第13話 第十八代勇者パーティ(ティター視点)
ティターは、第十七代勇者パーティの聖乙女だ。
聖華教は聖魔法の力の強さで階級が異なり、一番トップが聖女、その下が聖乙女、その下が聖少女となる。
純粋に力の階級なので、老婆が聖少女を名乗ることもあり、現場ではすごく嫌われている階級名ではあるが。
ティターはすでに三十路だ。聖乙女だなんて名乗りたくない。
だからいつも聖魔法士と名乗っている。
カイデ街道の入り口あたりで馬車から降りて、きょろきょろと辺りを見回していた三人に、ひとまず挨拶した。
「初めまして、今代の勇者パーティの皆さん」
自分の名前と役職をにこやかに告げれば、剣士の男が照れたように頭を掻いた。
「ご丁寧にどうも、俺はこのパーティのまとめ役のカテバル=ポトリングと言います」
「まとめ役?」
目の前ののっぽが勇者かと思えば、そうではないらしい。
南のモンスター退治から戻る道すがら、リザードマン退治を依頼された。
その足で現場に向かえば、今代勇者パーティの聖女がやってきて、可愛らしく挨拶された。そこで初めて自分たちの後継ができたことを知ったのだ。
確かにもうすぐ大会の時期だとは思ったが、先代に今代勇者の情報を全く伝えないものだろうか。事前の参加者だって風の便りに聞いたほどだ。
そもそも聖女が言うには、初めての仕事なので先代のやり方を見て学べと言われたらしい。つまりお荷物ということか。
リザードマンは数が多くないとはいえ、厄介な相手だ。
それを新人教育の場に使うのはいかがなものか。
自分たちの時は、たしか大量のスライムが初仕事で引き継ぐどころか勇者が蹴散らして終わったが。
歴代最強の名を冠している勇者ミッドイは魔法剣士だ。
自分ともう一人魔法士のトリンの三人で勇者パーティを組んでいるが、ほとんどミッドイが討伐してきたようなものだった。
だからカテバルが勇者かと思ったのだ。
改めて馬車から降りてきた二人を見れば、魔法士らしい少年と武器の持たない町娘がいた。萌黄色の麻のワンピースを着た少女は場違い感が否めない。
誰かの妹だろうか。
兄が心配で様子を見に来たとか、そんな様子にティターは戸惑った。
「ご覧のとおり、今代勇者パーティは年齢層が低いので。保護者代わりということですかね」
「はあ…そうなんですね」
保護者が必要な勇者パーティなど聞いたこともない。
歴代の中でも突出した変り者パーティだ。
自分たちが歴代最強の称号を手に入れたから次代はイロモノでいいと思われたのだろうか。
「おい、ティター。あっちの聖女さまと交代してくれ。力は強いが配分がうまくない」
リザードマンと前線で戦っていたミッドイが戻ってきた。
綺麗な紺色の髪は泥で汚れて見る影もないが、金色の瞳は燦然と輝いて力強さを感じる。まだいけるようだと、安堵する。
「無理しないで、適度に休憩するのよ。ああ、ミッドイ。こちら、今代の勇者パーティで…」
「ようやく全員到着か。随分と遅かったから逃げちまったのかと思ったぜ」
「すみません、伝達が遅れたんですよ。で、戦況はどうなっていますか?」
「半分くらいは退治できたと思うが、沼地に隠れているのがまだまだいそうだ。時間がかかりそうだな」
「聞いた通りですが、どうするんです?」
カテバルは少女に尋ねた。
少女はミッドイが現れた時から嫌そうに顔を歪めている。
「服って汚れるの?」
「え、服?」
少女がぽつりとこぼした言葉にティターは思わず聞き返していた。
「そりゃあ沼地だから汚れるだろう。蜥蜴ヤロウたちも泥ついたまま飛び跳ねるし、襲い掛かってくるしなあ。で、そんな危ないところにこんなガキをどうして連れてきたんだよ」
「あーいや、彼女が今代勇者なんで…」
カテバルの説明にミッドイが固まった。
もちろん自分だって信じられないことを聞いた。
「え、え? この子が、勇者なの?!」
「はい。先日、正式に陛下から任命されました」
「なんでだよ、今年はパーギーやダウタロスやスウって猛者揃いだって聞いたぞ。それでなんでこんなガキが勇者になるんだよ」
「そうですよねー、信じられないですよねぇ。実際に試合を見ていた俺も今でも信じられませんからね」
カテバルが困惑したように頷いているが、試合を見ていない自分たちは全く信じられない。
「こんなに小さいガキに何ができるって―――」
「触らないで」
おもむろに少女に伸ばした手をミッドイは止めた。
頭を撫でようとしたか、手を掴もうとしたか、とにかく非力に見える少女に手を伸ばしただけで、危害を加えるつもりなど毛頭なかっただろう。
だが、少女の拒絶は硬質で、圧倒的に強者の覇気に満ちていた。
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