奇跡を起こせ!

「さあどうする? 魔道士の皆さんもそろそろ魔力の限界に達しているようだが、手遅れになる前に場所を空けてくれないと、後悔することになるぜ?」


 実際、ロベルトの治療をしている6人の魔道士は皆、苦悶の表情を浮かべており、魔力切れで倒れる寸前の者もいる。

 一方でパーティの仲間が口にポーションを流し込んでいるが、そんなものが役に立つはずもない。

 

 ロベルトの命は風前の灯火だ。



「いや、しかし……お前はどうやってロベルトを治療するというんだ? お前は荷物持ちしか能がねぇー奴だろうが!」


「俺にはこれがある」


 指でつまんで取り出したのは、セシルからもらってきたポーションの小瓶だ。

 


「はーっ? 馬鹿かおめぇーは!」

「そんなモン1本で治るならとっくに治ってんだよ!」

「それにその瓶の形、この街で売っているヤツと同じだよな? さっきからそれを何本も飲ませているが、ぜんぜん効果がないぜ! 不良品なんだよ、この街のポーションはよぉー!」


 そう吐き出すように言い放った男の目には悲壮感が漂っている。


 そんなこと言うとリズが怒り出すからやめてほしいのだが、幸い彼女はギルド事務所の人たちと何か言い合いになっているからそれどころじゃなさそうだ。

 決闘の立会人として、セシルが俺に加勢するのを認めたことが問題になっているんだろうか。


 リズには申し訳ないと思っている。

 いや、ほんと。すまん。


 彼女に向かってそっと手を合わせている間に、男どもの様子が少し変わってきた。


「だがよ……この街の不良品に比べれば、レンがいつも持ってくるポーションは効き目が強かったよな?」

「確かに!」

「――って、か、勘違いすんなよ! べ、別におめぇが役に立っていたなんて言ってる訳じゃないからな? ただ俺達はおめぇが運んでくるポーションが……」

 

 いやいや、男のツンデレなんか需要ねぇーから止めてくれ!


 

「――うぐっ」

 そんな変な雰囲気になりかけていたその時、魔道士の一人が倒れ込んだ。

 すると、他の5人も次々に苦悶の表情を浮かべて膝をついていく。


「さあ、どうする? このまま放っておくとロベルトは助からないぜ? だが俺のポーションなら奴を助けられるんだ! その代わりに今後一切、俺とセシルに関わらないで欲しい。どうだ?」


 これは最終警告だ。これでもダメなら潔く俺は撤退するつもりだ。


 すると、ガチガチの甲冑を着込んだタンクが、

「その薬をリーダーに飲ませてやってくれ……頼む!」 


 長身の剣士が、

「もしリーダーを助けてくれるなら、俺たちはもうあんたに手出しはしない。だが、もし駄目だったら覚悟するんだな。レン! あんたの薬に俺たちパーティとあんた自身の命運がかかっているんだ! 最後に一花咲かせて見せろ!」


 ――言質はとった。


 これがセシルを騒動に巻き込んじまった俺にできる、最大限の罪滅ぼしだとは――


 我ながら情けねーぜ!


「よーし、分かった! 皆、ロベルトから離れろ! 今から奇跡の瞬間というやつを見せてやるぜーッ!」

 

 俺の派手なパフォーマンスは観衆の目を惹き付ける。

 そのまま魔女の存在なんぞ、忘れてしまえ。

 

 虫の息となっているロベルトの頭を持ち上げ、瓶の中身を口に注ぎ込む。

 魔力マナが食道に流れ込み、身体全体へと広がって行く。


「ごふっ」


 息を吹き返す。

 死人が蘇るとアンデッドだが、瀕死の状態から復活すれば奇跡の生還だ。


 パーティの仲間たちがロベルトに駆け寄り、観衆からは歓声が沸き起こった。

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