レイとの鍛錬

 その翌日から剣聖レイの指導の元にトールは剣の教えを受けた。

 準備体操、走り込み。重りを持っての走り込み。鍛錬というのは面白みもないものである。 だが往々にして世の中そういうものだった。そしてひたすらに剣を振るう。振り下ろし。横払い。突き。いくつもの型をひたすら身体に覚え込ませる。どれもが単純な作業である。

 そんな鍛錬を一週間ほど続けた頃の事だった。地味な鍛錬ばかりではあるが、それでも魔法の鍛錬よりは良かった。魔法というのはある意味1か0かの世界であるように感じる。才のない者はその才がない事が簡単にわかってしまう。例えば、ある魔法を使う場合、使える側に比べて使えない側は劣ってしまうのは自明の理であった。

 それに比べたら剣の鍛錬はそういった世界ではないようにトールは感じていた。まだ肌に合っているような、そんな気がしていた。

「よし。それでは次はこいつを斬ってみるか」

 そういって剣聖レイは大岩を指す。トールが手に持っているのはただの剣である。その材料はブロンズ(銅)であり、それなりに質が良いものではあるが、それでもあんなものを斬れば折れてしまいかねない。

「あんなもの斬れるんですか?」

「斬れる斬れないではない。斬ろうと思って斬る事が肝心なんだ。人間やってやれない事もない、という事だ。とにかく、試してみろ」

「はい」

 トールは剣を構える。その姿にレイは風格のようなものを感じた。ただならぬ気配を感じる。まだ教えて一週間ほど。それも基礎的な事だけだ。それなのにトールの構えは洗練されていた気がした。

「はあああああああああああああああああああああ!」

 気合一閃。

 剣が振り下ろされる。

「な、なに!?」

 岩は両断――とまではいかないが、半分程度に断裂された。

「はぁ……やっぱり上手くはいかないか」

 今の衝撃で剣は真っ二つに折れてしまった。とはいえ、大したものではない。代わりならいくらでもある。

「どうかしましたか? 師匠?」

 そう、トールは聞く。

「いや、何でもない」

 レイは言った。

 それからトールが岩を両断できるようになるまで大凡一ヶ月の時間を要した。


 レイは物思いに更けていた。自分があのサイズの岩を両断できるようになるまでにかかった時間はどれくらいなのか。一ヶ月では出来なかったように思う。

 三ヶ月、いや、半年か。

 ともかく、トールは自身を超えるスピードで成長しているのは確かだった。

 これはとんでもない化け物を拾ったのかもしれない。そう、レイは思った。


 それからレイは実戦的な講義に入る。

「トール、お前は魔法を使えないかもしれない。だが、事、戦闘においてお前が必ずしも魔法使いに劣るという事にはならない。それがなぜだかわかるか?」

「わかりません」

「魔法は絶対的なものではない。例えば、回復手段が必要だったらポーションがあれば出来るだろう。それともうひとつある。あいつ等は火を放ったり、氷を放ったり、まあ、ある程度パターンがある。それを代用する事だって可能だ」

「代用?」

「見てみろ。この剣を」

「はい」

 目の前にはカカシのような標的が立っていた。

「はあああああああああああああああああああああああああ!」

 レイはそれを斬った。そしてただ斬っただけではない、燃え上がったのだ。それはまるで火炎の呪文のようだった。魔法使いの。

「師匠、どうして燃えたんですか?」

「魔法剣だ」

「魔法剣?」

「ああ。正確には魔法属性の付いた武器だ。俺自身、別に魔法は使えない。だが、武器によっては魔法属性のついた武器もあるし。中には銃のようにシリンダーがついていて、使い切りではあるが魔法属性をつけられる武器もある。その類いだな。このフランベルジュには炎属性の魔法がついている。だから対象を燃やせるんだ。だが、魔法使いのようにMPさえあれば発動できるわけではないし、種類を自在に選べるわけではない。あくまでも武器の効用だからな。ただ、魔法使いみたいにMP切れを起こす可能性がないっていうのがメリットではあるな」

