第8話 戦闘
源はその場に立ちつくしていた。
何だ?何だあれは?源の脳内を混乱が支配する。
光に照らされた怪物は二人のいる方を見つめ続けていたが、不意に一歩こちらへ踏み出した。
「動くな!!」
刑部が再び叫んだが、そもそも言葉が通じるのかも怪しい。
次の瞬間には、怪物はこちらへ駆けだしていた。人間が走るより遅い動きだが、確実にこちらへ向かってくる。長い腕が揺れる気味の悪い動きだ。
先ほどは威嚇射撃であったが、刑部が今回は躊躇せず標的へ発砲した。
廊下に乾いた銃声が響く。
刑部の使用している拳銃は、スミス&ウェッソン社のモデル360、それを日本警察仕様に改良したモデル360 SAKURAというリボルバーだ。オリジナルと比べ、警察官が使用しやすいように様々な改修が加えられている。装弾数は5発、.38スペシャル弾という弾薬がフル装填されていた。
その.38スペシャル弾が怪物の大腿部を貫いた。飛び散った血肉が光に照らされる。
怪物の口から、踏まれた猫のような潰された蛙のような、嫌な悲鳴がこぼれた。
しかし、一旦ひるんだものの怪物は止まろうとしない。
再び発砲。今度は二発続けざまだ。
無煙火薬が燃焼した時の、独特のにおいがかすかに漂う。
弾は怪物の胸部と首をそれぞれ撃ちぬいた。弾は完全に貫通し、怪物の背中側から突き抜ける。
怪物も今度ばかりは急所を撃ちぬかれて、走る勢いのまま前のめりに廊下に倒れこんだ。
銃声の残響と静寂が入り混じる。
刑部は源の方を振り向き目で合図すると、拳銃を構えたまま怪物の元へ向かった。源も動かなくなった怪物を懐中電灯で照らしながら小走りで後を追う。
今回、源は拳銃を携行してきていなかった。自分の見通しの甘さを憎く思う。
怪物の元へたどり着くと、刑部は怪物のそばへしゃがみ込んだ。
源も刑部の背中ごしに怪物を見つめる。
間近で見るとより不気味だ。不気味な生白い肌は生き物のそれではない。
刑部が調べるため怪物に手を触れようとしたその瞬間。
怪物が急に上半身を跳ね起こした。
長い腕で刑部にしがみつく。
声を発する間もなく、次の瞬間には、刑部の肩口へ怪物が喰らい付いていた。
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