケベジジイに嫁に出されるのはもっと嫌。その点変態執事は変態さはあるけど美形だからちょっとくらいは多めに許される。

 なら、あの変態執事が喜ぶことをしたら流石に私のこと好きだとか言いやすくならない!?


「ミラ!ノアさんの喜ぶことをしたらきっと私のこと好きって言いやすくなるわよね?そうよ!そうしましょう!!」


「で、何するにゃ…?」


「えっ…」


「何にゃ?決まってないにゃ?ならキスかにゃ?それにゃら従者喜ぶと思うし、一番確実な方法にゃ!」


「な、何で恋人でもないのにキスするのよ!!」

 いや、したことあるけど!恋人じゃないけど、助けられた時(人工呼吸)と誓いのキスとか言う訳解らん拐われ当初のヤツ!!


「じゃあベタベタすればいいにゃ。ご主人がいつまでも触る許可とか取らないから従者は何もしないにゃ!」


「だってそんなの出したらあいつ直ぐケダモノになるじゃないの!こっ、こないだだって!色仕掛け作戦したら押し倒されたわ!男ってどうして直ぐ押し倒すのかしら?あら、私が綺麗すぎるから?」


 へっへー!そう言えばオッサン美少年にもキスされそうになっていたしね!セーフだったけど!


「見た目だけならいいのに残念な中身にゃ。ご主人は。まぁ…あの従者はそんな残念なとこも含めてご主人を好きそうだしちゃんと告白した方がいいにゃ。その変な気高さを捨てるにゃ」


 なっ!恋愛マスター!!言うわね!!


「でも…でもぉ…私からプライドを取ったらもう私じゃなくない?私一応お嬢様なのよ!?そして奴は従者!その関係がしっくり来るし、奴もお世話したがってるのよ?」


「じゃあ、お嬢様らしく気高く言うといいにゃ。それこそ鞭でも持ってぶっ叩きながら、『ほらほらどうしたにゃ?私のことが好きにゃんでしょ?捨てるにゃんて許さないにゃ!愛してると言いにゃがら靴を舐めて一生私の奴隷として 世話をしにゃさい!ほうら!』…とか言ったらイチコロで言ってくれるにゃ」


「いや、そんな怪しい女王様になるの嫌よ!!私!も、もっとストレートに行くんだから!」

 と私は恋愛マスターの言うことは無視した。


 *

 ノアさんはいつもより遅めに帰宅してきた。


「おっ…お帰りなさい!遅かったわね」

 と言うとノアさんはせかせかとキッチンに入り、


「申し訳ありません、お嬢様。休んでいたツケが溜まり…すぐ御夕飯の準備を!」


 え…わ、私が拐われた間、ヤリ●●野郎の仕事が溜まってしまったんだ…。可哀想に…。いや、私のせいか!!?


 しかし、私が作ろうにも料理すらまともに出来ないしキッチンをまた破壊する恐れが!

 それなら料理を覚えれば?いや、忙しいノアさんには頼めないし…。困ったなぁ。


 結局食卓に料理が並び、食事の時間になって、ノアさんはいつもよりせかせかとご飯を食べて


「お嬢様はゆっくりお食事をお楽しみくださいね」

 と言い、

「すみません…仕事の書類を持ち帰ったのでちょっと部屋にいます!お嬢様の食事が終わるまで少しやっておきます」

 とさっさと部屋に引っ込んでしまった!!

 ええ…。

 話すら出来ないじゃない!


 そんな日々は数日くらい続き、たまの休みも家事と書類を持ち寄り小屋でも仕事をしていたりするノアさん。


 このまま一月経って旅行先でポイなんて…。どうしよう!今から仲良くしておかないとポイは確実!


『お嬢様…これまで楽しい思い出をありがとうございました…お元気で…さようなら…』


 と言う別れのシーンが浮かぶじゃないの!!

 私は意を決意して階段を上がりノアさんの部屋をノックする。


 カチャリと少し疲れたノアさんが


「お嬢様どうしました?何か御用でございますか?」

 と聞く。

 チラリと見た隙間から部屋の中が見えたけど、以前ビッシリ貼っていた私の絵が一枚も無くなっていた!!

 な、ななななんですとーーー!?


