ドラゴン
60階層、そこは40階層と同じようにボスフィールドでは無かったが、しかしそこには今までのモンスターとは一線を画す物が居た。
「遂に来たか」
ファンタジー生物の中ではスライムと二分する人気モンスターでありながら、定番中の定番。硬い鱗と蝙蝠のような羽、そして口からは様々な属性のブレスを吐き出す。幻想種、ドラゴン。
それは、俺が待ちわびていたモンスター。
「手を出すなよ」
使役している魔物にそう指示を出す。
俺はこいつに用事があるんだ。
「第四〇術式」
十番台の魔法は、今の俺の魔力量を持ってしても有り得ないほど莫大な魔力を必要とし、とてもではないが使えるものではなかった。
だが四〇番だけは別だ。
短剣に青い魔力が纏わりつく。
変化はそれだけ。
耐久性が上がってもない。
攻撃力が上がったわけでもない。
その魔法は、俺や世界にも全く何の変化も与えてはいなかった。
「加速」
スキルを発動する。
効果中の俺の速度が二倍になるそのスキルは、持続的に魔力を消費するがゆえに長くは使えない。
だから、脚を地に立て、飛び上がる瞬間にだけそのスキルを発動させる。
今の俺の身体強化があれば、10m位なら風狼脚も空獅子も無しで跳躍できる。
青い魔力を纏った小太刀がドラゴンの首へ迫る。
「ブルァァァ!!」
ドラゴンはブレスで対抗してくる。
だが、それは想定内だ。
「リヒト!」
俺の目の前にバリアが展開される。
防御魔法はやはり必要な魔法だった。
ドラゴンの吐き出した炎の中を突き抜ける。
バリアで正面は防いでいるが、熱は籠る。
ただ、加速によって上がった俺のスピードの前では熱が籠るほどの時間はかからない。
小太刀がドラゴンの首を撫でる。
鮮血が舞うが、少し浅いか?
だったら、
「
空を蹴って、二度目の斬撃を与えよう。
グリフォンの能力があれば、何度でも、俺はお前に剣を届かせられる。
「グル……ゥ」
飛行能力を失い、地へ叩き落されたドラゴンに俺の剣が再度振るわれる。
その息の根が止まった瞬間、ドラゴンの中の魔力が俺の中へ雪崩れ込んでくる。
だが、本来なら最大魔力量を増やすために使われる魔力が小太刀に吸収されていく。
これこそが、第四〇術式、
この魔法の発動に魔力は一切必要ない。
この魔法は武器を強化する魔法に分類され、その効果はその武器が殺した龍の数に依存する。
つまり、この武器の攻撃力を恒久的に強化する魔法こそが、
これによって、疾走の短刀と雨の小太刀は龍一匹分の攻撃力上昇効果を手に入れた。
ただ、これで殺した龍の魔力はやはり最大魔力量の上昇には使えないらしい。
しかし、龍殺しで倒して武器の攻撃力を上げた方が、俺が強くなる為には近道だと考える。
バサ、バサ、と大型の生物が羽ばたく音が、複数聞こえてくる。
「
リヒト以外の配下の魔物を亜空倉庫へ仕舞う。
この階層に他のモンスターは必要ない。
俺が殺して、武器の攻撃力を上げる。
速度、そして破壊力、最後に攻撃力、これが俺に揃えば接近戦闘においても無類の力を発揮できる。
だとするなら、このドラゴン狩りは俺が一人でやらないといけないだろ。
「俺は魔法無しだが、お前達は好きにブレスを使えばいい」
その悉くは、うちの魔術師が防いでくれる。
「全く、負ける気がしない」
加速、隠密を使い倒す。
風を纏い、空を蹴り、動きを止め。
ついでだ。お前達に相当する幻想種を見せてやろう。
「第六術式、
それは召喚術式、羽の生えた天馬を召喚する魔法。
天を翔けるその生き物は俺の味方をしてくれ、背に俺を股がらせてくれる。
そのスピードは、込めた魔力量に依存する。
