第7話 遭遇
源は急いで踵を返すと、刑部がいる方へ走った。恐らく先ほどの銃声は刑部の拳銃のものだ。銃を使う状況とあらば、並なことではない。走るに連れて手に持った懐中電灯の光が、左右に激しく揺れる。鼓動が急激に早くなっていくのを源は感じた。
階段まで戻ると、先ほど二手に分かれた、刑部が調べている廊下の方へ視線を巡らせた。
刑部が長い廊下の途中あたりに立っているのが見える。廊下の向こう側へ懐中電灯の光を向けている。先ほどの銃声はやはり刑部のものだったようだ。懐中電灯を持つ腕を支えに、拳銃も前に構えている。
「刑部さん!!」
「動くな!!」
源が呼びかけたとほぼ同時に刑部も叫んだ。
源は刑部が自分に向けて叫んだのだと思った。
だが違ったようだ。
廊下に立つ刑部越しの廊下の向こう側に、もう一つの人影が見える。
源は目を凝らし、その人影を注視すると同時に、全身に粟立つのを感じた。
廊下の向こう側。刑部の懐中電灯と窓から差し込む月光に照らされた姿。
その背丈は人間とさして変わりない。だが、異様なほど痩せこけていた。死人のような生白い肌。力なくだらりと垂れ下がらせた腕は異様に長く、指の爪は獣じみて尖っているようだ。そしてその顔。眼は爛々と光り、口にはナイフを想わせる鋭い歯がびっしりと並んでいる。
その足元に、スマートフォンを握ったままの人の右腕、おそらく今回の事件の被害者であろう女性の右腕が落ちている。
化け物だ。先刻までただの噂話だと思っていた化け物が、目の前にいる。
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