「え?いやあの…おふ…お風呂が…」


「ああ!すみません!そんな時間でしたね!!今すぐに!」

 とノアさんがピューと風呂を用意しに行く。

 開けっぱなしで行ったからノアさんの部屋を覗くけどやはり絵はなかった。


 ………まさか飽きられたかもう心の整理をつけようとして絵を見るのも辛くなったとか!?


 きっとそうだわ。つれないお嬢様と別れる為に必死に働いているんだわ!!


 ………。

 風呂の準備を終えて戻ってきたノアさんを私はキッと睨んだ。ノアさんはビクリとした。


「お嬢様?あのお風呂が…」


「そう!できたの!ありがとうね!」

 と怒りながら風呂に入った。


「何よ!あんなに変態だったのに!!何で私の絵を外してるのよ!!最近はあんまり話してくれないし…!ノアさんのばかあ!!」

 旅行=ポイされる日となってしまったわ。


 結局ポイされる日まで私とノアさんはあまり必要なこと以外喋らない関係になる。まるでふつうのお嬢様とその執事みたいに。


 ………。

 もうノアさんは別れをきっちり意識して私のことなんか忘れようとしてるんだわ…。酷い。こんなとこに拐っておいて…いらなくなったらポイ捨てなんて!私はゴミじゃないのよ!?


 初めは家に帰りたかったのにどうしてこうなった!?…犯人に情が移ったから?命の恩人だから?意外と美形だし?


「うっ…ふっっ…ぐう!……」

 ノアさんのいない時間、私は枕に顔を埋め泣き出すことが増えた。

 帰ってきたら何も無かったように装っていたがミラは…


「どんどん悪化してるにゃ…もうミラもご主人は見限り従者に飼い主を変更しようかにゃ…」

 と裏切り発言をしている。


「いいわよ、別に?ミラのことも可愛がってくれるでしょ?」

 と言うと


「判ったにゃこれからは従者にゴマするにゃ!ミラは捨てられないよう頑張るにゃ!」

 とあっさり鞍替えしやがったわ!!

 これだから猫ってのは気分屋よね!!


「もう撫でてあげないわ!」


「別にいいにゃ…ただのヴィオラ」

 とミラも素直じゃない私に素っ気なくなった。

 ………も、もういいわよ!スケベジジイの嫁になればいいんでしょ!スケベジジイに身体だけ与えればいい暮らしできるならそれでいいじゃない!!


「ううっ!ぐっ!!…スケベジジイめ…ううっ!!」

 とそれでも未来の悲惨な光景に泣けてきて枕を涙でグショグショに濡らした。


 *


「ようやく3日後に休みが1週間取れたので旅行へ行きましょうね、お嬢様」

 とようやくノアさんはにこりと微笑んだが私はぶすーっとした。


「あらそう…楽しみね…」


「…………………。」

 ノアさんは少し悲しそうな顔をした。

 何なのよ!私のこと好きなら離れたくないって言ってくれればいいのに!!


 煮えきれない態度に腹が立つ!


「お嬢様…もしかして旅行がお嫌ですか?」


「そんなことないわ…楽しみだと言ったわよね?」


「ならいいんですけど…最近とても機嫌が悪そうですね?」


「気のせいじゃない?」


「私は何か気に障ることを致しましたか?」


 くっ!何なのよ!!腹立つわねえ!!

 もう我慢できないわ!

 私はソファーから立ち上がりノアさんに言った!


「ノアさん!解らないのね!ならお仕置きが必要だわ!そこに四つん這いになりなさいよ!!」


「えっ!!?お嬢様!?な、何を!!?」

 ノアさんは混乱している!当たり前だろう。

 しかしノアさんは言う通り四つん這いになったので私はその背に遠慮なくドカっと座った!


 人間椅子だ!!


「ふん!どう?重いでしょ!?最近ダイエットやめたのよ!!この姿勢で30分は耐えて貰いましょうか!!」

 と私は悪女になった!


 するとノアさんは少し息が乱れ…


「そ、そんな…お嬢様が30分も私の上に…何のご褒美!?」

 と変態ぶりが出てきた!

 ふふ!狙い通りだわ!私のこと好きだとか愛してるとか言わせてやるわ!

 この【女王様作戦】でねっ!!

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