大盤振る舞いだ。8000持ってけ。
あのドラゴンの魔力量は多く見積もっても、9000。
つまり、ブレスなんかに魔力を割いてるお前らに、ペガシスを捉える事など出来はしない。
空中戦は初だが、それでも足場を至る所に出せる俺にとってプラスな要素の方が多い。
ーー
第70階層。
そこはボスの領域だった。
ボスモンスターの名称が詳細情報によって表示される。
ついに敵の名前まで分かる様になったらしい。
『天龍王ヴァルバロス』
長い名前だ。覚える気も湧かない。
「雑魚も湧くのか」
当たり前か、リヒトの時が特殊だっただけだ。
「仕方ない。来い、ボス以外は殺していい」
亜空倉庫を発動させ、配下の魔物を召喚する。
小太刀と短刀を取り出す。
その武器が内包する魔力は今までの比ではない。
龍千体以上分の魔力が内在しているのだから。
その攻撃は鋼鉄すら切り裂き、どれだけ硬い物質でも貫くだろう。
ただ、全ではその龍の発見事例がまるで無く、数体分の魔力しか宿せていなかった。
それでも、目に見えて攻撃力は上がっていたのだ。
今のこの二本の短剣の切れ味は、極限的に研ぎ澄まされている。
もう刃こぼれだってしないだろう。
そういうレベルだ。
敵の雑魚モンスターよりも、幾つもの戦闘によって大規模にレベルアップした俺の軍の方が総合的に強い。
数以外の全てで勝る俺の配下は、俺の魔力によって自動修復する能力まで何時の間にか獲得していて、ボスが俺に勝つにはお前が俺を殺す以外の選択肢はないだろう。
今までのドラゴンとは大きさも内在する魔力量も圧倒的に各上のボスドラゴン。
ただ、それに対しているというのに全く恐怖を感じない。
ドラゴンが吐いたブレスは、紙一重で躱せてしまった。
そのテールスイングをジャンプで避ける。
鍵爪へ短剣を合わせれば、その威力は完全に殺せてしまう。
「この程度?」
どてっぱらに、拳を突き入れる。
「GURRRRRUUUUUU!!」
巨体が飛んだ。
浮いたドラゴンはそのまま地面へ打ち付けられる。
天龍が、空から降ってくるとか。
それでも、流石天を関する名前が付けられている事はある。
飛行したドラゴンは、その羽ばたきによって、俺の身体を吹き飛ばしにかかる。
「へえ、結構な圧力だ」
けど、
「第五二術式」
それは重力属性の二番目の魔法。
「
それは俺に掛かる全ての物理的なエネルギーに対して反対の力を同量でぶつける魔法。
あまり、大きすぎる力は流石に相殺できないが、それでもこの程度の風圧なら十分。
全く、動かない俺にドラゴンは首をかしげるような仕草をした。
短剣を逆手に持つ。
そのまま、大きく腕を引いて、一気に短剣を投擲する。
「加速」
速度とはつまり、威力だ。
その短剣は、一気に加速し、龍の顔面を貫通する。
「GRUUUU」
「まだ動けるのか」
なら、もう一発くれてやるよ。
「加速、
加速に加えて、掌から発生した重力によって更にその短剣の射出スピードが跳ね上がる。
胴体に入り、内臓を抉っていく。
そうすれば流石にゲームセットだ。
「起きろ」
勿論、こいつは俺の配下に加える。
他の龍とは一線を画して強かったのは間違いないから。
「全員殺していいぞ」
命令を下せば、配下たちは喜々として武器を振り上げる。
リヒトだけは、それを司令官的な立場から傍観している。
何なら、俺の投げた短剣を回収してくれる始末だ。
「助かるよ」
「カカカ」
もうすぐだ。
もうすぐ、十番台の魔法が使える魔力が溜まる。
そうすれば、待っていてくれ十華。
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