 レイはそう説明する。

「へえー」

 感心したようにトールは言う。

「それでも勿論魔法使いの優位性は多い。だが、諦める事はないって事だ。剣士は剣士のメリットがある」

 そうレイは説明する。

「はい! 師匠!」

 トールは言った。


 それから鍛錬の時が過ぎる。大体、1年ほど過ぎた頃だった。レイの元に弟子入りをしてから一年の時が過ぎた。

 ノーレス山脈。トールの住んでいる地帯から北方に数百キロほどいったところにある山脈である。凶悪なモンスターが出現すると言われている危険地帯である。

そのの頂上付近にはさらに凶悪なモンスターがいた。

 竜である。地竜。アースドラゴン。緑の鱗をした竜である。

 LV的には90程度。

 人類の中でも限られた達人しかソロでは倒す事の出来ない凶悪なモンスターである。

 特筆すべきはその硬い鱗であり、並の攻撃ではまず攻撃が通らない。

 次に凶暴な爪であり、そして炎のブレスである。竜という事で知能も高く、遭遇したら逃げるより他にない相手だった。

 しかし、崖から一人の少年が姿を現す。剣を持ったトールの姿だった。その姿は逞しくなっており、目には輝きのようなものが見えた。

 それは魔法学院を退学になった時、死にそうな目になっていたかつてのトールの姿ではなかった。

 トールは崖から降りる。降りる力、自重を利用し、アースドラゴンの背中に剣を突き刺す。 ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!

 アースドラゴンは悲鳴をあげた。

「雷(サンダー)」

 その剣は魔法属性が付与(エンチャント)されていた。肉に突き刺さった剣から稲妻が放たれる。

 ギャアアアアアアアアアアアオオオオオオオオオオオ!

 アースドラゴンは断末魔のような悲鳴をあげて絶命した。


「やりましたよ! 師匠!」

「おっ、おう、そうか」

 アースドラゴンの頭を持って、トールがレイの元へ向かう。レイは感じていた。トールが既に自分の力を超えているという事を。

 そしてレイは感じていた。これもまた、自分の運命なのかもしれない。大きな大戦が起こる気配がしている。

 その為に、この少年は世界から与えられた贈り物(ギフト)なのかもしれない、と。


 ある日。レイはトールに制服を渡した。

「師匠? これは」

「この山を降りた麓に王国がある。王国アルドノヴァ。その王国に剣士学院がある。お前はそこに通うんだ」

「え? 師匠。ですが、僕はもっと師匠から学びたいです」

「俺が教えられる事は限られている。お前にはもっと広い世界を見て貰いたいんだ」

「……そうですか。師匠がそうおっしゃるなら」

「それと、餞別代わりだ」

 レイは剣を渡す。

「これは……」

 それは見たこともないような剣だった。

「それはここより遥か遠くにある東の国に伝わる伝統的な剣だ。日本刀というらしい」

 なめらかな剣だった。

「剣の銘はタケミカヅチ」

 タケミカヅチ。

「俺の愛刀だ」

「……そんな、師匠。そんなもの頂けません」

「いや。いい。これはお前が持っておくべきものだ。その刀でお前は多くの人を救うんだ」

「師匠」

「今日はもう遅い。一晩寝て、明日から学院に向かうんだ。住まいの事なんかは学院長に話が通してある。あいつは俺の友達だからな。話は通じるんだ」

「は、はい! わかりました師匠!」

 こうして、トールは剣士学院に通う事が決まった。


 タケミカヅチの設定。魔法剣でもあり、いくつかの属性魔法が封じ込められている。それを任意に選択可能。雷以外の属性も使用可能。火、水、風。

 基本的な4属性を使用可能である。

 設定メモ。

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