臨戦態勢

変換チェンジ!」


 何とかギリギリのタイミングで火力を無効化した。


「ん!? この女、リーダーに向かって何かしましたか?」


「爆裂が何とかって言っていたなぁー? お前らも聞いたか?」 


「言ってた、言ってた! 回復系魔法も満足に使えねぇ、出来損ないの女神官が、我らがリーダー様に爆裂魔法をかけようとするなんざ、百万年早いってもんだ。なぁー、みんな! ガハハハハハ」


 ロベルトの回りにいたが男達が笑い出す。


「えっ、あれ? わたし……あれ?」


 手から杖が離れて床に転がる。魔石はもう光を放ってはいない。

 セシルは、自分が何をやったのかが分からないといった様子で、あわあわと口を押さえてその場にしゃがみ込んでしまう。


 するとロベルトがスッと立ち上がり、男達の笑いを押しとどめる仕草をする。

 セシルのそばに歩み寄り、片膝を付いて肩に手を置いた。

 ビクッと肩を振るわせて、セシルが目を見開く。

 その耳元に口を寄せて行き、


「なあセシル……今のは何の余興だい?」

 

 皮肉たっぷりの言葉を投げつけた。

 一度止められた笑いが、今度はどっと沸き起こる。


「今の行為は立派な犯罪だ。俺が訴えればキミは良くて国外追放、最悪死刑になることだってありうる。だが、キミがおとなしく俺に付いてくるなら見逃してやろう。どうだセシル! レンのことなど忘れて、俺だけを見ろ! キミを幸せにできるのはこの俺だけだ!」


 続けてロベルトはそんなことを言っている。

 周りの皆はゲラゲラ笑うのに夢中のようだが、あいにく俺は地獄耳なんだ。


「で、でも……私はレンさんを……」


「あの男はキミを不幸にするだけだ! 俺に付いてくるなら好きなだけ金をやろう。何なら魔道士をいっぱい雇い入れて、キミが魔道士隊のリーダーになると良い。きっと楽しいぞー?」 


 両手を広げて、必死の形相でセシルに迫る。

 セシルは身体を反らしてズリズリと下がっている。


 ここにきてようやく、二人の異変に周りの者たちも気づき始めた。


「おいおい、結果的に魔法は不発だったけどよ、その女はリーダーを殺そうとしたんだぜ?」

「このままパーティに置いとくなんざ、他の者への示しがつかねぇぜ!」

「そうだそうだ! この女も追放しようぜ!」


「いや……しかし……」


 仲間たちの不平不満の声が飛び、ロベルトはぐうの音も出ない。


「そもそも、その女は大してパーティの役に立っていなかったのに『俺の女にする』って意気込んだリーダーが無理矢理パーティに加えたんだよな? そんな女に殺されかけたんじゃ、魔女殺しの英雄の名に傷がつくぜ?」


「ううむ……しかし……」


 とうとう頭を抱えてしまうロベルト。


 は? なにその話?

 俺が孤児院で働くセシルをロベルトに紹介したとき、裏ではそんなやり取りがあったの?

 

 だが、俺以上にその話にピクリと反応したセシルが、ゆらりと立ち上がる。


「ロベルトさん……今の話……どういう訳ですか?」


 床にひざまずき頭を抱えてたロベルトを、ギラリと光る目が冷たく見下ろしている。


「魔女殺しの英雄って……私たちは魔女討伐の途中で、レンさんを囮にして逃げ帰ってきただけじゃないですか! それがどうして英雄になっているんですか?」


 あ。そっちかーっ!

 そっちをバラしちまうかーっ!


 冒険者ギルドの事務所の奥がざわつき始めている。


「もし、この中に魔女殺しの英雄と呼ばれる人がいるならば――」


 キッと俺の方を向いた。


「レンさんこそ、魔女殺しの英雄のはずです!」


 や、やめろーっ!

 俺を指差すなーっ!

 

 そして、フレアは臨戦態勢に身構えるんじゃなーい!

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